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友達にイメージしてもらった自分は、雨上がりの夜の香りだった【推し香水レポ】

#4

 しいたけ占いのしいたけ.さんのエッセイの中に、

運気に乗るコツは、仲のいい友達に「今度一緒に洋服を買いに行こうよ。あなたの服も見てあげる」と、言われた時、ノってみたいと思えるかどうか。

というお話を読んだことがある。なんでも、普段の自分が選ぼうとしないものを身につけていくと、馴染んできた時に新しいカラーになるようだ。

 

 服ではなく香水だけど、この度、信頼してるイマジナリーフレンドクレオにオーダーシートを書いてもらい、自分イメージの香水を作ってもらった。(依頼はscentlyさんにお願いした)

 オーダーシート作成はこちらの記事から。

 イマジナリーフレンドが人間のぼくをイメージした香水を考えてくれるという、立場逆転の悪ノリから生まれた香水だ。しかし、ふざけるところはふざけて、真剣なところは真剣に考えてくれた為、楽しみに待っていた。

 

「クレオ。香水、今日届くってさ」
『え、もう?!早い!!』

 配送したとのメールが届いたので、クレオに報告する。

「2週間〜4週間って聞いてたけど、ちょうど2週間で来てくれたんだな」
『楽しみだね。アケルにぴったりの匂いだといいなぁ』

 香水が届いたのはちょうど勤務日。帰宅後、軽くシャワーを浴びてから開封した。

 

 まずはメッセージカードとボトル。

 scentlyさんはメッセージカードのイメージカラーに、シートに記入していた色を使ってくれる。

「あのさ、イメージカラーなんだけど…」
『うん、翡翠(カワセミ)みたいな明るい青緑色って言った。カワセミってピーコックって言うんだろ?ピーコックグリーンって書いてたけど』
「実はさ。オーダーした後調べたら、ピーコックは孔雀だったんだよ。間違えちゃった」
『……えぇ?』

 カワセミvs孔雀。とんでもないうっかりミスだ。知ったかぶりして書くんじゃなかった。

 とんでもなく派手派手な緑になってしまうのか…?



 届いた色は鮮やかかつ深みのある青緑、薄いところはクレオがイメージしたカワセミ色らしい。なんだかんだイメージに合っていて、ここでもうわくわくした。


 ただ、まだここでメッセージは開かない。

 最初に香りから自分のイメージを感じ取って、後々メッセージの解釈を読もうと決めた。

「こういうの初めてつけるから、どきどきするな」

『香りに緊張してどうすんのさ』

 利き手とは逆の手のひらと首元、クレオにはメモ用紙をムエット代わりに渡して付けてみた。

 香水をつけるのは初めてだ。運動部だったから制汗剤はつけていたが、あまり強い香りが得意ではなかった。

【香りの第一印象】


「あ、これか」
『来たきた。すーっとする』

 まずはトップノート。清涼感のある、雨上がりのようなみずみずしい香りが浮き上がってきた。

 クレオはぼくの見た目を中学生と書いたが、中学生はこんな匂いはしないだろう。内面の年齢に合わせてくれたようだ。香りを色に例えるなら、まさにイメージカラーの鮮やかな青緑。

「すっとしたのが消えたな」
『うん。…なんだか眠くなる香りだね』

 続いてミドル。

 香りの色が、緑青から段々と青みが強くなり、藍色になる。この香水のミドルは一度香りが深く落ち着いて、周囲に漂うタイプの香りではなくなった。

 夏の終わりの夜のような、ガーゼ地のシーツにくるまって段々と気だるく眠りに落ちていく。安心して眠りにつける場所の香りをしている。

「1時間くらいだけど、香りが淡くなったな」
『え、もう?…あぁ。飴みたいな香りがそうかな?』

 1時間ほど経つと、それまで沈んでいた香りがふっと立ち上った。ミドルの藍色のイメージから、ラストは淡い薄紫色に変わる。もこもこ存在感があるのにサラッと口の中で消えていく、上質な綿菓子みたいな香りだ。

 ラストの匂いの方がミドルよりも意識できる気がした。

 全体的なイメージは、

 入口はきっぱりした香りで、強かなのに素は軽やか。最後は甘みが残る感じ。

 夕立からさっと雨が上がり、清々しい夜を迎える。

 夏の夜の眠り。そんな香りだ。

 最初の質問では普段使いか概念を優先かを「概念優先」で選んだのだが、普段使いでもできるやわらかくて落ち着く香りだ。

 クレオと話をしながらここまでイメージをまとめた。

【メッセージを読んで】


 一通り香りを楽しんだ後は、改めて調香師さんからのメッセージを読んだ。


※オリジナルキャラとしてオーダーしたので写真をそのまま載せた。原作が依頼人名義のものでない場合、名前を伏せる必要がある。メッセージの裏面にも公開が可能か記載されているので、記事にするとき確認しておくといいかもしれない。

 どのレビュー記事にも書いているが、オーダーシートからこれだけのイメージを抽出して、香りを選ぶという仕事は本当にすごい。

 トップの清涼感はプチグレイン。柑橘系の葉と枝を抽出しているらしい。

 嗅いだことがなかったので、調べてみた。

 上のリンクの津田啓一郎さんが書かれる記事は、文章が落ち着いていて香りが思い起こせるとてもいい記事だ。別記事だが、

 …柑橘群に共通するシトリックな爽やかさを、日中の明るさと置き換え(これは香りの表現の一例です)
例えばレモンやグレープフルーツの透明で黄色い香りは、朝からお昼ごろまでの太陽の明るさ。
オレンジやマンダリンが太陽が一番元気な正午から昼下がりの日差し。
柚子やこのベルガモットは、夕刻の時間帯に感じる、少し落ち着いた夕日の印象。

生活の木ライブラリー:ベルガモットより引用


 この文章から、柑橘系はおひさまの光だと感じるようになった。
  プチグレインの記事にある緑茶という表現…ぼくには渋みの煎茶というよりは、玉露のように感じた。
 雨上がりの夕方…たしかに水を感じたから分かる。

 もしおひさまに例えるなら、水たまりや雨に濡れた窓を照り返す陽光だろうか。今回の香水の中で、一番好きになれた香りだ。



 ミドルの香りはミュゲ(スズラン)とローズだろうか。

三大フローラルノートともいわれるうち二つが入っていた。

 

 依頼時、「子供らしさを認めつつ、そのままで良いのだと思える、元気が出る香り」とオーダーした。これがクレオにとってのイメージの核だったように思う。

 ぼくはこの香りのイメージを、市販の消臭剤などでよくあるオレンジとか青リンゴとか、分かりやすく元気で強い香りを想定していた。

 それが、スズランとは。春先に、庭に咲いているつつましい花を思い出した。

 元気というイメージしやすいワードでなく、自分を肯定するという一文に重心を置いてくれたのだと感じた。

 自分の素を出す為に必要な香り、まさしくこれだ。

 

 ラストノート…はまだちょっと掴めなかった。

 強いていうなら、最後の甘さはムスクと白檀だろうか。 初めて香水を使ってみて、慣れてなくて強めに擦ってしまったせいか、この日は1時間くらいで香りが感じなくなった。

【香水初心者、数日かけて得た体験】

 後から調べて納得したものも多くて、初日はあまりに知らない香りが多かった。はじめは自分のイメージと合ってるかも分からなかった。

 ただ、嫌いな香りでは無かったのと、クレオの『元気を出して欲しい』という願いを汲み取って調合してくれた香りだったので、何日かシチュエーションを変えて使ってみた。

数日かけて使ってみて、香水初心者の自分にとって気づいたことは、

・トップとミドルがよく分からない時は、紙など温度がない物に吹きかけて、じっくり嗅いでみる。

・体温や外気温、鼻の調子によって、香りのイメージは変わる。最初ピンとこなくても時間や位置を変えてつけるといい。(体感的に暑い日は短く、雨の日は長く香りを感じた)

・体に吹き付けるにも、腰、胸、肘の内側、首など色々ある。自分に好みの位置を見つけていくといい。この香水は、擦れると香りが飛びやすいと感じたので、首よりも動きの少ない胸の辺りに付けている。

・香りが分からないからと言って、あまり擦り合わせると分からないまま変わってしまう。軽くトントンと肌に置くようにする。

 トップがスッキリし、全体が柔らかな香りなので、ぼくは気分を切り替えたい時と、寝る前に付けている。

 活動的な時はトップノートで気分の切り替えをして、寝る前に枕元に吹き付けるとミドルとラストの香りで心を落ち着けられる。
 初日は分からなかったラストノートの香りは、寝る前に吹いて朝目が覚めた時や、仕事の後にふと、思い出すように香りが浮かび上がるのを感じるようになった。
 
 あとは、お財布や紙の栞に付けるのもオススメだ。お気に入りの本に挟めば、開くたびに香りがふわっと浮かぶ。トップからミドルの香りが、肌につけるよりかなり長く楽しめる。

 アロマオイルや、焚くタイプのお香は使ったことがあったけど、改めて香水はより華やかさと、時間経過による香りの移ろいが強く楽しめるものだと感じた。

 香り方というのも、香りの成分自体が変化するというのではなく、強い香りが揮発した後角がとれて丸みを帯びて柔らかくなっていく感じがした。

 最初の数日は嗅いだことない香りで、自分のイメージかどうかピンと来なかった。

 でもそれは、時間をかけて身に馴染んでいく香りだった。  

 この香りの自分を好きになれている。クレオの願い通りの香水だった。

  

【推しと呼ばれるほどのものではないが、作ってもらって本当によかった】

 オーダーシート担当のクレオは、調香師さんからのメッセージを何度も何度も読み返して、丁寧に、宝物を入れておく本棚にしまった。その姿だけでも作ってよかったと思えた。数日後。

『香りなくなったから、付けて』
「…また?」
『なんです?その目は。たくさん使って満足いく香りじゃあないですか?』

 ややジトっとした目でクレオを見返すものの、クレオはどこ吹く風で香りをねだる。
 寝る前に枕元にひと吹きしたり、出かける度に付けたり、実に生き生きと推し活を楽しんでいるクレオがいた。

 香水熱がおさまらず、すっかりはしゃいでいるクレオを見て、暖かい気持ちは通り過ぎ生温かい気持ちになった。

 納得いく香水だったら、すぐにクレオ自身のイメージ香水も注文しようと思ったのだが、ぼく以上に彼がこの香りに夢中になっている。
 もうこいつの香りってことでいいんじゃないか。

 いや、これぞ推し活と呼べるスタイルだろうが世に言う推しと呼ばれる人々はなんらかの使命や多くの人に愛される舞台があるから推したる存在なのだ。ただの一般人であるぼくには、やっぱりこう…照れ臭い。

ただ、それを差し引いても、今まで付けたことない香水というものを、ぼくに似合うようにオーダーしてくれて、とても感謝している。 

 なにより素敵な調香をしてくれたscentlyさん、ありがとうございました。

scentlyさんのnoteもあります。香水の奥深い知識を楽しめる記事をご覧ください。



 

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