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I-ne:多様な専門性をもった人材が活躍できる環境を。本質的な「ジョブ型」人事制度改革のポイントとは

メンバーの価値創造への報酬を整えることは組織運営と事業成長の根幹に関わる問題です。ライフスタイルブランド「BOTANIST」、ミニマル美容家電ブランド「SALONIA」などのブランド事業を展開するビューティー企業、株式会社I-ne(アイエヌイー)は事業の急成長に伴い、高度専門人材を適切に評価できる人事制度が不足していたことが課題でした。

話し手
株式会社I-ne 経営企画室 室長 松江朝子氏

聞き手
イグニション・ポイント株式会社 ワークデザインユニット ディレクター 石橋

イグニション・ポイント株式会社 ワークデザインユニット シニアコンサルタント 福井


課題── 高度専門人材を正当評価する人事制度の不在

▲ 株式会社I-ne 経営企画室 室長 松江 朝子氏

I-neは急成長を遂げ、社員数は約300人、2022年の連結売上高は350億円を超えるまでになりました。しかし、I-neの経営企画室室長である松江 朝子氏によれば、急成長した会社の規模に適した人事評価制度が存在しなかったことが主要な課題だったといいます。

松江氏「以前の人事評価制度は一定の役割を果たしましたが、2020年にマザーズ市場に上場し、さらなる成長をめざすために新しい人事評価制度が必要でした。特に、重要な役割を担い、高度な専門性が必要ながら部下を持たないスタッフを公平に評価する仕組みが不足していました」

最初は自力で人事評価制度の改革を試みましたが、専門家の協力が必要と判断し、コンサルティングファームに依頼することを決定しました。

決め手──「テンプレではなく、I-neを理解した提案だった」

▲ ワークデザインユニット ディレクター 石橋

複数のコンサルティングファームの中から、I-neはイグニション・ポイントを選択。その決定の要因について松江氏は「イグニション・ポイントが適切な提案に加えて、伴走者として最も優れていたことが決定打」と語ります。

松江氏「当社に合った提案を期待しており、イグニション・ポイントさんはニュートラルな立場から、一緒に成長をめざす伴走者として協力してくれるコンサルティングファームだと感じました。人事評価制度はテンプレート通りに作成することが難しいものです。

その点イグニション・ポイントさんは、本契約の前でも担当の石橋さんが、ニュートラルに助言をくださったんですね。『人事評価制度は正解が存在するものではない』との共通認識の上で、A案とB案があるとすれば、それぞれのメリット・デメリットを示しながら提言してくれたんです。

I-neが成長ステージである点を鑑みた上で、一緒に成長軌道を描くための伴走をしてくださるコンサルティングファームだと考えました」

コンサルティング事業本部ワークデザインユニットのディレクターである石橋も「テンプレートの問題」に同意します。

石橋「制度改革を行う場合、通常はトレンドに迎合してジョブ型の組織を選択する傾向があります。しかし、企業の形態、目的、将来の成長段階を考慮すべきです。

一つの制度がすべての企業に適しているわけではありません。成功事例が他社に適用可能とは限りません。地味な改革が成功することもありますが、それはあまりニュースとして案外注目されません」

またこうした「本質的でニュートラルな」やり取りを行う中で、松江氏は「気持ちよくコミュニケーションを取れて話しやすいことが最後の決め手だった」と言います。

松江氏「ロジックではないフィーリングの部分ではあるんですけど、長い期間をご一緒するプロジェクトだからこそ、気持ちよくコミュニケーションを取れる方とご一緒したほうがいいと思います。その点でこのお2人は信頼できました」

石橋は「本質的で中立な」対話を行うことで、良好な関係が築かれたと述べます。

石橋「松江さんをはじめとしたI-neメンバーは、本質的な理由を自ら問うカルチャーがもともと根付いていたため、毎回のディスカッションでは『そもそも論』を重ねられました。このプロセスを経たことは、短期間でメンバーが自分ごと化できた大きな要因と考えています。

Why(なぜ)、What(何を)の本質的なディスカッションをして初めて、How(どうやって)の話へ進められます。『制度疲労を起こしているので制度を変えたい』とご相談されたときに、疲労とは何を指しているのかが定義されていないケースはよくあります。よくよくクライアントに真意を伺うと『年齢層が高年齢化してきたので人件費を圧縮したい』というのが問題の本質だったりします。

あるいは、なぜその評価項目なのか、なぜその等級定義なのか、人事制度改革に携わる中で質問をしてもお答えいただけないケースは少なくありません。

その点、I-neさんは本質的なディスカッションができたので、相互理解がとてもスムーズでした」

「気持ちよくコミュニケーションが取れる」と感じていただけたのは、伴走を通じたイグニション・ポイントの「ディスカッションを重ねたい想い」と、I-neの「本質を問う企業文化」がマッチした成果と言えるかもしれません。

取り組み── 北極星をめざすメンバーが評価されれば、事業も自ずと成長する

▲ ワークデザインユニット シニアコンサルタント 福井

石橋は「I-neさんの成長と目標に基づき、事業成長を支えるメンバーに焦点を当てる制度を提案しました」と語ります。

石橋「I-neさんは新しい事業柱を築く段階にあり、既存の商品を広く販売するだけではなく、成長と目標を見据えた上で、事業成長を担う人材を想定し、アクセルを踏む人材を評価する人事制度が必要でした。

ここで重要なのが、アクセルを踏める社員を明確に定義し、スポットライトが当たる仕組みに改革していくことです。その仕組みをどう設計するのかが、今回のご支援での課題を解決する主眼でした。

例えばブランドマネージャーという重要なポジションがI-neさんにはあります。ブランドマネージャーはブランドのあらゆる活動を統括する役割を担っているのですが、部門を横断して動くので、部下がいません。つまり、非管理職扱いなんです。これまでの序列に基づく人事評価制度では、部下を多く抱えたマネージャーのほうが高く評価されてしまいます。この問題をどう変えていくのか、重ねて議論しました」

松江氏も高度専門人材の評価への問題意識を初めから持っていたため、人事評価制度の改革をどのように行うかが、重要なポイントでした。

松江氏「販売拡大に伴うオペレーション人材が組織拡大の中心だった従来型の会社組織では、管理の職位が上がるほど難易度が上がりました。しかし現在では、既存の縦の指揮命令系統とは異なり、機能と部門を横断して仕事をする横のマネジメントを執り行える人材の希少性が高まっていて、そうした人材を育成する必要性を感じていました。

そこで、新しい人事制度ではマネジメント職群でなくても、マネジメント職群と同等、もしくはそれ以上の処遇を可能にする仕組みに改変しました」

石橋も肯きながら、どのような考えに基づいて問題点を整理していったのかを語ります。

石橋「アジャイル型組織でもっとも重要なのは、価値創造を牽引するビジネスデザイナーやプロダクトマネージャー。彼らのほうが、本来は単なる課長よりも等級が上であるべき点です。しかし、従来の製造業の序列では、課長やラインマネージャーのほうが職位は高く、プロダクトマネージャーは、部下がいないために『プレイヤーと同等の偉くない』扱いだったんです。このままの制度では、現場のメンバーたちは正当な評価を得られるとは思えず、ブランドマネージャーをめざす人が増えていきません。

そこで、ブランドマネージャーはキャリアの北極星、つまりめざすべきポジションの一つとして位置づけました。こうすることで、高度な専門性を持つ社員は北極星をめざすようになります。ひいては、その動きこそが価値創造の拡大につながり、組織も大きく成長していく──。このような人事評価制度の仕組みを作るという狙いがありました」

人事評価制度の等級についても、改めて定義し直しました。

松江氏発揮できる能力や役割の違うメンバーが、全員同じ等級に入ってしまっていたのが、かつての制度でした。それを、期待される行動と役割によって分離させたのが、新しい制度の大きな特徴です

石橋「報酬制度だけの企業は、人が育ちづらいという声をよく耳にします。新制度では、発揮される能力に応じた等級に分けたことに加えて、目先のことを考えるだけでは上の等級に上がれないような仕組みになっています。

今の等級を満たすレベルにありつつも、同時に、上の等級に行けるレベルに達しているかどうか。この2つを満たしていると評価されて初めて、昇進できる仕組みに設計しました

北極星をめざす人を評価すると同時に、そこに至る等級も整備し直すことで、高度専門人材に至るステップを明確にしました。

成果── 10年先を見据え、伴走型で成長を駆動させる人事評価制度を設計

もちろん、制度を設計しただけでは終わりません。いくら言葉で定義しても、評価者により「評価」の基準はばらばらになるため、現場へ定着させる運用のプロセスが不可欠です。現場のマネージャーを巻き込んで、「総論賛成、各論反対」と声の挙がった部分を一つひとつ、現場が納得のいくものにチューニングしていきました。

オンボーディング(運用の定着プロセス)で現場を担当したコンサルティング事業本部 ワークデザインユニット シニアコンサルタントの福井が振り返ります。

福井等級定義や評価項目を現場に落とし込み、現場目線を入れてもらった上でブラッシュアップして戻す、というステップを踏み、新制度のレクチャーは合計4回行いました。

このチューニング方法は、実は人事部門のリーダシップが発揮されないと実行できません。おかげさまで新制度の導入時は、現場マネージャーと何度もコミュニケーションを取ることができ、自分ごととして運用していただけました。外部の私たちに対して率直にご意見をぶつけてくださったことも、ブラッシュアップしてよりよい制度にするプロセスでプラスに働きました」

現在は引き続き運用フェーズを支援中で、細かなチューニングを通じて、人事評価制度のブラッシュアップを行っています。

石橋「新しい制度は、そのときの最適解ではあっても、運用してみて初めて良い点や問題点が洗い出される部分も多々あります。そのため、私は『運用が8割です』と、運用の重要性を常々お伝えしています」

松江氏10年先を見据えたI-neの、成長していきたい姿から逆算した新しい人事評価制度の枠組みを作れたと思います。

イグニション・ポイントさんとは、2年間と長くご一緒できている点も良かったです。お互いのキャラクターや、成長エンジンの本質の理解は、息長くご一緒できたことで気づけた部分もあったのではないでしょうか。これからもイグニション・ポイントさんにはお世話になりたいと考えております」

石橋本当の意味での人事評価制度の成果が現れるのに、3年はかかります。それだけに、長く信頼していただき、伴走できることは、当社としても結果にコミットできることにつながるのです。 私たちが大事にしているキーワードの一つが伴走なのですが、結果としてI-neさんとは2年間と長く伴走できているのは、とてもうれしいことです」

福井「I-neさんのように、制度設計でここまで皆さんが主体的に動いてくださる企業は、実は多くはありません。パートナーとしてご一緒できたことが誇りですし、これからも経営にプラスに響くようにお手伝いができればと思っています」

(記載内容は2023年11月時点のものです)

取材・文:山岸 裕一


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