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Family.35「上々家」になろうよ

あらすじ

「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。

“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。

まずはこちらから↓

家系ラーメンとは?

総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。


 幸せが闊歩していた。

 家族3人が子供を挟み、仲良く手を繋いで歩いている。これは一般的に言う幸せのワンシーンだ。しかし他人が歩く場所を奪ってまで手に入れる幸福とは何だろう。

 大好きなブランドの限定品をゲット出来た。欲しかった人間の買えなかった現実を感じてまで。

 憧れの仕事をゲット出来た。夢破れた名前も知らない誰かの屍の上に立ってまで。

 いい感じだったあの子をゲット出来た。彼女を好きだった男の怨念を背負ってまで。

 きっと幸せは誰かの犠牲の上に成り立っている。

 並木春道と野口也英の初恋は恒美の犠牲の上で。エドワードとベラの恋愛にはジェイコブの犠牲の上で。

 恋愛だけではない。家族も同じだ。ゴッドファーザーはファミリーの幸せの為に、人を殺しまくる。血の繋がった家族も殺す。艱難辛苦だ。

 かく言うあたしも幼少期には、両親の時間とお金を犠牲にして美味しいご飯と温かい寝床を享受していた。

 そして大人になっても豚さん鶏さんを犠牲して美味しい家系ラーメンを享受している。

 当たり前になってはいけない。『有り難く命を頂く』気持ちを胸に刻みながら、きょうも幸せを感じにあの店へと向かう。

元六角家羽田店 伝統の魂「上々家」

赤黒カラーの看板が煌めき、懐かしさを漂わせていた。

東京都大田区大鳥居。ここはあたしが愛する『六角家』羽田店から名前を変え『上々家』として店を構えていた。

名前は変わってもその魂と味は何一つ変わる事なく伝統を継承してくれている。

足を踏み入れた瞬間、『六角家』の空気を感じる。テーブル席はあるものの、赤い椅子に茶色い机のカウンターはあたしが愛した本店のそれと同じだった。

黄色メニュー表に目で愛でながら、食券器でお目当ての品を買う。


すると早速、マジの大ライスが届く。【六角家系譜】の大ライスはマジでガチ。

ガチでマジの大ライス

どれくらいガチかはこちらの記事を参照にして欲しい。


会いたい気持ちが抑えられなくなった頃、極上の一杯と相対する。

ルッキズム全盛の時代だが言わせて欲しい。


クラシック系のここはツラがいい。
ナイスビジュアル!


そしてさすが【六角家系譜】。

アブラダダダと注がれている。

ハクナマタタ、最高だ。


黄金に輝くスープを一口。
もちろん豚さんと鳥さんに感謝を抱きながら。

ふるえるぜハート!
燃えつきるほどヒート!
刻むぞ血液のビート!


心臓の高鳴りが抑えられない。
当たり前ににんにくをぶち込み、再びスープを一口すする。

オーバードーズを超えたオーバードライブ。


気持ち良過ぎて粒子になってしまいそうだった。



続いて『六角家』伝統のキャベチャー。
キャベチャーというカルチャー”を堪能すべく準備を整える。

卓上のゴマを振りまきます
にんにくのスープを掬います
ぶちまけキャベチャーを温めます

キャベチャー食べてスープ飲んだらやばかった。

調和。これがマリアージュなのかと、グランメゾン・パリに感謝する。


正しいキャベチャーの食べ方はこちらを参考に。【六角家系譜】では必ずキャベチャーを注文しような。


さらに酒井製麺の強烈な一撃が口内を襲う。

これはまるで…

無敗の王者「メイウェザー」


暴力的なパンチを喰らい「メンヘラ」

もう圧倒的に「麺ヘラ」。


ガチの大ライスを「あたし色」に染める。

アンバランスなライスの上にこちらも『六角家』の伝統である”黄身まで味が染みた味玉”を玉座させる。

マイアンサーNo.1 快感のワンダーランド

家系では「味玉」は必須。あたしは絶対やる。しかも2個やる。

【六角家系譜】の「伝統味玉」をとくと味わって欲しい。


そこからはもう自由だ。

伝統のキャベチャーと伝統の味玉を駆使して、お前だけの丼を作る。

家系マナーである「海苔巻きライス」もする。


まるでインプリンティングだった。

ヒナが孵化直後に初めて見た存在を追いかけるあの現象のように、あたしは永遠に『六角家』を追いかけるだろう。

本店とはフォントが違うのね


青磁の器に赤文字で刻印された儚げな「上々家」の三文字。

上々家の文字と共に、伝統の味もあたしの中で刻み込まれる。


つくるでつくるで「創作」

こえるでこえるで「超越」

豚さんと鳥さんと職人さんと歴史。全てに感謝の念を抱いて。



――――――上々家、そこにあったのは高尚な一杯。

こうして【上々家】が道助の家族になった。幸せになろうよ。





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