「フェラーリ」マイケル・マン
どんな映画か(ネタバレなし)
フェラーリの創業者エンツォ・フェラーリを描き、日本では7月5日に公開予定の映画「フェラーリ」。
全米では2023年末に公開されており、たまたま海外から帰る飛行機の中で観ることができた。
以前、映画は様々なことを教えてくれるということをロードムービーを例に書いた。
そしてその中で、ロードムービーが旅について教えてくれるように、歴史についても映画で学ぶことができると書いた。
その実例の1つがまさに今作「フェラーリ」である。
「スター・ウォーズ」のカイロ・レン役で大ブレイクしたアダム・ドライバーが主人公のエンツォ・フェラーリを演じる。
日本人も誰もが知る一大ブランドを、日本でもファンが多いであろう人気俳優が演じるということで日本でも注目の作品だ。
そういえば、2021年に公開されたグッチについて描いた映画「ハウス・オブ・グッチ」にもアダム・ドライバーは出ていた。
こちらも、一大ブランドが築かれる家庭のお家騒動という感じでスケールが大きく面白い。
イタリアのブランドとアダム・ドライバーは相性がいいのだろうか。
映画の感想(ネタバレあり)
まず、前情報なしで観た私としては、本作は少々肩透かし感があった。
というのは、本作は創業者エンツォ・フェラーリの「生涯」を描いているわけではない。
エンツォ・フェラーリが既に経営者として一定程度の名を馳せた後の、経営危機と逆転を賭けたロードレースの裏側、そしてエンツォ・フェラーリを取り巻く人間模様を描いている。
しかし、この人間模様というのもそこまで広くなく、エンツォ・フェラーリ、エンツォ・フェラーリの妻(ペネロペ・クルスの怪演が光る)、愛人、愛人の息子の4人がメインで描かれる。
つまり、本作はエンツォ・フェラーリの「生涯」を描いた作品ではなく、時間軸、登場人物ともにかなり焦点を狭めて描いている。
しかし、この点は勝手に「生涯」を描くと思っていた私が誤っていただけなので、それも踏まえて見れば特に問題はないだろう。
ただ、厳しい意見が続くが、焦点を絞って描いている割には何か特定の感情がすごく伝わってくるというわけではなかった。
もちろん、エンツォ・フェラーリの実の息子への想い、必要とされないことにより壊れていく妻の姿、エンツォ・フェラーリと愛人の関係性、愛人の息子の純粋さは心を打つものがあるし、ロードレースのシーンは息を呑むほどの迫力があった。
しかし、正直なところ、焦点を絞ったわりにはどこを強調したく、またそれを通して何を伝えたかったのかが個人的にはいまいち分からなかった。
有名なエンツォ・フェラーリの栄光と挫折ということなら、やはり生涯を通じて描いて欲しかったし、近年の「ナポレオン」や「オッペンハイマー」などの実話作品にはやはり見劣りしてしまう。
かつ、人間模様ということであれば、成功者の実子と愛人の子どもというテーマは少々チープに感じる。
そして、ロードレースシーンの迫力を見せたかったのであれば、最近だと「猿の惑星 キングダム」や「ゴジラxコング 新たなる帝国」などの大スペクタクルの方が絵力としては迫力がある。(当然、実話ではないわけだが)
というように、全てのポイントにおいて中途半端に思えてしまった。
もちろん、面白いかどうかでいえば面白いのだが、全体的に優秀な作品という感じで超優秀な秀でた何かというのは掴めなかった。
フェラーリという誰もが知る題材、アダム・ドライバーやペネロペ・クルスといった豪華俳優陣、日本でも期待度が高まっている作品だけに個人的にも期待度が高かったため少々厳しい感想となった。