お話を覚えるための筋肉 | ストーリーテリング
オルタナティブスクールで低学年クラスの担任をしています。
わたしは読み書きや計算を教える中心的な授業(約90分)を担当しているのですが、毎回、授業のしめくくりに10〜20分程度の素話(ストーリーテリング)をすることになっています。
これは、記憶力の土台となる「思い描く力」を育み、子どもたちの気分や呼吸を整えてあげるためのもので、わたしがかなり力を注いでいる仕事の一つです。
限られた時間でいかにお話を「覚える」か
担任になりたての頃、「毎日毎日違うお話をするなんて、一体どうやって時間をやりくりすればいいの?」というのが目下の悩みでした。
とにかく、覚えるのに必死。
不安や自信のなさから、語っている途中で頭が真っ白になることもありました。それがもう怖くて怖くて。苦手意識をどんどん強くしていきました。
ですが、二学期に入った頃、ふと「お話を覚える筋肉」がそれなりについていることに気がつきました。
お話を覚える筋肉とは・・・ベテランの先生から教わったのですが、この筋肉さえあれば、原文を5回読む程度であらすじが覚えられ、肉付けも自由自在にして語ることができるそうです。
必要に迫られて、いつのまにか自分なりの筋トレ法を確立していたようです。
前日に仕込み→翌日に披露という、かなり切羽詰まった状況が前提のものですが、いつものやり方を少しだけご紹介します。
前日の仕込み
①お話のテキストをさらっと一読します。このとき、機械的に段落番号をふりながら、お話の長さや雰囲気を把握していきます。
②場面の変わり目を探します。変わり目がわかりにくいときは、場所や登場人物の変化、「あくる朝、」など、時間の経過を表すことばに注目してみます。
変わり目はどこだろう?と考えることが、お話を味わうことにつながっている気がします。きちんと映像を思い描きながら取り組むことで、いつのまにかあらすじも入ってきます。また、何度かに分けて語りたいような長いお話のときにも、つづきが気になる終わらせ方をするのに役立ちます◎
③登場人物の言動から、性格を考えてみます。
たとえば
森の中に迷い込んだ女の子が、遠くのほうに小さな灯りを見つける。近づくと、それは人の家だった。泊めてもらうために、家の戸を叩く。
というシーン。
昔話によくある光景ですが、「わたし、こんなに困っていて」と悲劇的にアピールする子もいれば、「ねぇ、今晩泊めてよね?」と軽やかにお願いする子も。同じような状況でも、言動から違いが見て取れます。
キャラクターがしっかり思い描けていれば、本番でいざ細かい文言を忘れてしまっても大丈夫です。その人っぽい言い回しでなんとか乗り切ることができます。
④お風呂に入ったり、家事をしたりしながら、とにかく何も見ない状態で一度語ってみます。何だっけ?と気になるところが出てきたら、あとでテキストを開いて確認します。
何だっけ?のフラグを立てることは、記憶のしやすさにつながるそうです。なので、この時点で細かい文言を覚ていなくても全然気にしません。とにかく、「書いてありそうなこと」を本気で予想しながら語っていきます。
⑤覚えていてもいなくても、潔く眠ります。(意外と大事かも)
当日の朝
①最寄り駅までの徒歩20分、ぶつぶつつぶやいて練習します。
②電車内でテキストを開き、練習でつまづいたところを読み返します。(何だっけ?フラグの回収)20分しかないので、おのずと集中力もあがります。
③駅から勤務先までの(またもや)徒歩20分、ぶつぶつつぶやいて練習します。
→ いざ、本番へ!!
補足
どうしても、この時間すら取れないときは、過去のネタを引っ張り出して再話しています。
逆に、時間に余裕があるときは、テキストを自分の言葉に直してから書き起こしたり、動きを伴った稽古をしたりと、お話を「仕上げる」方向の工夫を重ねます。
「思い描く力」がまだうまく使えなかった頃、絵に描いて表してみたこともあるのですが、それよりは動きを伴った稽古のほうが、わたしには有効だと感じました。
「安心」をつくる要素とは
おそらく、一年前のわたしがこれを読んでも、「え、それだけで大丈夫?」と心配になったことでしょう。まずは文言をきっちり覚えることが「安心」につながると思っていましたから。
でも、今となっては考え方が変わりました。お話をいきなり「覚えよう」とするとしんどいです。まず「楽しもう」「味わおう」があって、その次に「伝えたい」が湧いてきて、やっと「覚えよう」に入っていく。この順番はなかなか侮れないと思いました。
まとめると、
◎頭で映像を思い描きながら、しっかりお話を味わっておく
◎きっちり覚えていなくても、「覚えている限りで語ってみた」経験を練習の時点で積み重ねておく
わたしにとって大事なのはこの二点です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。