終競馬と競走馬と引退馬と
こんばんは。
十九歳で馬の専門学校の研修を修了し、二十歳の年度で北海道の牧場に就職しました。
牧場ではしっかりと新馬戦を迎える前の競走馬に騎乗し調教をしておりました。
坂路調教が主でしたが平地のコースを走ることもありました。
個人的な感想としては坂路調教の方が馬を走らせるのが大変ですが、成長を感じられやすいです。前はこのタイムで登るのに疲れていたけど最近は楽に登ってるな。と思います。
平地のコースは力を抜いた走り方ができるかどうかなので馬の動きを邪魔しないようにしたいところです。
しかし、調教では四頭ほどで部班運動を組むので前との距離を保たないといけなく、苦戦しました。
銜というか手綱を握ってスピードを抑えなければならず、確実に馬の動きは邪魔してしまっていたかなと。
最初に調教をさせてもらった競走馬のことですが、二歳の九月でしたが、まだ北海道の育成牧場にいて、おとなしい馬でした。調教が同じ組の他馬と比べて、全く暴れませんでした。
良い馬だなと思っていましたし、まだ競走馬に慣れていないからこういう馬が来たのだと思いました。
しかし、調教になると前進気勢というかスピードが乏しいように感じました。前に出ていく気持ちがないと銜で力を溜めることもできないので、まだ勝利するのは厳しいかなと思いました。
その後調教師さんの元に馬運車で運ばれましたが、その後行方が分からなくなりました。
僕自身がダービースタリオンをやっていた時、勝てなくても九月の未勝利戦までレースには出走させていたのですが、
現実の馬主さんは見切りをつけたら引退させて、所有馬ではなくさせるそうです。
この後も競走馬の調教続けていましたが、
なんとなく、この馬のことが気になりました。
行方不明は行方不明で生きているかもわからない。
これを先輩から聞いた時には、
「この厩舎で一番下手な自分が未来ある競走馬に乗っていて良いのか?」だって上手い人が乗れば一発で治る悪癖や、走り方の改善も自分が乗った場合何回乗っても治らない可能性がある。
最終的に考えたのは
「僕は馬に乗りたいけど、馬は僕に乗って欲しいと思っていない」
自分が競走馬に乗りたい。強い馬を作りたい。と思っっていましたが、
根底には競走馬が好きだという気持ちがあって、
その好きな競走馬の命を自分が乗りたいだけの調教でつぶしてしまうかもしれない恐怖から、ふさぎ込んでしまい、二年経たないうちに退職してしまいました。
下手なのは下手だったし、上手いと言われることもあったし、癖が無くなったと褒められることもありましたが、
結局、気持ち、心がそういう代償を払うほどのものではなかった。
気持ちの上でプロではなかったのだととても自分が嫌いになって、実家に帰ることになりました。
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