マンガと映画(男はつらいよ お帰り寅さん編)
初めて劇場で“寅さん”を観た
映画館へ「男はつらいよ お帰り寅さん」を観に行った。
これまで寅さんシリーズは、大学を卒業した後、マンガ家になってから、第1作からレンタルビデオで借り、そのほとんどを観たことがある。
さらに映画に先駆けこの一ヶ月あまりで、Netflixで配信されていた「男はつらいよ」全49作のうち特に満男編になった直近をメインに、20本あまりを観直した。
49作すべてを観た上で観る「お帰り寅さん」は、最高だった。少しでも復習しておいて良かった。
「男はつらいよ」50作目は、50年の歴史における1本のエピローグだったから。
同じくNetflixで2019年公開された映画「エルカミーノ ブレイキング・バッド THE MOVIE」は、監督自らこう言っている。
当初は「ブレイキング・バッド」未見の人も楽しませる方法を模索したというが、「そんな方法は見つけられなかった」と告白。「(放送開始から)12年経過してもいまだに『ブレイキング・バッド』を見ていないなら、いまから見ることもないだろう」と開き直り、ファンのための映画に仕上げたという。
「お帰り寅さん」も同じだった。50年、50本の「男はつらいよ」を1本の映画として、「お帰り寅さん」はそのエピローグ。これまでシリーズ1本も観たことない者が観てもどう評価しようもない、ファンのための映画だ。
僕はこれまで、「男はつらいよ」を映画館で観たことがない。しかしVHSで、DVDで、配信で、これまでの49作を追っかけて来た。そしてリアルタイムで観てきたであろうおじさん・おばさん達に紛れ、ようやく劇場で“長い映画のエピローグ”だけを観るのは、幸せな瞬間だった。
劇場パンフレットも買った。
1冊1,200円と、パンフレットとしては高額だが、売店では飛ぶように売れていた。
それもそのはず、「お帰り寅さん」まで含めた全50作の出演者やあらすじ、見どころ、そしてリアルタイムで公開時世間では何が起きていたのか。そんな作品紹介がフルカラーで掲載されている。ファンなら押さえておきたい資料のひとつだ。
50周年といえば
寅さん映画第1作「男はつらいよ」の公開直前、このパンフレット「当時の出来事」によれば、ドラマ「水戸黄門」の放送が始まったそうだ。
同じ年、第2作「続 男はつらいよ」の「当時の出来事」は、「サザエさん」のアニメ放送スタート。
そういえば最近、フジテレビで「サザエさん50周年特番」が放送していたのを思い出した。
さらには、ようやく現物を手に入れた「ドラえもん(第0巻)」。これも帯にかかっているとおり、ドラえもん50周年に合わせて出版された企画物だ。
この年末発表された「第3回さいとう・たかを賞」の受賞作は「レイリ」。
原作・作画と分業するマンガのアワード「さいとう・たかを賞」も、「ゴルゴ13」連載50周年を記念して創設されたもの。
「男はつらいよ」シリーズは、主演・渥美清の死によって1995年、48作をもって一旦終了し、49作目「寅次郎ハイビスカスの花 特別編」(1997年)を経て、2019年「お帰り寅さん」をもって正式に全50作の幕が閉じた。
蘇る寅さん。クリアに再現された過去の名シーン。
それらは現代のCG技術によるものだが、マンガは、アニメは、多くのスタッフによって、作者が死んだあとでも描かれ続ける。それが実写映画とマンガの違いだ。
(さいとう・たかを先生は当然ご存命です。念の為。)
寅さんは、渥美清という「役者」と表裏一体だが、マンガは「絵」であり、作者が死んでもキャラクターは生き残る。サザエさん、ドラえもん、クレヨンしんちゃん……
僕が死んでも、新作が描かれる――そんな存在感の強いキャラクターを創れたら、漫画原作者冥利に尽きるだろう。多くても全4巻という連載が短いキャリアしか積んでいないが、そんなキャラクターに出会うために僕は今日もシナリオを書き、新しい企画書を書いている。
「男はつらいよ お帰り寅さん」への不満
「お帰り寅さん」に関して、100点満点だったかというと、そうでもない。
ひとつだけ不満なことがあったのだ。
それはオープニングテーマを歌う桑田佳祐と、その映像。
「山田洋次監督のラブコールによって実現した」という報道もあり、そこは監督の判断なのだから受け入れるしかないのだが、特典映像やPVならともかく、本編にまで寅さんに扮した桑田佳祐が出て来た時には正直舌打ちした。渥美清演じる寅さんの口上と桑田佳祐のモノマネ口上が重なる演出も含め、モノマネとご本人が一緒に画に映るのは、邪魔に思えた。
その後の満男と泉の話……と言える「お帰り寅さん」なら、桑田佳祐の歌ではなく、満男と泉の青春に彩りを添え続けていた德永英明の曲を聴きたかったな。
第42作「ぼくの伯父さん」から満男(吉岡秀隆)と泉(後藤久美子)の若い二人の恋のテーマとして、シリーズを彩った德永英明の歌声。
最終第48作「寅次郎紅の花」まで、劇中に流れた德永英明の「MYSELF~風になりたい~」、「JUSTICE」、「どうしょうもないくらい」、「夢を信じて」、「最後の言い訳」、「君と僕の声で」を全曲収録。
山本直純の映画音楽とともに、平成の「男はつらいよ」の音楽の魅力を凝縮したサウンドトラック!!
最後に
さて、今日は12月30日。明日は「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」を観に行きます。
こちらも長いシリーズのエピローグにあたる第9作目。
どんなエンディングが待ち受けているのか。明日、確かめて来ます。
漫画原作者の猪原賽でした。
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