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エパミナンダス2🕯️ バターが溶けるのは夏!

ストーリーテリングはお話を覚えて語ります。
覚えるまでの労力はかかりますが、覚えてしまうといつでも語れる。

それは、嘘。

聞き手にお話を届けるには、語り手の中でお話が動いてなければなりません。語り手も人ですもの、お話が動かない時もあるのです。

エパミナンダスの話の2番目のエピソード。

おばさんいもらったケーキをギュッと握って帰ったら帰ったときにはボロボロになっていたので、お母さんに

「ケーキをもらったらね、きれいなはっぱにつつんで、それを帽子ン中へ入れて、それからその帽子をあたまの上にのっけて、そっと歩いて帰ってくるもんだ。わかったかい、エパミナンダス」と言われます。

東京子ども図書館 「おはなしのろうそく1」 エパミナンダスより

次の日、おばさんは、できたてのバターを1ポンドくれました。

そう、エパミナンダスはお母さんに言われたとおり、バターを帽子の中に入れて頭の上にのっけて帰ってくるのです。

その日は、とても暑い日でした。(中略)バターはとけて、とけて、とけて、エパミナンダスのひたいにも、耳のうしろにも、首すじにもたれてきました。うちについたときには、エパミナンダスはバターだらけになっていました。

暑い中、バターが溶けて耳のうしろを伝い首すじにたれてきて、なんて気持ちが悪い。
語り手が気持ち悪いと感じるのが聞き手の子どもたちに伝わって、子どもが首をすくめる部分。このあたりから聞き手が語り手の感覚を共有していくところ。

ところが、バターが溶けない時もあるのです。

学校でクラスごとに語るときは偏りが出ないように同じ話をすることが多いです。6クラスあるので、月1回の訪問では、6月くらいから始まって6,7,(8月は夏休み)9,10,11,12月が最後。
6、7月はいいのです。
暑くて蒸し蒸ししてバターはあっという間に溶け始めます。
ところが、秋になり、冬になり、12月にもなると、言葉は「バターはとけて、とけて・・」と続くのですが、語り手の私はセーターを着ているし、子どもたちは寒さに身を寄せ合って聞いている。

バターが溶けません。

ストーリーテリングの面白さは、語り手が作り出す空間で聞き手の心が自由に遊べること。

ところが、バターが溶けません。

語り手も聞き手もお話の世界に入っていけない。

言葉を情報伝達の記号としてとらえるなら、いつでも記号は伝わるでしょう。
けれど、気持ちや想いを伝えるものすれば、その時々で伝わるものは変わります。
読書で「行間を読む」と言われるもの。

春には「とりのみじい」「うぐいすの里」
夏には「エパミナンダス」「おんば皮」
冬には「馬方やまんば」「笠地蔵」
その季節、季節で聞きたい語りたい話があります。
だって、聞き手も語り手も同じ季節に身を置いているのですから。

そういうわけで、私の中でエパミナンダスは夏のお話になりました。
冬には「バターが溶けない」ので、語らない!

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