次なる成長ドライバーは何か 2050年を見据えて動き始めたアサヒビール
いまアサヒビールは、以前からのファンだけでなく、新たなファンをも取り込む斬新な製品や取り組みで快進撃を続けています。ただ、一般的に企業は、主軸事業が安定的であればあるほど、本業とは直接関わりのない「飛び地」での新規事業創出が難しい傾向にあります。しかし同社は既存事業が好調の中、次なる成長ドライバーを目指して、新規事業を連続的に生み出す仕組みづくりにチャレンジしています。その現在地点とそこでのイグニション・ポイントの存在感について尋ねました。
本業と関係のないアイデアをも容認 「スマドリ」が風穴を開けた変革の兆し
まるでお店の生ジョッキのような泡が楽しめる「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」、本物のレモンスライスが入った「未来のレモンサワー」、そしてお酒を飲む人も飲まない人も楽しめる新しい生活文化の提案「スマートドリンキング(スマドリ)」など、エポックメイキングな製品や取り組みで、市場をにぎわせているアサヒビール株式会社。中でも「スマドリ」は、前例を見ない施策として、いまも注目を集めています。
2022年の第15回日本マーケティング大賞(主催:公益社団法人日本マーケティング協会)の最高賞となるグランプリを受賞したことも記憶に新しいところです。
このプロジェクトを主導したアサヒビール 理事 マーケティング本部長の梶浦瑞穂氏は、「スマドリは、アサヒビールに新規事業開発のカルチャーを生み出す大きなきっかけとなった」と、市場に与えた影響だけでなく、社内に与えたインパクトの大きさに触れます。
ただ、スマドリこそ事業としてカーブアウトに至りましたが、新規事業開発は変化する事業環境に対応するための連続的な取り組みであり、2の矢、3の矢を次々に放っていかなければなりません。当時梶浦氏は、このスマドリで芽生えた新しい兆しを、いかに継続的な活動として根づかせることができるか、頭を巡らせていたといいます。
ちょうどそんな折、スマドリの日本マーケティング大賞受賞式があり、その席で、スマドリを形にする上で欠かせない存在であった当社のコンサルティング事業本部 デジタルユニット ディレクター 濱田美晴(以下、IGP濱田)と出席したスマドリの日本マーケティング大賞受賞式で交わした会話から現在につながったと次のように語ります。
「その時濱田さんは、自らが理想とする動きができる場としてイグニション・ポイントにジョインされたところでした。濱田さんから、他のコンサルティングファームにはないイグニション・ポイントの特徴を聞くうち、われわれが求めるパートナー像と合致し、新規事業開発の重要な伴走者になるのではと考えました」(梶浦氏)
これに対して、イグニション・ポイントでコンサルティング事業本部デジタルユニットを統括する羽間裕貴は、「私たちは支援先企業とゴールを共有し、そこに至るマイルストーン設定を解像度高く描き出しながら、プロジェクトのマネジメントや実行にまでコミットしていきます。アサヒビールに対する支援でも、アイデアの事業化はもとより、それが企業の新たな成長ドライバーになるところまで伴走していく考えです」と、これまでのコンサルティングファームとは一線を画す思いで臨んでいることを強調します。
松山社長の数年にわたる地ならしが意識変革に 2024年は未来の在り方を創造する起点の年
アサヒビールは、2050年時点で次の主力となる事業をつくることをゴールに定め、2023年にイノベーション戦略部に新規事業開発チームを立ち上げて「未来の新価値領域」を模索していくことになりました。伴走者としてイグニション・ポイントも参画し、2024年には本格始動の年となります。そこには、梶浦氏の思いが込められています。
「現在のイノベーション戦略部の前身と言える事業推進室時代には、スマドリを世に送り出した成果の半面、社内に新しいことを生み出す機運を定着させるまでには至らず、『やり切れなかった』という思いもありました。その障壁の1つとなったのは、新規事業など、当社のこれまでのカルチャーと異なる方向性に対する社内の強いハレーションでした。試してみたいアイデアがあっても、取り組めないままになってしまった事業案もあります。
その状況を打破するため、新たにイノベーション戦略部を組織して挑むことにしました。同部を機能させるには、まず社内のカルチャーを変革して、前例にないことにも積極的に挑むマインドと、その活動を許容する意識を醸成すべきだと考えていました。イグニション・ポイントは、こうした意識変革から一緒に取り組んでもらいました」(梶浦氏)
新規事業開発の基礎となる意識変革の過程について、アサヒビール株式会社 マーケティング本部 イノベーション戦略部 部長の濵田晃太郎氏は、「イグニション・ポイントとともに、新規事業開発のキーパーソンとなるR&D(研究開発)のマネジャーを集め、泊まり込みのワークショップを実施しました。これを通じて、前例のない新しいことに挑むマインドへの変革や、現場に眠っているアイデアの掘り起こしを行いました。この時イグニション・ポイントには、多様な分野のプロフェッショナルを投入していただくなど、根気強く対応していただきました」と振り返り、地道な伴走支援に気構えを感じたと言います。
現在に至る経緯を見つめてきたIGP濱田は、変革の動きが明確になってきた現状について、「スマドリは、新しいことを許容する松山社長(現・代表取締役社長の松山一雄氏)の思想や体制、そしてそこに呼応する梶浦本部長のアクションが生み出した象徴的な成果でした。それまでの社風を考えれば、スマドリのような企画が形になることはなかったかもしれません。その意味では、松山社長のもと、すでに目に見えないところで社内の地殻変動は始まっていて、それがいま、はっきりと目に見える段階に至ったのだと思います」と分析します。
アサヒビールが、2050年の在るべき姿を見据えてイノベーションを連続的に打ち出していこうとしている現在、梶浦氏にはどのような展望があるのでしょうか。
「当社の中核事業は、ビールを中心としたお酒です。いま、そこに新規事業の先陣を切る形でスマドリが加わりました。こうした布陣で事業を伸ばしていくのが、2030年ごろまでを視野に入れた中期のイメージと見ています。このころまでは、3年刻みで計画を立案し実行していく現在のプロセスで、成長をある程度見込めるでしょう。しかし、その先となると、人口減少など市場の前提条件が大きく変化して過去の実績が通用しなくなるため、全く異なる成長ドライバーの模索も視野に入れる必要があります。意識変革や組織づくりなど、それを生み出す準備は、いまから始めないと間に合いません。
幸いにも当社には、強力な開発力があります。それは取りも直さずイノベーションの力そのものです。ご好評をいただいている『未来のレモンサワー』や『生ジョッキ缶』は、その好例でしょう。『そんなことが本当にできるのか』という難題に挑み、お客様に感動と喜びをご提供する。それをやり切れる当社のR&D組織は、かけがえのない強みだと考えています。そうしたメンバーと何ができるのか、イノベーション戦略部の濵田と連携して一つ一つ検証して形にしていきたいと思います」(梶浦氏)
濵田氏もこれに応え、チームの現在地点を、期待を込めてこう説明します。
「これまで当社のR&Dのベクトルは、未知のものへの探索というより、現状を進化させる方向性が中心だったと認識しています。例えばスーパードライの香味をさらにアップすることや、生産工程の無駄を省いてどれだけ短期間で出荷できるかといったことが、それに当たります。ただ、直近の成果では、現状最新の進化系としての『生ジョッキ缶』と、未知のものへの探索の成果としての『スマドリ』など、双方が見られるようになってきています。生ジョッキ缶では、エポックメイキングな技術によって従来のお客様の心を捉えるだけでなく新しいファンを獲得しましたし、スマドリは新たな楽しみ方を探り当てて、市場を創造しました。こうした成果によって、『こんなこともできるんだ! やってもいいんだ!』と、R&Dのメンバーの士気が高まっているところです。
この好機を生かして、ゼロからイチを生み出す『探索人材』を増やし、イノベーションを加速させていきたいと考えています。2024年は、まさしくその始まりの年です。イグニション・ポイントの力を借りながら、成功体験を社内に積み上げていきたいと目論んでいます」(濵田氏)
こうしたアサヒビールの大きなチャレンジに対して、イグニション・ポイントがどのように関わっていくのか。IGP濱田は現状とこの先についてこう語ります。
「現在当社から2人の社員がアサヒビールに出向し、濵田部長のプロジェクトチームに加わっています。そのうち1人はリーダーとしてチームを主導する立場で活動しており、新しい商品やサービスを既成の概念にとらわれずに試していこうとしています。2024年下期は、事業アイデアの中から10件を抽出し、PoCを行う計画です。こうした一体感を持った支援を、私たちは技術起点ではなく未来仮説起点で考えています。そうした意識から、コンサルティングの形には拘らず事業を創造する全てをサポートできる体制で支援させていただいています」(IGP濱田)
この未来仮説起点について、ユニット責任者である羽間はさらにこうつけ加えます。
「アサヒビールとの取り組みのように、クライアントに合わせた『コンサルティングの枠』にとらわれず、イグニション・ポイントにしかできない支援の形を追求しています。従来行われてきた外部コンサルタントの立ち位置からぐっと踏み込み、企業のイノベーションパートナーとしてあらゆるスキームで価値提供に全力を尽くします」とし、意気込みを語ります。こうした姿勢で関わるイグニション・ポイントに、梶浦氏は期待を寄せます。
「私の立場として目指すことは、コストを意識した上で、技術と顧客をどうつなげていくかに尽きます。その意識を持って変革を前へ進めることが使命ですが、顧客とどうつながっていくか、どう収益化していくかなどの機能は、プロジェクトチーム内に充実しているとはいえません。また、採用や教育で補う時間的猶予もありません。こうした部分の不足を、当社への理解が深いイグニション・ポイントに補ってもらいたいと考えています」(梶浦氏)
イグニション・ポイントが「点火」した変革の火 伴走支援の成果と今後への期待
これからさらにアクセルを踏んで、活動を加速させていく新規事業開発において、最前線に立ってメンバーを指揮していくIGP濱田は、
「2024年下期に行うPoCを経て、早ければ年内に検証を済ませ、来年1案でも事業化にこぎつけるスピード感で進めたいと考えています。うまく自走できるようになればその事業を切り出して、さらに次の事業化を狙うといった、連続的なイノベーション発生の仕組みを確立したい。そうすることで、探索人材や技術人材など、新しいことに関わりたい人材の興味関心を引きつけることが可能になるとも考えています」(IGP濱田)
羽間も同様の意識があるとして、「アサヒビールの連続的な新規事業開発の伴走支援に対応するには、当社人材の層も分厚くしていく必要があります。そのため、アサヒビールでの成果を共有し、『こんな輝きにあふれたやりがいのある仕事に関与できる』ということを内外に発信し、新たな人材獲得につなげて支援の成果をより確かなものにしたいと考えています」と明かします。
カルチャー変革の現場でイグニション・ポイントの活動を間近で見ている濵田氏は、すでに見えている変化に手応えを感じているとしてこう発言します。
「プロジェクトは始まったばかりですが、はっきり言えるのは、イグニション・ポイントが社名の通り、現場のキーパーソンの心に『点火』してくれた、ということです。どのメンバーも心の中に思いやアイデアを持っていながら、これまではアウトプットの場がなく言語化できていなかった。それがイグニション・ポイントとタッグを組むことで吐き出す場ができたばかりか、実現の可能性を感じられるようになった。この勢いを止めず、さらにチームの熱量を上げていくため、イグニション・ポイントには大きな期待感を持っています」(濵田氏)
「経営にコミットして成功を分かち合う」、まさにソートリーダーシップといえる能力を示せる存在が集まる当社が、アサヒビールの新規事業開発にどのようなインパクトを与えられるかが試されています。
(記載内容は2024年10月時点のものです)
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