本当は怖くない鉄分②:フェリチンは危ないという誤解
本当は怖くない鉄分;鉄分の摂り方記事のつづきです。
貯蔵鉄フェリチンの基準値についてはこちら(鉄分・貧血に関わる検査データのよみ方)を参照ください。
貯蔵鉄;フェリチンは細胞の中にあり、さまざまな鉄利用にそなえて貯蔵されています。
一番の鉄利用先は赤血球(ヘモグロビン)です。
なので、フェリチンは赤血球づくりへの利用が優先され、低フェリチンになっても、見かけ上貧血とならないという現象が起こりえます。
巷では、貧血のない鉄欠乏を「隠れ貧血」と呼んだりもしています。
つまり、一般的な貧血検査で貧血になっていないからといって、安心はできません。フェリチンを検査しないと分からないこともあります。
この記事は、公式ブログ(2021.06.14)のものを、一部改変し転載しています。
血清フェリチンとは? 細胞内フェリチンとの違い
細胞の中に蓄えられているフェリチンですが、細胞を取り出して中味を調べる検査は容易ではありません。
なので、検査では簡易的にとれる血液(血清)の中のフェリチンを測ります。それが血清フェリチンです。
医学的には血液は、血管内皮細胞が作った管の中の液体で、細胞の外にある細胞外液の一部です。
ちょっとややこしいですが、血清フェリチンとは、細胞内から血液中に漏れ出たフェリチンを測ることで、間接的に細胞内のフェリチン(鉄の貯蔵)をみる値です。
フェリチンが血液中に漏れ出る機序は、ふたつあります。新陳代謝と炎症です。
新陳代謝と炎症
● 新陳代謝では、身体はある時間軸で細胞を新しいものに作り替え、その際壊れた細胞から、細胞内液が漏れだし血管内に入っていきます。これは正常の生理過程です。
● 炎症は、まだ新陳代謝の周期にない細胞も、壊される過程です。身体としては、疾患として認識されることが多いものです。
炎症で漏れ出た細胞内液も血液に入るので、血液検査では新陳代謝での数字との差異で、炎症が起きていることを推測できます。
有名なのは、肝臓の炎症です。肝臓は痛みを発しない臓器なので、炎症は検査ではじめて見つかります。
肝機能の酵素と呼ばれるGOT・GPT(AST・ALT)は肝臓の細胞に多い酵素(たんぱく質)ですが、新陳代謝で漏れ出ている量(基準値)よりも大きくなると、肝臓に炎症があり細胞の破壊が進んでいる、と考えます。
肝臓の酵素と同じように、炎症があると血清フェリチンは上がります。炎症によって、新陳代謝より早い周期で細胞が壊されるからです。
ちなみに、フェリチンは肝臓だけではなく、すべての細胞内に貯蔵されているので、どこに炎症があるかの特定には役立ちません。
例えば、ウイルス感染症の重症例の全身性の炎症症候群(サイトカインストーム)などでは、フェリチン値は爆増します。
フェリチン値が、診断の要件になったり、予後予測の因子として使われるのたそのためです。
血清フェリチンが高いというのは、“貯蔵鉄が十分にある”という意味と、“身体のどこかに炎症がある”という両方の意味があるのです。
鉄剤は危険? 医師も間違える謎
ネット上には、鉄剤を飲むのは危険だと煽るサイトがあります。
医師を名乗る人が書いた文章を読んだことがありますが、基本的な誤解があるように思います。
前述の通り、鉄の注射薬には危険がありますし、一部の代謝疾患で鉄が身体にたまりやすい人がいるのは確かですが、通常は内服の鉄に危険はありません。
また、過剰にならないように、身体が吸収量を調節します。
内服の鉄は安全性の高いサプリです。
では何が誤解かと言うと、「フェリチンが上がると炎症が起きるので危険だ」という言説です。
上記のとおり、炎症で血清フェリチンは高値を示しますが、フェリチンが炎症の原因ではありません。
因果関係を取り違えています。
*
また、「鉄剤はカンジダ菌を増殖させる」という説もよく見かけます。
その節の真偽は…少なくとも医学書レベルではなく俗説の域をでないと考えられます(間違っている、とは断定できませんが)。
でも仮に、鉄剤を飲んでカンジダ菌によると思われる胃腸症状がでたとしても、それは鉄のせいではありません。
必須栄養素の鉄が悪いのではなく、鉄の吸収がよくない、腸内環境がよくないという身体の側の問題です。
鉄剤で、吐き気をはじめ、便秘、下痢、膨満感など胃腸の不調の副作用があらわれる事は珍しくありません。
解決策は、前稿の吐き気の項と同じで、たんぱく質をとり胃腸粘膜の状態をよくしていくことと、それまでは少しづつ頻回に飲むこと、という地味な方法です。
鉄の飲めない体質を治せる魔法のサプリなどはないと思ってください。
(腸内環境をよくすることにはこちらも参考にどうぞ)
↓
各論編;常在微生物のよろこぶ環境づくり~免疫その⑥‐2
記事中でも触れていますが、カンジダ菌は糖質が大好物です。
たんぱく質を増やすと同時に、糖質を減らすこともまた重要です。
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鉄は必須栄養素の中でも、トップクラスに重要な栄養です。
フェリチンを上げるのは危険だ、鉄剤は危険だ、という言説を見ても、気にする必要はありません。
フェリチン値の読み方の注意点
貯蔵鉄が増えてくると血清フェリチン値も上がってきますが、炎症がある場合にも血清フェリチンは上がります。
高くなってきたフェリチン値を見て、どっちだか判断するのは難しいかもしれません。
私の勤務先産科で妊婦さんの血液検査の結果をみると、妊娠初期(ほとんどの人は貧血気味で鉄剤とってない)でも、10人に1人くらいは、フェリチン高値(100ng/ml超くらい)の人がいます。
基礎疾患のない若い女性でも、身体のどこかに炎症がある事は珍しくないようです。
なので、はじめは鉄分が足りているかどうかは、フェリチン値を目安にするよりは、体感(参考:鉄分の重要性)を重視した方がよいと思います。
女性だと、冷え性、疲れやすい、イライラしやすいなどは、鉄不足あるある症状です。
身体に炎症があったとしても、たんぱく質と鉄分が満たされてくれば免疫の状態が良好になり、炎症が収まってくることはありえます。
栄養が満たされて、細胞たちが元気になってくれば、生理機能のバランスはおのずと整うという事です。
怖がらずに、鉄分摂取してみましょう。
フェリチン値どのくらいをめざす?
前稿で検討したこちらの図表を参考に考えます。
(金森 きよ子他;生物試料分析 Vol. 38, No 2 :2015より一部筆者改変)
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血清フェリチン値(大学生・大学院生 男性:36名、女性:108名)
健康な大学生/大学院生の男女間で、フェリチン値には大きな差があります。
しかし、フェリチンは男性にだけ必要な物質ではないので、女性が低いのは欠乏と考えられます。
ちなみに、男性でも女性と同じレベルに低い人がいますが、これは相当な栄養不良と考えられます。
一人暮らし男性の食生活は糖質過剰で栄養不足が多いのですが、大学生男子の食生活も想像以上にいけていないかもしれないです。
このことから、健康男性の殆どと同じくらいまでフェリチンを上げる事が目標値になると思います。
約1/3の男性は101ng/ml以上で、約半数の男性は71~80ng/ml以上です。
まずは80~100ng/ml以上をめざしてみましょう。
これは私も経験がありますが、月経のある女性がフェリチン100ng/ml達成するのは容易ではありません。
たんぱく質摂取が足りないと鉄剤の吸収力も落ちますので、あせって鉄をふやすより、たんぱく質重視の姿勢で取り組むのが早道と思います。
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