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りんごフレーバーの水煙草。交わった視線と赤いシーツ

話を始める前に、僕の性別について。
僕は「女性」だ。
一人称が「僕」と「私」の時があるので
混乱させて申し訳ない。

視線が交わった。
その視線がどんな種類のものか
私もその人もすぐに理解した。

大きな音楽が流れている。
人々は楽しそうに踊っている。

私は賑やかな夜に疲れて
バーカウンターに腰を下ろしていた。
手にはカエピリーニャ。
少し甘すぎる。
何杯目だろう。

そろそろ帰ろう。
一緒に来た友人は
どこかに消えてしまった。

私はひとりぼっちで
グラスの残りを飲んでいた。

視線を感じる。
私は振り向いた。
その人は壁にもたれかかっていた。
私をじっと見ていた。

私もその人をじっと見た。
背が高い。
巻き毛とこどもっぽい目が印象的だ。
口角の高さがアンバランスだ。

私はその人を連れて帰った。
ルームメイトを起こさぬよう
アパートメントの扉をこっそりと開け、
部屋へ連れ込む。

私の真っ赤なベッドの上で
服を剥ぎとって眠った。

私たちには共通言語がなかった。
その人は私の言葉を話さなかったし、
私はその人の言葉を話さなかった。

それでも、その夜
ひとりぼっち同士
一緒のベッドで眠った。

その人の体からは
今までの裸とは違う匂いがした。

私はその人の体の匂いを楽しんだ。
その人は私の好きにさせてくれた。

私たちは昼過ぎに目を覚ました。

その人は私を
シーシャのお店に連れて行った。

エキゾチックだった。
今まで触れたことのない
音や香り、言語で溢れていた。

その人は私の手をひいて
店の中を歩いた。
アジア人は珍しいのだろう。
視線を感じる。
その人と私は横並びに座り
水煙草のフレーバーを選んだ。

りんごのフレーバーだ。

そのりんごの香りは
ふじのような優しい甘さとは違う。
酸味が強く、スパイシーで
尖った香りだった。

その人は私の肩を抱き、
私はその人の香りとりんごの香りを
一緒に吸い込んだ。

私たちは連絡先を交換せずに
笑顔で別れた。