シュウチュウコウゲキを仕掛けろ|小澤南穂子【ヒコウキグモ】
はやくも小屋入り3日目である。
スポット撮影。
緊張感と、それに置いていかれるわたし。

やってることは場当たりと変わらないけど、なんか変な感じだった。
場当たりみたいな本番…?
いや、その意識…よくないよな…。
???
今日のことが、いったい「どんな風になるのか」って全く想像がつかずに、ただ、消えないように消えないように線香花火揺らしてるみたいな感じ。
照明がきれいだったな〜。
明日はもっと落ち着いてやりたいという気持ち。今日は朝から頭がボーッとして、何故だか自分がそこにいるのにいないみたいだった。
なんじゃそりゃ。
戦場シーンでよくあるやつかな。
ピュシューンピュシューン!!
飛び交う銃弾。倒れていく歩兵を背に進む騎馬隊と、手綱を引く主よりも先に立てなくなる馬の嗎を背に、私は震えていた。武者震いではない。ただ、怯えた少女のように足がすくんでいたのだ。
「母さん!」
まだ子供の兵士が打たれた。それは昨夜耳にした美しいフルートを奏でた少年だった。話をしたことはない。
「将軍!敵はすぐそこまで来ています。川までおびき寄せ、シュウチュウコウゲキをしかけましょう。・・・将軍!?」
私は、その名を呼ばれて再び我に帰る。消化しきれていない昨夜の芋が、食道を登ったり降りたりする。集中攻撃。敵を全員一人残らず撃ち殺すなんてできるのか。「軍曹、私は」
言いかけてうちを閉じる。私は今、雨の日に沼にハマった子供のように、身動きが取れない。優勢なのか、劣勢なのか。それすらもわからない。目の前に見える荘厳なはずの景色は、流れる車窓と同じくらいぼんやりとしている。
「将軍!将軍!しっかりしてください!将軍」
「もう寝る時間だぞ、軍曹。眠るしかない。しっかりリンパを刺激して、ストレッチして、着圧ソックスちゃっかり履いて寝るんだぞ。いいな。」
「何を言ってるんですか、将軍!」
本当に何を言ってるんだか。
しっかり頭冴えさせて明日は美しくスポット撮影に臨めるように、今日はしっかりケアして眠る。
場当たりがある。
失敗しないぞー…。
さっきからみぞおちの部分がぼやぼやする。
失敗しないぞー…。
正直に言い過ぎだろ。
失敗しないぞー…。
改めて、こんなこと言っていいタイミングじゃないけど、でもたぶんそれは、実際に見えないとわかんないから、言うけど、
今、どこに、向かってるんだっけ…
お知らせ
2020年10月に予定していた『器』の上演を、無期延期とさせていただくことになりました。詳細はこちら。
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