社会性のあるアイデアに注目。伊藤忠インタラクティブの「カンヌライオンズ2023」視察レポート
1954年の設立以降、毎年6月に南仏・カンヌで開催される広告・コミュニケーションの祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」。世界三大広告賞とも呼ばれるアワードショーで、世界各国から2万点を超えるエントリーが集い、その年の受賞作品が選出されます。
伊藤忠インタラクティブ株式会社(以下、IIC)では今年、カンヌライオンズへの現地視察を実施。今後の事業に活かすため、最先端の広告・コミュニケーションの傾向と特徴を体感してきました。今回は、現地に赴いたアチーブメントデザイン事業部のメンバーに、イベントの様子とインスピレーションを受けたアイデアなどを聞きました。
◎interviewee ----------------------------------------------------------------------
・アチーブメントデザイン事業部 本質デザイングループ
長岡 仁(グループリーダー)、水谷正紘、金児由太
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■「従来のパターン」にとらわれない新しい視点を求めて
―― カンヌライオンズへの視察を企画した目的について教えてください。
長岡:お客様とさらなる成長をするために、IICの視野・視座を最新にアップデートするのが目的です。現在、日本のクリエイティブは国内マーケットで完結してしまう傾向にあり、「もっとグローバルな視点で展開したい」という思いを強く持っていました。特にコロナ禍では、社会的に「価値のパターン化」が強まってしまったようにも思います。
カンヌライオンズは世界のマーケティングコミュニケーションをリードする存在です。各国のクリエイティブに触れ、ノウハウを蓄積することで、従来のパターンから抜け出し、インバウンド拡大につなげられるのではと期待して視察を企画しました。
今回の視察に赴いた水谷さんと金児さんは、企業のブランディングやマーケティングの案件に幅広く携わり、経験も実力も備わっている二人です。「彼らが行くことで、今後のビジネスにつながるだろう」という確信を持ってアサインしました。
―― アサインされたお二人は、どのような意気込みでカンヌに向かいましたか?
金児:受賞作品は毎年チェックしていたので、実際に現地で見ることができる機会をいただいて、純粋に「嬉しい」と感じました。
水谷:私は普段から事例を基にしてアイデアを模索することは少なく、カンヌライオンズのようなアワードも意識したことはありませんでした。しかし、実際に現地で素晴らしいアイデアや意義深い結果、強い熱量に触れ、大きな衝撃と刺激を受けることになりました。機会をいただけて本当に良かったと思っています。
■クリエイティブ漬けの5日間。最先端のアイデアとトピックスをインプット
―― 現地ではどのようなスケジュールで過ごしたのですか?
水谷:6月19日~23日の期間、朝から晩までさまざまなクリエイティブに触れて過ごしました。期間中は200近いセミナーが開催されていて毎晩、タイムスケジュールをチェックし、「明日はどのセミナーに参加するか」を検討。会場ではセミナーを聞いたり、予選を勝ち抜いたショートリストが展示されているコーナーで考察したりして過ごしました。
セミナーでは、「生成AI」や「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」をテーマに取り上げている企業が多く、注目度が高いトピックスであることが改めてわかりました。
金児:「広告費」を話題に取り上げているセミナーもあり、海外と日本の違いが明確になりました。海外では、「メディアを活用して伝える」という意識が強く、クリエイティブや広告に使う予算の割合が大きいんです。日本は、クリエイティブへのこだわりや技術は高く、世界と戦えるレベルにあるのですが、「伝え方」への意識や予算配分はまだまだ低いと感じました。普段、プロデューサーとして案件に携わることが多いので、今後の参考になる内容でしたね。
水谷:毎日19時になるとアワードの表彰が始まるので、欠かさず見に行っていました。そこで聞いた受賞作品の解説を踏まえて、改めて作品を見返すことで、より理解が深まりましたし、アイデアに必要なノウハウが鮮明になっていきました。授賞式の後は、日系企業が独自に開催していた懇親会や勉強会にも参加しました。中には今年の審査員として参加していた方をゲストとして招いた会もあり、審査の様子やどのような議論を経て受賞に至ったのかなど、貴重な話を聞くことができました。
■社会課題解決を目的としたクリエイティブに高評価。印象に残った2つの受賞作品
―― 印象に残った作品について教えてください。
水谷:最も印象に残ったのが韓国警察庁の「Knock Knock」です。韓国で急増しているDV(家庭内暴力)の課題解決を目的とした「声を出さずに通報できるシステム」が高く評価され、グランプリ含め、複数の賞を受賞しました。
DV被害者は加害者と同じ空間にいることで、通報できないことが社会課題として挙げられています。そこで韓国警察庁では、日本でいう110番に電話をかけた後、任意の番号を2回タップすることで起動し、現在の状況や位置情報を警察に通知できるシステムを構築。クリエイティブとITを生かしたアイデアで、社会に大きなインパクトを与えました。
革新的なアイデアはもちろんですが、それを恒久的な仕組みとして社会に浸透させたということにも感動しました。一つのアイデアを広く浸透・定着させることは非常に難しく、実現までに数えきれない組織との交渉があったはずです。さまざまなハードルを乗り越えて、大きな課題解決につなげていったことに衝撃を受けましたね。
金児:私はAppleが制作した「The Greatest」に感銘を受けました。ハンディキャップを持つ人々が、iPhoneやApple Watch、Macなどのさまざまなアクセシビリティを活用する様子を描いたショートフィルムで、高評価を得て複数の賞を獲得していました。
製品広告の多くは、「この製品のこの機能を訴求したい」という企業のエゴに偏りがちです。一方でこのショートフィルムでは、障がいを持っている「人」に焦点を当て、デバイスを使って各々の人生を楽しんでいる様子が、とてもかっこよく表現されているんです。制作スタッフにも障がいを持つ人が参加していて、ストーリーとしての深い見応えを感じました。新しい広告の作り方、考え方だと感じました。
■権威あるアワードショーから得たアイデアを今後のビジネスにつなぐ
―― カンヌライオンズで得た感動や学びを、今後どのように生かしていきたいですか?
水谷:現地で得たヒントやモチベーションを、実際の仕事に落とし込んでいきたいです。今回の視察では、社会課題を解決しながらもビジネスとして収益性のあるクリエイティブが高く評価されていることを実感しました。一時的なキャンペーンにとどまらず、持続可能な仕組みを作ることは、簡単ではありません。しかし、総合商社である伊藤忠グループなら実現可能だと考えています。お客様と密につながりながら、社会性と経済性を兼ね備えたクリエイティブを作っていきたいです。
金児:私たちが得てきたアイデアに、「面白い」と共感してくれるクライアントを増やしていきたいです。やはりカンヌで評価されるようなアイデアは、クライアントを巻きこまないと実現するのは困難。企業が抱えている課題を社会課題に結びつけ、どのように解決する仕組みを作るのか。そしてどのように利益につなげていくのかを、積極的に提案していきたいと考えています。
長岡:世界的に最新鋭かつトップクラスのアイデアとクリエイティブに間近で触れたことによって、二人の熱量も上がったと感じています。今回得た気づきやアイデアを、今後の仕事に活かしながら事例を作っていってほしいと考えています。
社会性のあるクリエイティブや、グローバル視点でのアイデアをご検討の方は、ぜひ一度ご相談ください。