日本的企業風土の変革
■ 何を改革するのか
「意識改革が必要だ!」と、社長をはじめ責任ある立場の人はしばしば口にします。しかし、社長が言うようには意識改革が進んでいないことの方が圧倒的に多いです。
その一方で現実に風土・体質改善に本気で取り組んでいて、それなりの成果を上げている会社と人がいることも事実です。
かけ声とスローガンで終わっているところと、そうでないところの差はいったいどこにあるのでしょうか?
経営トップが「意識改革が必要」と言っている段階というのはまだスタート時点の漠然とした問題提起の段階です。
この段階では、「意識改革」の中身に関しても経営トップがどのくらい本気なのか、まだ社員にとっては良く分からない状態です。
次の段階に進めようとするならば、「何を」「どのように」改革しようとしているのか、トップ自身がどれくらい本気なのかを社員に見せなければなりません。
口頭で必要性を説いたり、実行計画をつくったりするところまでは難しくありません。
「やれ」と指示することも簡単です。
しかし、問題はそれだけでは何も始まらないということです。
正確に言うと、始まらないのは意識改革の結果としての「自主的な動き」です。
指示すれば出来ること、「意識改革の為の研修を実施する」というようなことまではその気になれば出来きます。
ただ、それを「新たな行動として展開させていくこと」は難しいです。
たいていの企業はそこのところで挫折してしまっています。
メインテーマは
「組織が変化していく、その原動力とは何なのだろうか」ということです。
意識改革というのを本気で考えるなら、風土・体質の問題を抜きにしては何事も始まりません。
経営の側から見れば「社員のやる気を引き出したい」
社員の側から見れば「会社を働きがいのある会社にしたい」とお互い思っています。
そういう気持ちはあっても行動には移せないというのが現実の姿なのです。
この「行動を抑制してしまう力」は、風土・体質の力です。
この力を変化させることこそが、「新たな行動が自主的に展開されていく」原動力になるということです。
■ 企業の風土・体質改善
比較的大きな企業で仕事をしたことがある人たちなら一度や二度は「どうせ言ってもムダだろう」とか「言いだしっぺが損をする」と感じたことがあるのではないでしょうか。
じつは、組織の中では「まあ組織とはこんなものなんだ」という”大人の悟り”、”一種のあきらめ”がお互いを牽制し合う力になって働いています。
そして、こういう力が働き合うことによって組織は安定しているのです。
ちょうど氷山がバランスを保って水に浮かぶ為の、
分厚い水面下の部分を果たしているのです。
つまり、企業の風土、体質改善というのは、このお互いに牽制し合いながら安定している組織(エネルギーが低下している状態)にゆらぎを与えて活性化し、活力を高めていく作用のことです。
組織、精度を変えただけでは企業は変わりません。
■ 活性化した状態とは
まだ組織が小さかったり、組織が生まれて間もない頃は、お互いに協力し合わなければ仕事が成功しないことをみんな暗黙のうちに知っています。そこでは、対立し合ったりしながらも、それなりに「協力し合う」ことがお互いの了解事項となっています。
この「協力し合う」という了解事項が、次第に「協調し合う」ことに変わりやすいのが組織、特に日本的組織の特徴です。
余計な波風を立てずに「なあなあ」で物事を納めていくことによって安定している組織は、良い組織のイメージそのものです。
ただ、この”協調する”という了解のほうが主流になると、しだいに「本当のことは言わない」「言ってもムダ」「言わない方が得」というような体質をつくっていきます。
本当に協力し合おうと思えば、時にはきちんと自分の意見を相手に伝えなければうまく協力など出来きません。
相手と意見が違っていたらそのままにするのではなく、お互いに接点を見つけいく努力をする。その為には「なあなあ」ではなく、お互いに率直な意見の交換が必要です。
そういう意味では「協調する」というのは、一面で変化を嫌う不活性な状態に通じます。それが「負のエネルギー」つまり「安定化」というエネルギーを持っているのに対し、「協力する」というのは「正のエネルギー」つまり「不安定化」という要素を含んでいます。すなわち、不安定な状態というのは別の面から見れば活性化した状態でもあるということです。
たとえば、生きている自然界は非平衡状態であって、とどまることなく変化を続けています。
決して安定した平衡状態とはいえないが活性的な状態です。
「トヨタ生産方式」においても、改善のエネルギーをつくるのは現場が困るような状態をつくること、つまり「不安定化」することにあったのです。
一般的に言っても、現状をよくしたいという改革のエネルギーは危機的状況つまり不安定状態の中から生まれやすいのです。