映画人/ジャッキー・チェンについて②

前号の続き

こんにちはケニー・ケンヤ・ヤストミです。
途中まで「警察故事と英雄故事」について書いていたのですが
やはりジャッキー・チェンと言う人を紹介するのは
大変に難しく、一筋縄ではいかなくなってしまいました。

本題に行き着く前に
世の中の「ジャッキー・チェンと言うアクションスター」と
私の中の「ジャッキー・チェンと言う映画人」
ここの穴埋めをしないとなかなかお話が難しいように思えてきました。

前号では

先日、時に若手の映像作家と話していると
娯楽中心の作品がやり玉に挙げられてしまったり
中でも『香港映画は中身がない』などの
言葉を貰うことが多かったことを書いた。

映画人/ジャッキー・チェンについて①

こういった少しアート嗜好が強い方々から
娯楽作を中心に主観的な意見を貰うこと
とその中でも『香港映画』は『香港アクション映画』を
暗に指し示す部分もあり
時に娯楽作を作る人へのヘイトなのか
何かねじ曲がった中国へのヘイトのようにも感じました。

ただ
『香港と言えばジャッキー・チェン』
と言うくらいに日本ではお茶の間スターだったし
香港=アクション
と言う代名詞はジャッキー・チェンが居たから
口にされる言葉でもあると言える。

果たして「香港アクションは中身がないのだろうか?」
またこれは娯楽とアートの戦いを煽るものではなく
中身を観ようという試みだと思ってほしい。
ジャッキー・チェンを知ろうという試みでもある。

ジャッキー・チェンを知り直す

私は決してジャッキー・チェンへ明るい人間ではないが
ジャッキー・チェンを
「アクションスター」
「スタントマンあがりの役者」
「カンフースター」
と言う軸で話をすることをまず辞めなければならない。

ジャッキー・チェンは7歳で中国戯劇学院に入学
10年間、中国の伝統芸能を学ぶ。
京劇とは日本の歌舞伎と思ってもらえれば良いのではないだろうか?

朝の5時から夜の23時まで
京劇に必要な、歌・踊り・アクロバット・芝居などを勉強する。
加えて、中国の伝統的な戯曲と多く触れ合い、演じてきた。

また中国戯劇学院で「七小福」と呼ばれる7人の選抜メンバーにも選ばれる。
時代とともに京劇は下火になり、映画が台頭し来ます。
そこに持ち前の立ち回りや演技力で役者・スタントマンとして名をあげ
武術指導・アクション監督としても重用されていきます。

またジャッキー・チェンのオーストラリアでのインタビューを聞くと
若いころ、アングルを知り、カメラを覗くため、レンズを知るためにカメラアシスタントもしたそうです

10年間の伝統芸能キャリアに加えて映画のたたき上げの勉強。
これがあのアクションシーンを産んだと思うと納得ができる。

俳優・技術者として革新的な発明

「ドランクモンキー酔拳」を皮切りに日本のみならず世界中で長く愛され
90年代後半にはハリウッドデビューを果たし。

かつてハリウッドではアクションシーンの編集は
イマジナリーラインを敢えて崩し、観客に位置関係を混乱させることで
激しさを強調させていたが

映画の帝国ハリウッドさえもジャッキー・チェンの到来によって
・イマジナリーラインを意識したアクションつなぎ
・視線誘導を意識した編集
・ヒッティングやダメージ強調のダブルアクション
今では採用している。

しかし、真似できないのはジャッキー・チェンのお家芸と言える

・バスター・キートン、フレッド・アステア、ジーン・ケリー、マイケル・ジャクソンのようなワイドアングル
・望遠気味でアクションを過剰に演出しないゆったりとしたカメラワーク
・ワイドレンズのパースに頼らない構図
・子供が真似したくなるような動き

などのポテンシャルと技術が相まって
初めて成立する分野においては未だにハリウッドも追いつくことが難しいように思う。

あるアクション映画の監督は
「歪みの少ない10mmのワイドレンズが好きだ」と言う。
対して
ジャッキー・チェンは「僕はワイドアングルが好き」と言う。

両者ともにアクション映画の造詣は深く
文句なくすごい方々だがアプローチが全く違うのだ。

前者はレンズの遠近感を使うことで
カメラに近寄ることでポージングやパンチ、キックを強調することができ
漫画的なカッコいい演出ができる。

後者は遠近感が薄いがその分全体をクリアにマットに見せることができる。
その分、アクションの凄さも半減して見えるかもしれない。

アクション映画において、どちらかしか使わないと言う事はないが
それぞれ重きを置いているポイントととして後者に重きを置いている人で
ここまで凄い人は私は知らないと思う。
またこれらは技術的なアプローチだけれど
今のアート嗜好の人は分かってくれるだろうか?

少し話がそれてしまったが、技術者としても
門外漢の私ですら、これだけ思い馳せることができるのは
大変稀有なことだ。

監督として

少しここで話を戻すが、ジャッキー・チェンと言う人は
監督として

・クレージーモンキー笑拳 78年
・ヤングマスター/師弟出馬 80年
・ドラゴンロード 82年
・プロジェクトA 83年
・ポリスストーリー/香港国際警察  85年
・サンダーアーム/龍兄虎弟 86年
・プロジェクトA2 史上最大の標的 87年
・ポリスストーリー2九龍の眼 88年
・奇蹟・ミラクル  89年
・プロジェクト・イーグル 91年
・WHO AM I? 97年
・ライジングドラゴン 2012年

約10作品もの監督作品を手掛け
そのどれもが娯楽作品としてもまず満足度の高い楽しい作品が
粒ぞろいであることは言うまでもない。
78年から91年まで怒涛のスケジュールや大怪我の中で
なんの大義もなく10本もの作品を作れるのだろうか?

『当時のジャッキー・チェンには取り巻きがたくさんいて
フランキー・チェンやチェン・チーホワなどが援助してたんだよ。』

そんな声も聞こえてくるかもしれないが

では作品の主張の一貫性までは説明がつくのであろうか?

ポリスストーリーについて書きたかったわけですが
前段としてここまでのお話となってしまいました。

最後に

どうでしたか?
ジャッキー・チェンってどんな人でも楽しめるような
素敵な作品を送り届けてくれています。

アクションスター/凄いスタントの人

そんなパブリックイメージと少し離していくと
物凄く芸術に偏った人なのだと思う訳です。

市川海老蔵が映画のスタッフワークまで覚え
殺陣師としてパイオニアのような功績を成し
監督業をこなし、世界中の映画にその手法が取り入れられ
歌舞伎イズムが息づいている。

そんな事をやってのけてしまったのが
ジャッキー・チェンと言う人なのだ。

そんな人が命を懸けて、おもてなしをしてくれた作品が上の作品群だと思うとなんだか見え方が変わってくるのです。

ケニー・ケンヤ・ヤストミ

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