治療家のための“伝わる”英語勉強法【2】第3回 日本人トレーナー 海外進出の3つの壁
文:斎藤大介
日本人トレーナー 海外進出の3つの壁
私がこれまでオーストラリアで3年、アメリカで2年トレーナー活動を経験してきて感じた、海外での活動を目指す日本人トレーナー・治療家の行く手を阻む「壁」についてお伝えしたいと思います。その壁とは、大きく分けて次の3つになります。
①ビザ、資格
②語学力
③海外適応力
このうちどれか1つでも欠けると、海外で活動するのは非常に困難になります。1つずつ説明します。
①ビザ、資格
まず、ここが一番重要です。
海外で働くにはビザが必要です。ビザの種類はいろいろあり、国によっても違います。大まかに種類を挙げると、次のようになります。
【働けないビザ】
・観光ビザ
・学生ビザ
※国によっては週20時間までなどの時間制限付きで働ける国もあります。
・リタイアメントビザ
【働けるビザ】
・ワーキングビザ
※日系の会社に勤める駐在員や、現地で起業したり、スポンサーとなる会社を見つけた人など。
・ワーキングホリデービザ
※1年間その国でホリデーとして過ごしながら条件付きで働くことを認められたビザ。同一雇用主の下では6カ月以内しか働けず、多くの国では年齢(31歳未満)、ビザの期間などの制限があります。
参考: ワーキングホリデー制度について(一般社団法人日本ワーキング・ホリデー協会)
・パーマネントビザ(永住権)
※ワーキングビザで一定期間働いたり、その国の国籍を持つ人と結婚したりすると取得可能。国籍が日本からその国に移るわけではない。
基本的に、その国の労働者が移民に仕事を取られないよう、働くためのビザには基準が設けられ、その条件を満たさないと取得できないようになっています。
どこの国でもそうですが、その国の労働者では代わりが利かない職業ほど、ビザを取りやすくなります。
私の場合は、アメリカでアスリートをサポートするための特別なビザを、選手と協会にスポンサーになっていただく形で取得できましたので、安心して働けています。
かなり多くの人が、観光ビザで入国して短期間働いたりしていますが、実はとても危険なことです。もしそれが明るみになれば、強制帰国や、最悪のケースで10年間入国禁止等、聞いたことがあります。必ず正式なビザを取得してから働く必要があります。
働けるビザを取得するための基準として多いのが、
・英語力(語学力)
・日本での経歴、経験
・日本での資格
・年齢
などです。
基本的に、若くて英語力が高く、収入が安定していて税金を多く納めることができる職業で、その国に住んでいる人では代わりが利かない技術や経験を持っている人ほど、ビザが下りやすくなる傾向があります。
月刊『医道の日本』2016年3月号(p.32)に、「日本人の鍼灸免許は、ニカラグアで通用する」との記載もありますが、そのように日本の資格が認められることはまれで、ほとんどのケースで現地の資格を新たに取得する必要があります。
私が以前住んでいたオーストラリアでは、現地の伝統的な手技療法である「リメディアルマッサージ」とドライニードリングの資格が最短1年あまりで取得可能でした。当時の学費は卒業までに80万円程度でした。
月刊『医道の日本』2016年3月号(p.16~19)で、私が当時通っていたスクールや、オーストラリアの資格制度、ビザなどについて説明しています。
なお、アメリカでは州によって資格が違うので、注意が必要です。
②語学力
上記の通り、特殊なビザを除いて多くの場合、語学力がないと、ビザ取得に影響します。通常、働くためのビザの取得や、現地の資格の取得には、語学の基準ラインが設けられています。
私がオーストラリアに移住した当時のワーキングビザの基準は、IELTSのジェネラル・トレーニング・モジュールの平均スコア5.0以上というものでした。
参考: IELTS、TOEFL、TOEIC、英検スコア換算表 (ニュージーランド留学センター)
イギリス、オーストラリアではIELTS、アメリカではTOEFLのスコアを求められることが多いです。日本で就職や進学の役に立つとして人気のTOEICのスコアは、海外ではあまり重要視されていません。
ビザ取得に必要な英語力の基準は、決して高すぎることはないのですが、簡単でもありません。多くの人がこの基準をクリアするため、まず学生ビザで現地の語学学校に入学し、語学を身につけながら働き先を探しています。
ただ、オーストラリアやアメリカの語学学校は授業料がとても高いですし、基本的に複数の生徒に1人の先生がつくグループレッスンがほとんどなので、コストパフォーマンスは悪いです。
そのため、最近では自分が働きたい国へ行く前にフィリピンで数カ月、語学留学をして十分な英語力を身につけるのが主流になってきています。
私がオーストラリア時代に出会った若い日本人のうち、語学力が高いのは、決まってフィリピン留学を経由してきた人たちでした。
参考:私が実際に留学したフィリピン・セブ島の語学学校「3Dアカデミー」
③海外適応力
海外に旅行するのと実際に住むのでは全く違います。国が変われば食べ物、文化、生活環境、言葉などさまざまなことが変わります。
海外では、日本と同じ価値観のまま日本と同じようなことを求めてしまうと、それがストレスになります。
大切なのは国ごとの違いを受け入れて、慣れることです。それができないと、せっかく海外に出ても日本人同士で固まって行動するようになり、海外に出たことで得られるはずのさまざまなチャンスを逃してしまいます。
知り合いのゴルフコーチで世界各国のジュニア選手に詳しい人から聞いたのですが、海外に遠征した際、自分の国の料理しか食べられない子は、圧倒的に日本人が多いようです。なるべく若いうちに旅行でもよいので海外に出て、多様な文化や価値観に触れて、いろいろなものを食べて、環境の変化に適応できる能力を養っておくことも、海外で働くためには重要です。
参考:私が管理する、治療家・トレーナー向けに英語トレーニング、留学をサポートするFacebookページ「Global Trainer Project」
以上、日本人トレーナー・治療家にとって「壁」となる3つの必須項目についてご紹介しました。海外で働く際には必ずついて回る問題ですので、行きたい国、働きたい国についてしっかりと調べて、計画してから渡航するようにしてください。
(つづく)
※本記事は医道の日本社Webサイト「シアナ」で2018年5月10日に掲載されたものです。
▶治療家のための”伝わる”英語勉強法【フィリピン英語留学編】
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斎藤大介(さいとう・だいすけ)
1985年、群馬県生まれ。高校卒業後、柔道整復師、鍼灸師、あん摩指圧マッサージ師の資格を取得。2010年、ファイテン株式会社に入社し、企業のトレーナーとしてプロ野球選手、プロゴルファー、ビーチバレー、大学駅伝などの選手を担当。2014年に独立し渡豪。ゴルフの名門AnKゴルフアカデミーの専属トレーナーとして活動しながら、2015年8月にJAPANESE SPORTS MASSAGEをオーストラリア・ゴールドコーストに開業。2016年9月よりアメリカ女子プロゴルフツアーにて、メジャーチャンピオン2名を含む4名の外国人選手と契約。
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