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赤い花〜『プロテウスの鋏』 著者:小富 百 レビュー

お題小説の企画です!

 お題小説のレビューです📖
 ここ最近は連歌とお題小説がすっかりお気に入りになってしまいました。

 今回はまず私、雨の粥から小富 百(ことみ もも)さんへのお題です。


 私からのお題は‥


「妹がよかれと思って親友の瞼を鋏で切ってしまうお話」


 ‥でした。


 はい、私からのお題はたいてい長いです💦

 実は私も二十歳すぎの頃に同じプロットで短い小説を書いたことがあります。

 ちなみに私バージョンは‥

妹から兄への手紙に、妹の親友が悪夢にうなされているのを知って、眠らなくて済むようにしてあげたかったのだと書かれている。

 ‥というお話でした。十年以上前なので残念ながらもう残っていません。


 小富 百さんバージョンはというと‥「週末は、きらきら綺麗な宝石探しへ」
 というお話になっています。さぁ、この時点で不吉で不穏な予感しかありませんが果たして……


タイトルにあるプロテウスとは‥

 プロテウスというのは、ギリシャ神話の大地母神ガイアと、ガイアが一人で生んだ子であり原初の海神ポントスの間に生まれた子です(ギリシャ神話では親子婚がたびたびあります)。

 魚の尾が生えた体に獅子・鹿・マムシの要素を併せ持つ……と、なかなか複雑な異形の姿を持つ神ですね。兄弟神達とともに「海の老人」と呼ばれ、ポセイドン以前の太古の海の支配者だそうです。

 次項で触れますが、このお題のキーパーソンである妹が曾祖母にそっくりというところから、おそらく『プロテウスの鋏』というタイトルは来ているのではないでしょうか。


メインの登場人物3人

「妹が親友の瞼を鋏で切ってしまうお話」なので、登場人物は3人ということになります。妹、親友、そして姉です(私ver. では兄でしたが)。

 まずは姉の由佳、中学二年生。この由佳の視点で物語は進んでいきます。美術部で似顔絵を描きあったりしている、という描写があり芸術家タイプな印象。妹思いのお姉さんです。

 妹の梨花は小学校1年生。とても美しく可愛らしい。クラスでは優しい優等生タイプで、放課後は学童に通っています。詳細は違えど母方の曾祖母は地母神ガイアで、梨花がプロテウスという位置付けかと思われます。ちなみにプロテウスは変身の力を持つことで有名です。

 そして今作のヴィランであり真のメインキャラは姉の親友のサキです。由佳とは幼稚園の頃からの付き合いで、姉妹の数軒隣の家に住んでいます。一人っ子で兄弟姉妹はなく、梨花に執心な様子が序盤から描かれます。長い髪を赤いゴムで縛った明るく元気な体育会系タイプです。


事件の発端から張られた伏線‥

「由佳は学童の中で待つように云うが、梨花はいつも砂利道で待っている」
 例えば序盤、上述の状況が提示されます。この砂利道は物語の主な舞台になります。

「へえ〜学童で待たないのか〜…。でもちょっと気持ち分かるかもー」
「ええっ何で?」
「だってアタシもあそこ結構好きだったよ。綺麗な宝石とか落ちてないかなーって思っていっつも探してたもん」
 まっあり得ないんだけどね。

小富 百『プロテウスの鋏』

「あり得ないんだけどね」というサキの発言の真意も後には違った様相を帯びるのですが、いつも砂利道で宝石を探していたという本編で直接描かれていない過去も気になりますね。

 ここからしばらく、3人で遊ぶ約束をした週末の場面に向けて、伏線が貼られていきます。
 梨花が意外と約束を守らない、由佳の引き出しを漁っているらしい、などなど……。私的には自分が書いたバージョンで妹がヴィランだったこともあって、勝手にミスリードされてしまいました💦


物語の核心に触れて

 やはり終盤の場面からも引用しておきたいです。「異様だったけれども異形ではなかった」というその鮮烈なルビーの赤のイメージがやはりこの小説の一番美味しいところだからです。
 祈り、という辺りにオカルティックな血の涙を流す奇跡の像の話ようなグロテスクさを感じるのですが、如何でしょう。
 ずっと考えているのですが、「サキ」という名前はどこから来ているのでしょうね。一つ思ったのが昨今では夢魔とされることが多いサキュバスで、異説に拠れば己の内に氷の洞窟を抱えるセイレーンだそうです。

 瞼を切り取られて目も開けられないまま、てんで別の方向に向けて優しく私に語りかけるサキはあまりにも異様だった。けれどサキはサキだった、異様だったけれど異形ではなかった、サキはサキ自身だった。それが酷く恐ろしかった。

(同上)

「梨花ちゃんに、なりたかったの」
(中略)
「これは私の祈りなの」

(同上)


最大の謎、赤い花の花言葉‥

 最後に今作の最大の謎に触れてレビューを締めたいと思いマス🍀
 凶行が行われる前、由佳がサキの家の庭で遊ぶ妹と親友の姿を思い浮かべる場面。ここは映像的にいうなら最も儚い美しさを湛えた場面になるかと思われます。

 さて最大の謎は由佳が名前を忘れてしまったという、庭に咲いている赤い花です。

 著者である小富 百さんは作中花言葉に意味を持たせることも多いので、きちんと設定した上で敢えてぼかしているのではないかと思うのですが、メインキャラ3人の関係性に思いを馳せながら花言葉を考えるのも一興かと。

 サキの家の広い庭でサキと梨花が追いかけっこしている様子が目に浮かぶようだ。サキの家の庭にはサキが好きだという赤い花がたくさん咲いている。名前はもう忘れてしまった。

(同上)

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