おおきな指で、掻き回されて
アレが来た。
みんなそれぞれの名前で呼んでいるが、とりあえず私にとってはアレ。
最初はふとした違和感だった。
あれ、最近なんだか暑くない? 豪雨多くない?
なんか、熱帯みたいじゃない?
アレは大きな存在なので、その指一本で、世界を大きく掻き回す事が出来る。おざなりにぐるぐるぐるぐる、その指を回すことで、世界は色々に混じり合っていく。
温暖な気候と猛暑。
あるいは
温暖な気候と予期せぬ豪雨。
(初めて見る動物、採れなくなる野菜!)
男らしい男と、女らしい女。
(多様性!)
大富豪と貧民。
(全員何となく貧乏!)
外国人と自国民。
(国際化!)
機械と人間。
(シンギュラリティ!)
家で働くことと会社に行くこと。
(リモートワーク!)
善人と悪人。
(闇バイト!)
戦争と平和。
今までお互い遠い存在だった物事たちが、
自分の身近には、その片一方しかいなかったはずが、
その境界はどんどんと曖昧になり、お互いに混じり合っていく。
今まで隣にいた者は、もはや薄れて消え去っている。
今は、見慣れぬ、他人ばかり。
アレにとっては、どっちでも良いこと。
気まぐれに、ぐるぐると指でかき混ぜてみただけのこと。
でも、私はどこかで恐怖を感じている。
アレは何本指だろう?
もっと、大きな、多くの指が、世界をぐるぐると掻き回すかも知れない。
たとえば、
動物と人間が、混じり合ったり。
不幸と幸福が、混じり合ったり。
いつかきっと、
生と、死も。