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Family.37「IEKEI TOKYO」になろうよ

あらすじ

「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。

“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。

まずはこちらから↓

家系ラーメンとは?

総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。


 部屋ではベートーヴェンの「交響曲第九番」が掛かっていた。年末だからなのか、クラシックが好きだからなのか、迷った挙句尋ねる。

「好きなんですか?」
「ん、なにが?」

 天井に向かって指を刺し、空間に漂う音楽についてもう一度尋ねる。

「ベートーヴェン、第九!」
「えーっとーね、タイプ?」

 会話が成り立っているような、成り立っていないような、微妙なラインの返しをされ曖昧に頷く。

 もしも年の瀬だからと第九を流していたら「しょうもな」と思うし、クラシックが好きで流していたら「ほんとか?」と思う。とどのつまり仲良くはなれない。

 会話が途切れてしまった事を良いことに、優雅なクラシックに身を委ねながらこの1年を思い返す。

 2024年も色んな事があった。色んな事があったお陰で色とりどりの毎日を送る事が出来た。みんなにとって1年は短いだろうが、あたしにとっては長く濃密な1年。

 結構良い事もあったし結構悪い事もあった。そして大人になって初めて夢が出来た年でもある。トータル上向きだったと言えようか。

 有難いことに苦しかった20代を駆け抜けた。そして今のところだが、徐々に上昇する少々上等な30代を過ごせている。

 仮に今後悪い事が続きの未来が待っていたとしても、その度に家系を食べて元気を出せば良い。その後良い事が起こったらその度に家系を食べて喜びを祝えば良い。


 「人間万事塞翁が馬

 全部フリ。全部伏線。人生の全てを煮つめて最高の出汁を醸し出せば良い。家系もあたしも良い出汁、出てますよ。

時間が戻らないように 昔に戻れないように
もう元に戻るより 元より良いように

My hair is Bad「白春夢」

 
 流行っているから音楽を聴く。そんな事はない。好きだから聴くのだ。流行には疎いかも知れないけどお気に入りへの愛は深いのだ。

 良いも悪いも酸いも甘いも全てを背負い込みいざ2025年へ。

 忘れたい出来事など一つもないから忘年会には行かない。それよりも大事な用事があるのだから。

 人生で1番好きなものを、あたしは食べに行く。


王道家系譜東京初出店「IEKEI TOKYO」

そこは10年前のあたしと同じく上京組。2021年に東京へとやってきた名店だった。

家系フリークならすぐにでも分かる「黄色い看板」

そうここは、末広町にある『王道家』系譜。

さすが大都会東京。本店の柏より行列が出来ていた。

食券は後システムを導入している為、王道家との思い出を振り返りつつ長い列の最後尾に並ぶ。


健気に順番を待ち店内へ。

家系戦闘であるピュアな真白いユニフォームを身に纏った職人さんに一礼をして食券を買う。

カウンターに座り店内を見渡す。どうやらここは表から入って裏から出るシステムらしく風俗店みたいだなと思った。


そんな馬鹿馬鹿しい感想を抱いてるあたしの目の前に、黄色を超えた黄金の一杯がやってくる。

黒い皿に乗せられた黒い器。油で手がギトギトにならない直系ならではの優しいシステムだった。

「最強のにんにく」たちへの挨拶を済ませ、覇王色の覇気に意識を持ってかれそうになりながらスープを頂く。

「行者・刻み・チップ」にんにく三幻神
IEKEI TOKYO”にんにく三幻神”

「うまーいの」


Like a 小栗旬

これを食えば、飛ぶし死ぬ。


年柄年中、

家系ラーメンに奉仕中。


鶏ガラ豚汁、

マイ麺に愛を送信中。


キングの味にひれ伏しそうになる。


ロープの反動を使ってパンチを繰り出すボクサーのように、そのままの勢いで「無限にんにく」にマヨネーズをかけた最強のライスも喰らう。

にんにくの正しい使い方はこちらに記しているので参考にしてくれ


そして【直系】といえば、【王道家系譜】といえば、目玉焼き。
 
味玉も良いが、こに目玉様も最高なのである。初めて『杉田家』で味わった時は衝撃的だった。

目玉おやじを風呂に入れる鬼太郎の如し、ラーメンに目玉焼きをダイブさせる。

そんでそんでそんで
 
 
黄身と王道家特注麺を絡まり絡ませ、一気に啜る。

麺を喰らう。天を穿つ。


雄弁は銀、沈黙は金、王道は天。


 
黄金の登り竜が、旨みと共に空高く飛び立ってゆく。


そこからの記憶はあまりなかった。

本能の赴くままに、脊髄反射に従うままに

ライスと目玉焼きと味玉に加え

にんにくにくにくまよちょんちょん

虎視眈々していたら(してない)

食べ終わってしまった感触がないまま、完食していた。



『IEKEI TOKYO』では油そばも堂々登場する。

「オシリス・オベリスク・ラー」


にんにく三幻神を召喚!!

にんにくにくにくまよちょんちょん

またもや食べ終わってしまった感触がないまま、完食していた。

先人たちに倣って、裏のドアから外に出る。

コンクリートに囲まれたTOKYOの冷たい風を浴びながらこんなことを思った。

『王道家』が東京にあるだけで生活が豊かになる。

辛いことも苦しいこともチャラになる。

あたしにとってこの店は、救い。相当な救い。

――――――IEKEI TOKYO、死にてぇ状況をひっくり返す方法論。

こうして【IEKEI TOKYO】が道助の家族になった。幸せになろうよ。


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