「独身偽装」とは?独身と偽って交際した場合の責任は。

「独身偽装」は、上記の読売新聞の記事でもある通り、マッチングアプリなどの独身を前提とした出会いの場で、「独身」を偽って付き合うことです。偽ったあと、女性が妊娠したケースで、男性が責任を取らずに逃げてしまうという重大な被害が起きています。

刑法が改正され、不同意性交等罪が、23年7月13日施行されました。これをきっかけに、被害女性から「独身」と偽って性行為をしたなら、それは真の同意はなかったのでは?と問題意識を持った被害女性からご相談を受けました。

刑事責任

残念ですが、不同意性交等罪には該当しません。一番近そうな、改正刑法第176条1項8号ですが、本件のケースでは「社会的関係」には該当しますが、「影響力によって受ける不利益を憂慮させることによりこの状態にさせて」というところが、性行為当時に、「性行為に応じないと不利益を被る」という状態にはないので、構成要件には該当しないと思えます。

第211回国会 参議院 法務委員会 第22号 令和5年6月15日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121115206X02220230615&current=1

○政府参考人(松下裕子君) お答えします。
改正後の刑法第百七十六条第一項第八号の原因行為、原因事由のうち経済的関係と申しますのは、金銭や物のやり取りなど財産に関わる人的関係を意味しておりまして、例えば債権者と債務者といった契約によって生じる関係、あるいは雇用主と従業員、取引先の職員同士といった関係を広く含むものでございます。
また、社会的関係とは、家庭、会社、学校といった社会生活における人的関係を意味しておりまして、例えば祖父母と孫、おじ、おばとおい、めい、兄弟姉妹といった家族関係、あるいは上司と部下、先輩と後輩、教師と学生、コーチと教え子、あるいは介護施設職員と入通所者といった関係を広く含むものでございます。

020 齋藤健
経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることによりこの状態にさせて性的行為をすることを処罰対象としておりまして、これらに該当すれば、不同意わいせつ罪又は不同意性交等罪として処罰されることとなります。

したがって、改正刑法でも処罰対象にはなりません。また、刑法には罪刑法定主義という考えがあり、拡大解釈すべきとも言えません。正直なところ罰則を設けるならば、立法措置が必要です。

民事責任

誤解が多いところですが、「既婚」と知らなかったら、交際相手に配偶者がいても「不倫」にはならず、不法行為も構成しません。したがって、交際相手の配偶者から訴えられても、不法行為責任は生じません。

むしろ、貞操権の侵害を理由に、「独身」と偽られたほうは偽った交際相手に対して、慰謝料請求できる可能性があります。
貞操権とは、性的な自由に対する自由な意思決定です。不当な干渉を受けず、純潔を侵害されない権利のことです。
したがって、既婚者なのに相手が「独身」と偽って交際を継続していた場合、相手は被害者の性的な判断の自由を不法に侵害したことになるので、「不法行為」が成立する可能性があります。
すなわち、騙されずに性行為を選択する権利があります。
しかし、当事者の方からは妊娠したケースでも、弁護士からは150万円が相場と言われたとのことです。現実的には、貞操権侵害による精神的苦痛は安めに算定されています。
弁護士費用倒れしてしまうため、泣き寝入りが多くなってしまう理由です。

行政責任

業者に対して、「独身」を担保するよう強制できないか、という疑問があります。
マッチングアプリの場合、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」が適用されます。

(インターネット異性紹介事業の届出)
第七条 インターネット異性紹介事業を行おうとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を事業の本拠となる事務所(事務所のない者にあっては、住居。第三号を除き、以下「事務所」という。)の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に届け出なければならない。この場合において、届出には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。

事業者は届け出義務がありますが、これはあくまで18歳以下の児童の利用を防ぐための法律なので、業者に独身を担保する制度に求める法律になっていません。

問題

マッチングアプリの急成長で、色々と制度が追い付いておらず、男女間のトラブルと矮小化されてしまうようです。
最大の問題は、「独身」と騙された方は被害者であって全く悪くないのに、「なぜ見抜けないのか」とか「不倫をしたほうが悪い」とか「アプリで出会った相手を信用するほうが悪い」とか、被害者を批判する風潮があることです。

しかし、悪いのは明確に絶対に「独身」と偽ったほうです。上記の通り、民事責任は生じます。
不同意性交等罪の施行を契機に、同意のない性行為はだめだ、ということをもっと常識にしていかなければならないと思います。
この問題が多くの方に問題だと理解してもらえるよう取組みたいと思います。

2023年9月13日(水)夜、吉田はるみ衆議院議員と、滝沢やすこ江戸川区議と、「独身偽装」について、Xのスペースでお話しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?