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パナソニック:理想と現実を両軸でとらえた「未来構想」

    ※2023年12月21日追記
    グノシーにて本記事内容をご紹介いただきました。

ロボティクスが浸透した先のイノベーティブな未来とは、どんな世界なのか。そんな「未来構想」を構想・策定するパナソニックホールディングスのロボティクス推進室をイグニション・ポイントが支援しました。当プロジェクトで陣頭指揮を執られた安藤 健氏をお迎えし、当社から髙橋、武田の2名を交えて対談します。

話し手
パナソニック ホールディングス株式会社 ロボティクス推進室 室長 安藤健氏

聞き手
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業本部 ストラテジーユニット ディレクター 髙橋
 
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業本部 ストラテジー ユニット シニアマネージャー 武田


課題──「ロボティクス事業の将来イメージの持ちづらさ」が課題だった

▲ パナソニックHD ロボティクス推進室 室長 安藤 健氏

パナソニックホールディングスのマニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室室長で博士でもある安藤氏は、ロボティクス推進室の抱える課題感を口にします。それは「社会課題を解決できるロボット事業の具体イメージをメンバー同士で共有できていないこと」です。

安藤氏「ロボット産業の未来についてメディアで取り上げていただくなど、注目とご期待は集めている一方で、まだまだ日常の中に溶け込んでいるわけではないため、産業ロボットや工場の中で動いているロボット以外は、目にする機会が少ないのです。

現在取り組んでいるテーマに関するイメージはできたとしても、少し先の未来において、社会の中でどのようなロボットがある世界を実現するのか、ロボティクス推進室のメンバーは共通イメージを持てていませんでした。

また、大きな企業ほど、すべてのメンバーが同じイメージを共有できているとも限りません。そこで、未来社会において期待される方向性や、私たちメンバー一人ひとりの持つ異なるイメージや意識を同じ方向に向けたいと思い、イグニション・ポイントに支援を仰いだという経緯です。

働いているメンバーや、社会でくらす人と意識を合わせるために、あるべき未来をクリアに描き切る。そのために、私たちはまずどこに向かっていきたいのかを重点的に議論していきました

依頼を受けたイグニション・ポイントのコンサルティング事業本部ストラテジーユニットディレクター、髙橋はこのプロジェクトをどのように方向づけていくかを考える上で、大事にしたポイントの1つが「腹落ち感」でした。

髙橋「ご相談いただいた際、与件として『くらしのインフラ』というキーワードをいただきました。ロボットが社会課題を解決するために、どのようにくらしの中でインフラとして機能するのかという意味合いですが、当然ながらさまざまな解釈が可能です。社内メンバーの皆さまの相互理解や腹落ち感を醸成して、1つにまとめ上げていくことが重要だと最初に感じました。

その上で、世の中の変化も見据えながら、どこをめざしていくのか、起点となる未来構想の策定を今回のご支援のゴールに据えて、一緒に考えさせていただきました

メンバー同士の方向性を合わせるとともに、社会へ向けた眼差しも合わせる取り組みが始まりました。

決め手── ストラテジーとクリエイティブの掛け合わせへの信頼

▲ ストラテジーユニットディレクター 髙橋

これまでも、ロボティクス推進室でビジョンを策定する取り組みは行っていたと安藤氏は言います。ではなぜイグニション・ポイントを選んだのか。それは、理想像を描くクリエイティブな思考と、論理的な積み上げを行う戦略的な思考、これらを両サイドから引き寄せる必要があったと安藤氏は振り返ります。

安藤氏「私たちの組織としての役割は、パナソニックグループの事業会社が描いている未来の先をどう捉え、どう実現するかです。

一方、社会課題を考えた場合、その進化は非連続な先にあるかもしれないし、ある意味で妄想的な想いが先行した先にあるかもしれません。事業会社のめざす方向性に加えて、ロボティクス推進室が自ら考える必要もあると思っています。そのためには、既存の思考の枠組みを広げて、夢とロジカルの両方からアプローチする必要があるのではないか。それができるのはイグニション・ポイントだと考え、最終的に選定しました」

イグニション・ポイントの髙橋も、今回こだわった点を強調します。

髙橋「まさに安藤氏のご与件にお答えすべく、ストラテジーユニットとエクスペリエンスデザインユニットの混合チームによるメンバーでご支援しました。夢とロジカルを両軸で捉える座組です。

未来像を描くだけでフィジビリティ(実現可能性)のないビジョンを策定しても、絵に描いた餅に終わってしまう。そうではなく、めざすべき世界観の解像度を上げて、身近に感じられるペルソナに落とし込む作業を志向しました」

イグニション・ポイントのストラテジーユニット兼エクスペリエンスデザインユニットシニアマネージャーの武田も、うまく接合させる重要性を強調します。

武田ビジョンが目的を達成した際に社会に与える正のインパクトと、それが実現可能かどうか、という両軸の接合点を見つける。この作業が、今回の未来構想を策定するにあたっての大きなポイントでした。

SF的な壮大な未来を描くだけでなく、パナソニックだから実現できるし、パナソニックだからこそめざすべきという、ストーリーや接合点──ここを見つけるのが重要だと考えました。そのためにはクリエイティブの視点だけでも、コンサルティングの視点だけでも達成できず、うまく接合するアプローチが必要でした」

理想と現実を両軸で接合する能力と期待感。イグニション・ポイントが信頼をいただいた決め手でした。

取り組み── ワークショップの事務局を設定。徹底した自分ごと化

▲ ストラテジーユニットシニアマネージャー 武田

今回のワークショップ運用のポイントは、参加メンバー一人ひとりが「自分ごと化」できること。つまり、自分たちで納得し、腹落ちしながら、自ら主体的に未来構想を策定していくことでした。パナソニック安藤氏側の課題感も同様で、「腹落ち感をどうつくるのか」がワークショップ設計の起点になりました。

安藤氏「大きい企業は、上から大きい方針が降りてくるのを待つ受け身姿勢になりがちです。しかし私たちは、新しいチャレンジをしたい。すると、経営層も私自身も明確な答えを持っていないことに取り組むことになります。この壁を乗り越えるためには、自分たちで徹底して考えて議論し、腹落ちした状態で進める必要があると。そのための設計・デザインを一緒に考えていただきました」

イグニション・ポイントからご提案した「メンバーにとって納得感のあるワークショップ」の具体例の1つは、準備していく初期段階からロボティクス推進室の有志メンバー4名に参加してもらい、一緒にワークショップをつくり上げていくことでした。

武田「有志メンバーによる事務局を組成していただき、私たちも第三者的に関わりたくはなかったので、事務局と一緒に考えていく形式にしました」

こうして「自分ごと化」による熱量が生まれる体制を構築し、一緒になってつくり上げる「伴走支援」を実現しました。

他にもビデオ会議のTeamsでつなぎ、大阪と東京の事務局メンバー同士、あるいはイグニション・ポイントのメンバーと、一体感を生むコミュニケーションを毎日のように交えるなど、メンバーの意志が同じ方向を向くことを大事にしました。

成果──「自分たちでもっとできる」という成功体験を得た

ワークショップは、ロボティクス推進室の中から参加した30名ほどに加え、イグニション・ポイントメンバー、安藤氏も一緒に考えるメンバーとして参加しました。計2日間で600以上の未来シナリオをつくり上げ、最終的には31個にまとめました。さらにその後、事務局内で1カ月半をかけて、未来シナリオを1つ策定した、というのが大まかな流れです。

未来シナリオを策定していく過程では、つくりたいストーリーをシーン化し、ビジュアルイラストを一緒に作成しました。「具体的な製品に落とし込むのではなくて、くらしのシーンのイメージを描き切る最終アウトプットをめざす設計が良かったですね」と安藤氏は振り返ります。

安藤氏普通は『〇〇のような機能を持ったロボットを作りたい』のようなアウトプットが出てくるケースが多いんですけど、今回は、コンテキストのある説明文とともに、未来がどんなくらしになるといいのか、それを支えるロボティクスは何か、というアウトプットを設計してもらえた点が良かったです。

加えて室長としては、メンバーに『圧倒的当事者意識』を持ってもらうこと、最終的なアウトプットに対してメンバー自分自身がその商品を買うのかを問い続けました」

武田ロボティクスありきではなく、つくりたい社会や社会課題を主語にしたことがポイントです。ロボットがいる社会が大事なのではなくて、くらしのインフラを豊かにするためにロボットが貢献している状態をめざすべき。この点は重要な視点でした」

安藤氏「最後につくった未来シナリオのシーンの1つに、同級生ロボットというアイデアが出たのですが、その絵とストーリーを見て『泣けてくる』と言ったメンバーがいました。自分と重ねたのでしょう。それほど没入したということです。そんなアウトプットを自分たちで生み出せた経験、自分たちでもできるかもしれないと思えた経験が、一番良かったポイントだと思います。私自身も、自分たちでもっと考えないといけないと気づけましたから」

現在は1つの未来シナリオが完成し、具体的なビジョンとして掲げられています。事務局のメンバーは活動を続けていて、最後に絞り込んだシーンを具体化するためには何をしなければいけないかを考え、自発的に動いているそうです。安藤氏は最後に、総括してくれました。

安藤氏「よく考えてみたら、『くらしのインフラ』というワーディングも実は手段の話。どのような社会を実現したいのかをあらためて1つの言葉にまとめ、メンバーみんなが腹落ちする言葉を生み出せたのは、すごく感謝していますし、向かうべきことややるべきことがよりいっそうクリアになりました。

イグニション・ポイントさんの持つ、理想と現実をどう埋めるかというケーパビリティ(能力)は日本の社会課題解決のために今後ますます求められると思います。ありたい社会に関する議論をどう進めて、どう定めるか。その妄想力とリアリティを両立できる能力があります。今回のアウトプットも、クリエイティブとストラテジーの両方を持ったチームでないと実現できないと感じました。

社会課題の解決には会社や業界の垣根を超えたイノベーションが必要となります。そのイノベーションを生み出そうと思ったら、いわば花が咲いているだけではダメで、受粉を助ける触媒となるミツバチが必要です。どことどこをくっつけたらいいのか、とデザインできる存在は貴重だし、イグニション・ポイントさんのような存在がミツバチとしてぶんぶん飛び回ってくれると、日本はもっと良くなるんじゃないかと思います」

(記載内容は2023年11月時点のものです)

取材・文:山岸 裕一


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