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Family.17「武蔵家 本店」になろうよ

あらすじ

「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。

“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。

まずはこちらから↓

家系ラーメンとは?

総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。


 ヘルメットを被ったギャルが颯爽と横を通り過ぎる。豹柄のスカートから伸び出た足が、ペダルをぐるんぐるんと回す。

 今年の4月から自転車のヘルメット着用が努力義務化になった。大人もなるべく被ろうねと言う施作をバイクですらノーヘルのアメリカ人はどう思うのだろうか。

 ルールに縛られた自由とは対極なこの日本でチャリギャルは、髪の毛が乱れるのも厭わずヘルメットを被る努力をしている。

 素直じゃないか。立派じゃないか。人を見た目で判断してはいけない。大切な事を教えてもらったと同時に、こうも思う。ギャルもチャリ乗るんだ。

 道助が小学校の頃はガングロギャル全盛期。渋谷を中心に勢力を伸ばしていた。時は経ち、白ギャル。黒ギャル。キレイめギャル。姫系ギャル。今日では様々なギャル文化が生まれている。

 家長家と同じく崩壊した家族。十代で子供を授かった家族。夫婦ふたりっきりの家族。ちゅ、多様性。色んなギャルもいれば色んな家族の形がある。もちろん家系ラーメンもおんなじだ。

 総本山「吉村家」から生み出された【直系】先日惜しまれつつ閉店したレジェンド「本牧家」を始めとする【クラシック系】磯子の地から全国にその子供達を輩出した「壱六家」を親とする【壱系】

 黒白。黒青。肌の色も器の色も違う。平にテボ。マツエクにマスカラ。使ってるザルやアイメイクも違えば、看板も髪も色とりどり。みんな違ってみんないい。みんなが違くても構わないけど、自分の好きなタイプくらい真っ直ぐに愛したいものだ。

 ヘンゼルとグレーテルの気分で、愛すべきギャルの香水の残り香を追いかける。令和の時代に新たなギャルムーブメントを巻き起こして欲しい。

 そんな事を思いながら東京でムーブを巻き起こすあの場所へと足を運ぶ。たぶんその街にギャルは1人もいない。

家系サードウェーブ 新中野系系譜「武蔵家 本店」

 道助は横浜で始まった家系の文化を東京の地で拡げる【新中野武蔵家系譜】を掲げる武蔵家本店に来ていた。

 ブルーボトルコーヒー、Gショック、菊地凛子、武蔵家。横浜の文化を東京に持ち出し、横浜に戻す。いわば逆輸入だ。「武」の文字が入ったラーメン屋は都内近郊、至る所に存在する。

 『吉村家』の家系第一次ブーム『六角家』の家系第二次ブーム、そしてこの新中野から始まった『武蔵家』家系第三次ブーム。

 マインドを保ちつつ形を変え、令和の時代まで生き続けるカルチャー。アムラーやヨシラー。ギャルも家系も永久に不滅なのである。

 ちなみにここ『武蔵家』は『たかさご家』系譜でもあり、吉祥寺にある六角家出身の『吉祥寺武蔵家』とは無関係なので要注意だ。

 喰らい方の極意を読み込みつつ、入店する。日吉店と同じくカウンターのみの店内には、中央にお水のサーバーが鎮座していた。

 歴史とこだわりを読み込みながら想いを馳せる。

 『武蔵家』最大の特徴と言えば

ラーメンを頼めば、終日ライス無料」な事だろう。

 握手権付きCDを売るAKBと同じ手口だ。そしてその狡猾なタクティクスにまんまとハマったのは僕だった。何杯お世話になったことだうか。特に自由が丘『渡来武』には米の重さもあり頭が上がらない。

 さぁ本店の一杯とご対面。ドロっとしたスープに細めの酒井製麺がチョリーッスしている。

 【武蔵家系譜】は麺の固さをバリカタに出来るチョベリバな存在だ。無料ライスも固く、バリカタとの相性は抜群。清水翔太と加藤ミリヤのコラボよりも最高。マジで虹だぜ。

 バリカタの麺をありがたがりながら一気に啜る。ペンは剣より強し。そして麺はペンより強い。いくら言葉を紡いだ所で、この感動を伝える事は出来ない。一度バリカタを頼んでもろうて。

 そして初めましてだったのは、玉子とチャーシューのタルタルみたいなやつだ。通称「ピリ辛チャーシュー崩れ玉子」煮玉子として世に出せなかった玉子が第二の人生を歩んでいる。

 高校球児よろしく崩れた卵たちが俺たちの分まで頑張れよ。そんな声が聞こえてくる気がする。彼らの想いを背負い、手を合わせ、いただきます。

 無事プロ野球選手になれた1軍の半熟玉子を固めライスの上で割る。スポットライトで照らされた黄身がとろけている。

 家系もギャルも「egg」が大事なのだ。バイブス上がるわ。

 ライスを何度かおかわりして、ごちそうさま。これで千円以下。これが本当の御馳走だ。

 店内を見渡すと、学生たちが食べ終わったにも関わらずゲラゲラくっちゃべっていた。無料ライスの弊害を感じながら、道助の中の小さなギャルがこう叫ぶ。

「一生ギャツビーつけてろ」



―――――武蔵家のバリカタライスは不可避だ。心して喰らいな。


こうして【武蔵家】が道助の家族になった。幸せになろうよ。

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