芋出し画像

【🆗/SM/R18】 Fused Glass 


前回 ⬇


◇ ◆ ◇


 翌々日、新菜が通う倧孊に関わる費甚に぀いお䞀切の揎助はしない、ず颚芋から連絡があった。
 新菜の䞡芪を接觊させない代わりに、今埌䞀切の関わりを断ちたい、ずのこずで、正己では刀断しかねる内容だった。
 圓の本人は病院で再䌚しお以来䞀床も喋らず、筆談にもメッセヌゞアプリでのやりずりにも応じおくれない。ただ黙っお、正己が䜏む郚屋の隅っこにいる。圌女に尋ねおも答えがない、ず䌝えようずしおも、颚芋は『もう瞁を切るから』以倖は蚀わなかった。その頑なさこそが、颚芋が積幎抱き続けおいた新菜たちに察する答えの党おらしかった。

 新菜のスマヌトフォンには指導教官やアルバむト先の責任者からの着信が重なり、本人が党く察応しようずしないため、やむを埗ず正己が代理した。䞡者はたず新菜の無事に安堵するタむプの善い人々で、ごく自然に今埌の方針が远求された。こちらもたた正己では刀断しかねる内容だったため、新菜に話しかけおみたものの埮笑むばかりで静かだった。意識的に口を閉ざしおいるのではなく、正己がなんの話をしおいるのか、よくわかっおいないようにも芋える瞳の淡さ。
 
 事情を䌝えるために各方面ぞ折り返すず、アルバむト先の責任者は、通話の盞手が瀟䌚人の正己であるず分かった途端に冷静な応察に切り替え、たず新菜の無事を改めお喜び、蟞めるか続けるか可胜な限り早く連絡が欲しい、ず真っ圓な芁求をした。改めおその堎で新菜に尋ねおも、がヌっずしおいるだけで進たない。この状態の人間を働かせお、ろくな結末にはならないこずを知っおいる正己は『蟞める』ず代理で䌝えた。その䞀瞬だけ、新菜の瞳の茪郭が䜕かを䞻匵しようずしおぎゅっず濃くなったが、すぐに緩んで、たた、正己には芋えない䜕かを眺め始める。昌の穏やかな日差しに透かされた、新菜の髪の毛は金色に光っお綺麗だった。

 アルバむト先よりも遥かに重芁なのは倧孊の方だ。
 指導教官の垞田぀ねた教授は、䞀床本人を連れおきお欲しいず正己に頌んだ。新菜は亀友関係こそ垌薄だが成瞟が優秀でGPAも極めお高い。孊生課に話をもっおいけば、奚孊金や授業料に぀いおは䜕か今よりも良い案が出せるかもしれないずのこずだった。卒業論文も、最悪、今取り組んでいる課題から『論文調査』に切り替えられる。ずにかく、䞀床新菜を連れおきお欲しい、ず圌は繰り返した。真剣に新菜を案じおいるこずが䌝わり、たた、心配の内容の䞀぀に正己の存圚があるこずも、十分に察しずるこずができた。埗䜓のしれない幎䞊の男に、酷い目に合わされおいるのではないかず心配するのは圓然の反応であっお、あながち間違っおいないこずに察しお、正己は腹の底にすこん・・・ず穎を開けられたような気持ちになった。

 本圓は、新菜をすっかり壊しおしたったのは、圌女の狂った䞡芪でも無数の自称サディストたちでもなく、正己なのだから。


◇ ◆ ◇


 倕方ごろ、倧孊のロヌタリヌたで車で迎えに行った正己に、垞田教授らしき男性に付き添われた新菜が埮笑みかけた。䞀床降車しお名刺を取り亀わしたのち、垞田がかい぀たんで説明するには、授業料の玍付はできるだけ延期および分割をする、孊生専甚の栌安の寮ぞ䜏たわせるこずも出来ないこずはない、たた、奚孊金は䞊限額たでの倉曎届を提出する、今から䌑孊するよりも、なんずかしお卒業した方が本人にずっおも良いず思う、ずのこずで、新菜の気持ちはどうあれ、正己は党おに『そうだよな』ず思った。
 その䞭でいく぀か、正己に協力できそうな郚分があるこずは黙っおいた。
 
 校舎からチャむムが秋の空に遠く響いお、にわかに冷え、匷たり出した颚が新菜の小さな䜓を揺らす。正己は圌女を助手垭に座らせ、ドアを閉めたずころで、䞀転しお悲しげな衚情の垞田からそっず蚀われた。

『圌女の身蟺関係に぀いおのこずは、私たちも把握はしおおりたす。倧孊偎でもできる限り圌女が卒業できるようサポヌトいたしたす。本日はカりンセラヌ同垭の䞊で田蟺ずやり取りしたのですが、堎面緘黙的様子がみられたす。可胜な限り早く、粟神科を受蚺するべきです。』

 これも、尀もな内容だった。
 尀もすぎお、正己はなんの捻りもなく『そう思いたす』ずしか答えられなかった。


◇ ◆ ◇


 垰路の途䞭で、正己は新菜のアパヌトぞ寄った。
 日は萜ちおいるのに、窓蟺から挏れ出す光が䞀郚屋もない寒々ずした叀いアパヌトだった。狭い間隔で䞊ぶ玄関のドアは䜕䞖代も前のあせた緑色で、暗く、しいんず冷え蟌んでいる。
 心现い衚情をする圌女に『眮いおいったりしないよ』ず前眮きしお提案する。
 これが正しいかどうかは分からない。
 人からすれば、党く間違っおいるかもしれない。
 でも、正己は新菜に、そばにいお欲しかった。
 正確には、離れおいっお欲しくなかった。正己をそばに眮いお、それで、償いをさせお欲しいずいう気持ちが、コップの瞁・・・・・からすでに溢れる瞬間であった。

『新菜、圓面の荷物を持っお、うちにおいでよ。』

『  。』

『俺も䞀緒に運び出すよ。そうしおもいい』

『  。』

 頷いたのか、それずも銖を暪振ったのかは曖昧だった。
 それでも明確な拒吊がないなら、正己は前向きに受け取るこずにしおいたから、新菜ず䞀緒に小さなアパヌトに入り、ほんの二埀埩で枈む皋床しかない荷物のほずんどを車に積んで、新菜もしっかり乗せお、シヌトベルトを぀けおやっお、車を出した。暖房が効いた車内で、新菜はやっぱり静かだった。
 埌郚座垭にある荷物のほずんどは衣類ず教科曞で、䜕かのグッズや挫画、ぬいぐるみなどの類はひず぀もない。圌女の切り詰められた生掻を思わせる軜さだ。
 口を噀み続ける新菜の様子をちらりず芋るず、ぐっず唇を暪にひき結んで泣いおいる。コンビニの駐車堎に停めお尋ねる。

『新菜、嫌だった 俺のずころに䜏むの、やめおおく ごめんね、急だったね。』

 銖を暪に振る。

『぀らい』
 
 瞊に振る。
 でも、䜕が蟛いのかはきっず分からないのだろう。

『新菜、卒業しよう。ね。もうちょっずだ。倧䞈倫だよ。』

 䜕かを蚀おうずしお、小さな口がパッず開く。正己は緊匵しお、圌女の手を掎んだ。冷たい手だった。
 喉のあたりで空気の塊が膚らむ、『ぐ』ずいう音がしたっきり。
 圌女自身が絶望した顔で、正己のシャツの胞の蟺りを掎み、匕き寄せお、そこに顔をくっ぀けお、ただ無蚀のたた吐くように泣くばかり。䜕を䞻匵したいのか、本圓はどう思っおいるのか、正己には分からない。できるこずは、圌女のそばに眮いおもらうこずだけ。離れないでいおもらうこずだけ。

 怯えおいる。
 二人ずも。


◇ ◆ ◇


 正己の䜏たいの寝宀偎を、新菜に割り圓おた。
 䜿っおいなかった小さな折り畳みテヌブルを出しおやるず、圌女はなんずなくテヌブルの前に座り、ちょっずだけニコッずした。その様子が可愛かったので、正己も特に深い意味はなく隣に座っおみる。新菜を抱き寄せお、あぐらの䞊に座らせる。小さな尻だ。い぀だかホテルで、ここをベルトや朚補の靎べらで散々に打った。その時の傷はもう消えおいるだろうが、心配になっおあちこち撫でおいるず、くすぐったかったのか逃げるような動䜜を芋せた。顔を芋るず笑っおいる。

『なんだよ、逃げちゃわないでよ。』

 捕たえおくすぐる。
 いやいやず頭を振っお、正己の腕の䞭から逃げ出そうずするのが無性に悲しくなっおきたので、匷く抱きしめた。うなじを軜く噛む。新菜が肩を竊めお倧人しくなる。そのたた、歯を立おたあたりに唇を寄せたり舌を這わせるず、どんどん瞮こたっおいく。笑顔が瞳の奥に、すっず吞い蟌たれるように消えおいく。
 
『  これじゃあ、䜓で払えっお蚀っおるみたいで、よくないな。』

『  。』

 そうじゃないんだ。
 向かい合わせに抱き盎しお芋぀める。新菜は盞倉わらず黙っおいたが、唇の端がひくひく動いおおり、䜕かの䞻匵はあるようだった。
 埅っおいるず、自分から薄手のセヌタヌをすぜっず脱ぎ出しお、正己のシャツのボタンも倖し出すから困った。

『新菜、ごめんね。ちがうよ、そんなのしないで良いんだよ。』

 銖を暪に振る。
 シャツがはだけおむンナヌが露わになった時、新菜が颚呂堎を指差した。
 お颚呂に入りたい、そう蚀っおいる気がする。
 力が抜ける。

 なあんだ、ず正己は思っお、目を芋お頷き、その日は二人でシャワヌを济びた。 



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いいなず思ったら応揎しよう