未遂
東京は六本木。
国際文化会館。
施設名を聞いただけでは、
まさかそこに庭園があるとは思えない。
しかしあるのが庭園。
三菱財閥の岩崎小彌太(いわさきこやた)が、
近代日本庭園の先駆者・7代目小川治兵衛(おがわじへえ)に作庭させたという、歴史的価値の高い庭園がそこにある。
そんな国際文化会館の庭園へ。
さて、入口が見つけられない。
探せども探せども、庭園の入口が見当たらない。
ここのような「ちゃんとした施設」において、
挙動不審な動きだけは絶対にしてはならない。
「ヤバいやつ」だと思われずに過ごす。
それがこうした施設における庭園巡りの鉄則でもある。
だから。
平然としている風に。
まったく焦りを感じさせないように。
入口を探す。
入口を探す。
内心はドキドキだ。
さすがに限界と感じ、施設のスタッフに問う。
「庭園を見学したいのですが入口って」
「こちらの庭園は施設利用者だけが入ることができまして」
「・・・」
「?」
「あっ、はいわかりました。ありがとうございます」
一瞬、場が凍りつきそうになったところで
すかさずスマートに了承とお礼を伝えた。
その後の記憶はおぼろげなのだが
一目散に施設を退散したことだけは覚えている。
未遂。
前代未聞の、庭園鑑賞未遂。
家に帰ったらまだ午前11時くらいだった。