オフサイトミーティングの手法
■ オフサイトミーティングの特徴
通常、参加者を集める時にフォーマルなかたちをとることがあるため「研修」の範疇に入れられることもありますが、オフサイトミーティングは従来研修とは明らかに違います。
では、オフサイトミーティングは、いわゆる研修とどこが違うのか、理解しやすくするために従来型の研修と対比させてと特徴を説明すると、明らかな違いは4点あります。
1.答えがあらかじめ用意されていない
従来型の研修では、あらかじめ受講生に対して教えるべきころが用意されています。そして、その内容をどういう形で、どの時点でどのように伝えるべきかというようなこともプログラミングされています。研修用語では、用意された答えを受講生に納得させることを「受講生を落とす」という言い方もあるように、落とし所も決められています。
それに対してオフサイトミーティングでは、はじめから答え(これが正しいという教える側の答え)は用意されていない。といっても、情報提供というかたちでの基本的な問題提起はなされます。
しかし、それは「これが正しいのですよ」といって提起されるのではなく、「正しいかどうかは誰も分かりません。みんなで検討しながらもっと意味のあるものがあれば一緒に見つけましょう」というスタンスで投げかけられるだけです。
同じようにコーディネーター(従来型研修でいう講師の役割)が問題を投げかけるにしても、研修の場合のように「これが正しい答えですよ」といって話をするのと「講義をする際の誘い水ですよ」「批判と検討の材料ですよ」と言って話をするのとでは、本質的に大きな違いがあります。
”決して価値観の押しつけをしない”ということを大切にしてます。
2.結論を出すことがノルマ化されていない
従来型研修では、結論を出すことはそれなりのノルマでがあります。グル―プでの議論もまとめを要求され、模造紙などに書いて発表するようなことが多い。しかし「まとまる」とか「結論が出る」というのはあくまで結果だから、知恵を出し合ってお互いに刺激し合おうというような場では「まとめる」ということをノルマにしない方が頭も心も自由になって効果的なのです。
冷静に考えるなら、せいぜい2泊3日の研修で今まで長い間抱えてきた問題に「いつでも」「きれいに」答えが出されるべきだ、と要求するのはあまりにも能天気でではないでしょうか。もちろん答えが出る場合もあるだろうが、出ないことのほうが多いのが本来、自然なのです。まとめることをノルマ化すると、どうしてもはじめからまとめるという方向で単線的に話が進みがちになります。
極端な例では、あらかじめ結論を想定して、それに向けてプロセスをそれなりのかたちに作り上げるというような芸達者な人が出現したりします。これは国語の長文読解のテストなどで、先に質問を読んでから長文を読み始めるといった”要領”の話と同じようなものです。
「創造とは発散の中により多く出現する」良い議論というのは、最初に十分に発散した上で収集(まとめ)に入っていく議論です。
まとめは必要なのだが、はじめからまとめることをノルマにしてしまうと、まとめることだけが先行して発散ができなくなってしまいます。そこで、思い切って「まとめはあえて必要ない」という設定にします。まとめがノルマから外されると気分的に一気にらくになります。発想に枠がなくなって楽になっていく。もちろん、だからと言って、すぐに創造的な意見がいっぱい出てくるわけではありませんが、すくなくともその傾向は強くなります。
いづれにせよ「まとめる必要はない」といくら言っても、習性のようにまとめようまとめようとするのが多くの常なので「ノルマからはずす」と言っておくのがちょうどいい。ただ、まとめてはいけないと言っているわけではなないので、そこのところを注意しなければなりません。存分に発散しうえで、自然にまとまって結論らしきものが出てくるのは大いに歓迎すべきことです。
3.決まったプログラムがない
最初から決まったプログラムがないというのは、この種の議論が、決められた時間どおりにきちんと進行するという形態にマッチしないからでです。主催者にしてみれば時間表のそって計画的に進行していった方が、あたかも何か立派に義務を果たしたような気分になるのかもしれません。しかし、実際には構成メンバーやそのと時の状況によって、かなり議論の中身の成熟度合いなどは変わってきます。
それぞれの議論の中身はそれなりの個性をもっています。それに対して、どんな構成メンバーの議論も同じ進行表で区切ろうとするのはあまりに無理が大きすぎます。
例えば、九時からグループで議論をはじめたとします。場合によっては、十二時ぐらいにはもう話が出尽くしたような状態になることもあれば、夕方5時ぐらいまでしゃべり続けてもまだ集中が途切れないというような場合もあります。進行はあくまでその時の状況次第なのです。
したがって、その時の状況に応じて時間配分を決めて進行していくというのはごく自然な発想です。ただ、枠を設けずに進行するというのは、下手をするとだらけてしまって、しまりのない議論になってしまう可能性があります。こういう時の進行役は、技術的にはかなり難しいということを心得ておいてもらった方がよいでしょう。
4.議論のまえに心の枠をほぐす<アイスブレイク>
さらに、オフサイトミーティングにはもう一つ大切なことがあります。それは最初の段階で「自己紹介」にできるだけ多くの時間をとって、心の柔軟体操をしてから議論を始めるというものです。
自己紹介というと、普通、思い浮かべるのは入社年度、社歴などを長くとも数分間で述べる程度のものでです。それに対してオフサイトの自己紹介は、それを自己紹介と呼ぶのか考えてしまうほど異色のものです。自分というものを率直に表現する、仕事をしている時の部長とか課長の顔ではない自分というものの存在を主張してみるというのがとりあえずの狙いです。自己紹介が進んでくると、それまで静止画だった人が次第に動画になってきます。暗かったその人の周りが明るくなってきます。私の実感でも全くその通りでした。これは仕事の合間の遊びやゆとりといった部分であり、仕事を本当に効率的に進めたいと思うなら、それくらい心の余裕がある方がうまくいきます。
言うならば、仕事という枠の中に閉じこもって、その中で過剰に安定してしまっている仕事人間の心の状態に自ら刺激を与え、満足感と同時に、ある種の不安定状態をつくり出すプロセスです。そうは言っても、何でもいいから自己紹介を長くうまくいくというものではありません。それなりの細かい配慮がないと、単に自慢話のオンパレードになったりして場が白けるだけになってしまいます。
心の柔軟体操もやり方を間違えると、まったく効果がないどころか逆効果になってしまいます。
■ 議論のベースをつくる問題提起とは
オフサイトミーティングの質を左右するもう一つの重要な要素(ある意味で必要不可欠の要素として)は、議論の入口でどのような問題提起が行われているかということです。
① 風土・体質とはなにか
② 風土・体質が変化するとどうなるのか
③ 風土・体質を変えていくにはどうすべきなのか
という最もベーシックな事柄に関する問題意識を共有する為である。
同時に、この問題提起を受けて行う議論は、いったい何の為「気楽でまじめな議論」をこの忙しい中でわざわざ時間を費やしてやるのか。ということを理解する為に不可欠な議論です。(すでに共有できている出来ている時は必要ありません。)もちろん、これはあくまで問題提起(問題の投げかけ)だから異論があってもかまいません。異論があったらあったで、じっくり話し込むことが大切なのです。
「話し合う」といっても普通と違うのは、むしろ「聞き合う」ことを大事にするということでです。
ふだん会社で(あるいは家庭でも)じっくり耳を傾けるほど関心を持って人の話を聞いたことがあるでしょうか。相手の意見を正しいと思うか正しくないと思うかに関わらず、相手が言いたいことを出来るだけ相手の身になって受け止めたり、話し手を受け入れ、黙って話を聞くというのはけっこうエネルギーを要することです。
うまく話す以上に聞くのが苦手という人も少なくないのではないでしょうか。
こういう「気楽でまじめな議論」をより有効にやろうと思うなら、人の話を聞くという基本姿勢をお互いにできるだけもつようにすることがなくてはなりません。
信頼関係をつくり、さらに議論を深め、場から知恵が出やすい状態にするためにどうしても欠かすことができない大切な点です。
自分の意見を言うことももちろん大切なのだが、その前提として人の話に耳を傾ける姿勢、人の話から何かを学ぼうという姿勢が最も大切なのだという点は、議論に際して繰り返し強調される必要があります。
オフサイトミーティングは「聞き合う場」でもあります。
■ オフサイトミーティングの前にやるべきこと
共通の知識を前提として話し合いをすると議論の質が高まりやすくなります。その為には参加者に前もってある程度の共通の知識を持てもらうべく、本などを読んでおいてもらうと議論が活発化します。
”改革とは何か”を書いた本を共通の知識としておくことが議論の質を高めるためにはかなり効果的な要素です。
ただ、いつも体質改革ばかりを直接のテーマとしているのではないので、その時々のテーマに応じて前もって読むものを用意することが話し合いの質をあげる一つの方法です。ただし、この中身を間違うとあまりよい結果は期待できません。
■ オフサイトミーティングの後にやるべきこと
オフサイトミーティングも、部門横断的な交流型のものは網羅的にメンバーを集めて行われる為、テーマを絞り込んで深く掘り下げるには時間的余裕がありません。
役割としては「土壌の耕し」がメインです。
それ以上の期待を持ち込むと逆に役割が曖昧になるから、その場で何をするか目的は絞り込んだ方が現実的です。しかし、この段階で放っておくと、せっかく耕された土壌もまた固まってしまいます。
たまに風に運ばれて種子が飛んできて実がなることもありますが、その確率はそんなに高くはありません。
大切なのは種子をまき水をやり肥料をやり、世話をすることです。
つまり、種子を蒔くというのはオフサイト後、一人ひとりの参加者と世話人が手分けをして個別にミーティングを重ねていく中で動きをつくり出していくことです。このフォローの動きがあって初めて耕された土壌は生きてきます。
実際にどのように進めるのかというと、一番可能性の高そうなところから種蒔きを始める。どういうところが条件的に良いかといえば、
① 影響力のある人物から手が挙がったところ
② 影響力のある人間がいて改革のエネルギーがあることろ
③ 複数の世話人がいるところ
などが挙げられます。