楽食探訪:健康を気遣う? “町ケーキ”のお店。
人がおらず、ただ車が走り抜けるばかりの寂れた商店街。
その一角に、
古くから営業を続けているケーキ屋さんがある。
お洒落とは程遠い、昔の佇まいを守っている。
“町中華”という呼び方があるように、
“町ケーキ”と呼んでも良いお店だ。
50年前なら、お金持ちも庶民も、
分け隔てなく利用していただろう。
そんなお店がいまだ健在だということに、
興味を持ってしまう。
お店は古くても、ケーキは美味しいのかもしれない。
常連さんがいるから、潰れずに残っているのだろう。
でも、潰れないことが不思議なお店というのは、
日本中に存在している。
そんなお店なのかもしれない。
どちらにしても、
その秘密を探ってみたくなるのが、私の性格。
勇気を出して、いざ、お店へ。
店内は、昔ならごくありふれた、
現在では見掛けない、古い造りのケーキ屋さん。
小さめのショーケースに、
少量ずつのケーキが数種類並んでいる。
ショーケースのまわりには、
贈答用の焼き菓子が何種類か。
さて、何を買ってみようか。
と言っても、初めてのケーキ屋さんでは、
だいたい買うものは決まっている。
王道中の王道。
どのお店でもあるものを選ぶ。
いちごのショートケーキとチーズケーキだ。
このお店のケーキは、見ためがとても綺麗だ。
デザインはあまり特徴がないけど、
表面のなめらかさや
角がピシッと直角になっているところ。
とても丁寧な仕事だということが、ひとめでわかる。
これは、期待できそうだ。
そして、持ち帰り……。
ショートケーキをひと口。
生クリームのなめらかさ。
スポンジのきめ細かさとしっとり感。
失礼ながら、“町ケーキ”なので、
ここまで丁寧だとは思わなかった。
次に、チーズケーキを。
ベイクドだけど、パサパサ感はなく、
実になめらかな食感。
やはり、丁寧に作られていると思う。
ところが、ところが。
味の感想を後まわしにしたけど、
それは、ケーキの見ためや食感と味の差が、
あまりにも大きかったからだ。
これは大袈裟ではなく、ええぇぇ〜〜〜〜と、
声をあげて驚くほど、マズいのだ。
生クリームもスポンジもチーズも、
すべて味が薄い。
生クリームは、
低脂肪乳にさらに水を足した感じがするほど。
スポンジは、食器を洗うスポンジかと思うほど。
台所用スポンジを食べたことはないけど。
チーズは、遠くにほのかな香りがするだけ。
安い材料を使うのなら、
せめて甘さでごまかしそうなものだけど、
砂糖も節約している。
ほぼ味がない、と言っても良い。
見ためと食感は、プロ中のプロの仕事。
味は、ヘタな素人が作ったもの以下。
これほど違和感のあるケーキを、
これまで食べたことはない。
何とも不思議なケーキ屋さんだ。
この地域は高齢者が多いから、
脂肪や糖を控えているのだろうか。
ここのお客さんは、
「あっさりしている」という認識なのか。
甘さに弱い私でも、さすがに、
もう少し甘さを出して欲しいと思う。
でも、このお店は何十年も営業している。
つまり、常連さんがいるということ。
この地域の人たちにとっては、
“美味しいケーキ屋さん”なのかも。
味音痴か! と、悪態をついてしまうほど、
マズいと思うのだが、もしかすると、
贈答用の焼き菓子でもっているお店なのかもしれない。
田舎は、贈り物が多い。
でも、贈答品を扱うお店は少ない。
そんな需要が、このお店を支えているのだろう。
もし、この読みが間違っているなら、
私は自分の味覚を疑わなければならなくなる。