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もうひとつのルビコン川    紀元前48年 ファルサロスの戦い

目の前にある光景…目を覆う惨状...それは完全なる敗北。

この紀元前48年の戦いはカエサル軍の一方的な勝利で終わった。

負けた側のポンペイウスの敗因はなんだったのだろうか。
単なる驕りであったのか。
真相は謎である。

戦力的に勝るポンペイウス側が負けた直接的な原因はカエサル側の戦術であろう。
しかし、その真因となると謎だとも云える。

ラビエヌスの心の中はわからない。後世の人間にはその心情を知る由もない。
ただ物語の読み手として想像するのみである。

ただ、ラビエヌス自身がこの敗北を予知できたかどうかは想像にたやすい。
なぜならば、ユリウス・カエサルの実力を歴史上一番知る立場にあったからだ。

戦術レベルならばポンペイウス軍は圧倒していた。陣形は完璧、軍事の教科書にも載る「カンネーの戦い」と陣形とまったく同じ状況である。
しかもカエサルの軍には騎兵がいない。
機動力、突破力に優る騎兵がいないのである。
開戦前の戦術レベルではポンペイウス軍圧勝。そして戦略レベルでは一大拠点のエジプトからの食糧、援軍の余力もある。
すなわち持久戦に持ち込めばさらに有利な状況を作り出せる。
この状況ではカエサルの敗北は必須だと誰が思う。

しかしラビエヌスの視点からは違ったものが見えていた。

確かに騎兵はいない…
だが騎兵の正面に陣取るのはカエサルの精鋭部隊、ガリアの戦いからのベテラン軍団である。
ラビエヌスの脳裏には軍団長から始まり、百人隊長一人一人の顔を浮かぶ。彼らの気構え、武芸が頭の中で再現される。
一瞬だからラビエヌスはニヤリと笑った。
「彼らの活躍で騎兵を抑え込み、中央本隊で中央突破からの各個撃破か…」
ラビエヌスははっとした。
一瞬であったが、自身がカエサル陣営の司令部の人間に戻った事に対して…

ラビエヌスは自嘲した。
戦いの最中に昔の自分に戻ったことに…
そして、心はまだユリウス・カエサルの元にある事を…

「やはり稀代の英雄だな」
再びニヤリと笑った。

ポンペイウス軍は敗北後にアフリカに逃亡する。
戦術レベルの敗北はきしたが戦略レベルの優位性はまだ保っている。
まだ一大拠点のエジプトがある。

エジプトを目指す行軍の最中、己を省みる。
ラビエヌスにとってこの戦いは、己自身の葛藤との戦いだったのかもしれない…

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