【いじめ】吃音症で障害者手帳を取得することを決意するまでの記録①(10歳)
始まりの記憶はおぼろげだ。
のちに両親から聞いた話によると、保育園の頃から吃り始め、小学校へ入ると、担任の先生からもその旨の報告を受けていたらしいが、本人はいたって楽しく登校していた。
本人が持つ一番遠い記憶は、小学校5年生の春、運動会の演目「組体操」の練習での一コマだ。
A型が多い家系に生まれたせいだろうか、性格はバカが付くほど真面目だったと思う。
6年生の足を引っ張らないように、と必死に笛の合図で動いていた気がする。
曲は中孝介の「花」だった。長い笛がピーっと鳴る。決めポーズの場面だ。
私は、立ち位置が間違っていた男子同級生に「K君はこっちだよ。」と言った。
言ったつもりだった。
そして、この瞬間から、その後永遠に私というものを苦しめることとなるとは、その時は全く分かっていなかった。
実際に口から出てきた言葉は似て非なるものだった。
「こ!こ!こ!!〇〇くん、、、こここここっっっち!!」
すぐにおかしいことには気が付いた。
しかし、時間は止まらないし、口も止まらない。
とにかく息が苦しかった。息ができなくて頭に血が上る。息が苦しいのを何とかしようと、必死に次の言葉を繰り出すが、自分の意のとおりに音は出ない。喉を何かが邪魔しているような感覚に襲われ、慌てて首を掻くも意味はなかった。
頭が熱くなるのを感じ、絶望する。
あぁ、終わったな、と思った。
小学生というのは、世界が狭い。
こういった小さなミスが命取りになることは、それまでの小学校生活で学んでいた。
小学生は、とても残酷で、酷いことができてしまう生き物なのだ。
数秒が経ったのだろう、
すぐにK君なる同級生の隣にいた男子が、「変なの(笑)」と呟いた。
それを皮切りに、まさに花が広がるように円形の立ち位置に笑いが起こった。
「なに今の(笑)」
「こーこーこーだってぇ(笑)」
「そんな必死?」
「いみわかんな~」
「ね(笑)」
それから、授業が終わるまでの記憶は無い。
でも、その瞬間のことは、一生忘れられない。
断言しても良いが、その時周囲にいた同級生たちは絶対にこの出来事を覚えてはいないだろう。
だが、私の心は傷付き、以後、いじめの対象となる一連の流れのきっかけとなった出来事だった。
その日の給食の時間。
小学校の給食当番は、外側に児童の名前、内側に担当が書かれた手作りの円グラフを毎日少しずつ廻して、順繰りに役割を担う、という制度だった。
牛乳やご飯など重たいものは二人で担当し、茶碗やお箸などは一人で担当する。
給食当番となっている者は、自分の担当のものを給食室に取りに行き、教室へ戻り大皿からクラス人数分の小皿に取り分けるのだ。
その日、私はご飯の担当となっており、もう一人の担当のS君と、給食室から教室までご飯を運ぶはずだった。
しかし、その日S君は、給食室に取りに来なかった。
何となく察しがついた。
S君は、先ほどの体育の時間、笑いの渦の中にいたうちの一人だった。
私は、諦め、一人でご飯を運ぶ決意をし(かなり重たいのだ)、給食室から教室に向かって運び始めたのだが、2階へ上がる途中、踊り場の隅で、S君を含む同級生の男子数人がたむろっていた。
私が無視して通り過ぎようとすると、
「あーあーあー(笑)」
「こーこーこー(笑)」
「おい、きもいって(笑)」
「おまえこそ(笑)」
「近づいたらウツルって」
わざとだ。
わざと、聞こえるようにやっているのだ。
陰湿だ。
そして、小学生に逃げ場はない。
すぐに泣きそうになるが、ぐっと堪えた。
泣いたら、もっと言われることが目に見えていた。
なんとか階段を上がり、教室へ入ろうとする直前で、持っていたご飯をS君に奪われた。
素晴らしいアイディアだ。
それによって、S君は「サボりではなくなった」のだ。
先生の見えるところでだけ、活躍するのが小学生の出世術、といったところだろうか。
さらにそこでワンポイント。
S君は、私から奪ったご飯を持つ際、なるべく私が持っていた部分に触らないようにして、ご飯を持ったのだ。
「ウツル」というわけだ。
その日を境に、いろいろなことが起こるようになった。
廊下の角では、こちらをニヤニヤと見ながら、ヒソヒソ声でなにかを言っている。
恐らく「キモイ」であるとか、「いみふ」であるとか、そういった会話であるのだろうが、正確には聞こえないように言われているため、どうすることもできない。
帰宅部の小学生には、居場所がなかった。
そして、先にも書いた通り、小学生の世界は狭い。
学校の同級生は、習い事にもいるのである。
習い事でも同じことが始まった。
両方に在籍するO君は、私のことが心底嫌いなようだった。
理由は、様々であろう。
小学生特有の「なんとなく他人にイライラする感情」を、分かりやすく吃る得体の知れない私に向けていたのかもしれない。
続きはまた書きます。
次回は、地獄だった日常について。