治療家のための“伝わる”英語勉強法【2】 第2回 全米女子プロゴルフツアー帯同トレーナーの仕事内容
写真・文:斎藤大介
プロゴルファーに帯同する1週間
私は2016年から全米女子ゴルフ協会(Ladies Professional Golf Association:LPGA)の試合に帯同しています。実際にどんな流れで仕事をしているのかをご紹介します。
LPGAの大会は年間35試合、世界15カ国*の会場で行われ、女子ゴルフでは世界ランランキングに対するポイントが最も高いツアーです。そのため、世界ランキング上位に名を連ねるほとんどの選手がLPGAでプレーしています。
*バハマ、オーストラリア、タイ、シンガポール、アメリカ、カナダ、メキシコ、フランス、イギリス、日本、マレーシア、韓国、台湾、中国、ニュージーランド。
斎藤大介氏がトレーナーとして年間契約している女子プロゴルフ選手たち。上段左から、ジ・ウンヒ(韓国)、ミヒャン・リー(韓国)、ポーナノン・ファトラム(タイ)。下段左から、シミン・フェン(中国)、モー・マーティン(アメリカ)
基本的に1試合につき1週間の日程が組まれ、選手は以下のようなスケジュールを繰り返します。
月曜日:移動、練習
火曜日:練習
水曜日:練習、プロアマトーナメント(スポンサー関係者と選手が一緒にプレー)
木、金曜日:予選
土、日曜日:本選
オフシーズンの12月と1月を除く10カ月の間に35試合があるため、シーズン中はほとんど休みがありません。35試合すべてに出場する選手はほとんどいませんが、トレーナーの私は年間を通して契約している選手が5人いて、さらに数人、定期的に身体を診ている選手がいます。そのなかの誰も出場しない試合はありませんので、私は全試合に帯同しています。
曜日ごとの仕事内容をご紹介します。
月曜日(移動、練習)
日曜日の夜、または月曜日の午前中に、次の大会の会場に移動します。国をまたぐような長距離の移動の場合は、休養にあてる選手が多いです。
一方、私は選手よりも先回りして会場のゴルフ場に到着し、朝のウォーミングアップをする場所や、ゴルフ場内にあるジムの施設などをひと通りチェックしてから、翌日以降のシミュレーションをします。また、各選手の宿泊するホテルをレンタカーで回って、長時間の移動で選手の身体の動きが悪くなっていないかチェックします。
野球やサッカーなどのホームのある競技と違って、トレーナー室など決まった施術の場所がないため、常に持ち運びできるマッサージベッドと最低限のトレーニング用具を携帯し、基本的に身体のチェックはホテルの部屋で行います。
ホテルの部屋にマッサージベッドやトレーニング用具を持ち込み、選手の身体の動きをチェックする
選手によっては、月曜日に1週間で一番ハードなトレーニングメニューを行います。アメリカの場合は、宿泊先のホテルやゴルフ場内にジムがあることがほとんどですが、ホテルによって環境が全く違うため、どんな環境でも選手の課題に対応したトレーニングを行える応用力が必要になります。
斎藤氏が携行しているトレーニング器具(その1)。手前左から、エクササイズバンド(それぞれ長さや強さが違うもの7種類)、臀部や膝の下に敷くマット。奥左から、バランスボール、バランスディスク
斎藤氏が携行しているトレーニング器具(その2)。手前から右奥の黒、赤、黄色はエクササイズバンド。左奥はエクササイズの際に膝に挟んだり、投げたりして使うボール。その右は主に下肢のトレーニングをする際に使用するスライディングボード
火、水曜日(練習)
朝からゴルフ場に行き、練習前のウォーミングアップを各選手20分程度行います。専用のスペースはないので、場所はクラブハウス内の空いているスペースを見つけて行います。ジムがついているゴルフ場であればジム内で、そうでなければロッカールームの空きスペースなどを使います。
クラブハウス内の空きスペースでウォーミングアップ。左がミヒャン・リー選手、右がポーナノン・ファトラム選手
ゴルフは朝の早いスポーツで、午前4時台に起床ということも頻繁にありますので、前日にケアをしていてもまずはしっかりと身体をあたためます。そして、短時間で練習の1球目からしっかりボールを打てる身体の状態に持っていけるように、ストレッチとトレーニングを組み合わせて行います。
選手によって練習の開始時間が違うため、一番早い選手とゴルフ場に行って、最後に来た選手とウォーミングアップを終えたら、一番早く練習が終わった選手と一緒にホテルに戻って、練習後の身体のチェックやトレーニングを、各選手に1時間程度行います。
ゴルフ場にいる時間は午前7時から午後3時頃まで、ホテルやジムでのコンディショニングは午後4時から11時頃までです。
木曜日~日曜日(試合日)
練習日と同じで、一番早くスタートする選手とゴルフ場に行き、最後の選手とウォーミングアップを終えるまでをゴルフ場で行います。ゴルフの場合、競技時間は約4~5時間程度で、スタート時間が選手によって午前と午後に分けられます。早い選手ですと朝の7時にスタート、遅い選手で午後の3時からスタートするので、とても幅があります。
契約について
午前中スタートの選手を送り出して、最初にプレーを終わる選手が戻ってくるまでは、長い場合で4時間程度の空き時間があります。その間は観客に混じって選手の試合を観戦したり、クラブハウスで今後のホテルや飛行機の予約をしたり、ブログを書いたりして過ごします。
基本的に契約金は経費(ホテル、移動、レンタカー)込みの金額になっています。予約関係はすべて自分で行いますが、慣れてしまえばそこまで大変な作業ではなく、土地勘や旅の情報などいろいろなことに詳しくなるので、とてもよい経験です。
ほかの競技のトレーナーと比べると非常に拘束時間が長く、毎週会場が変わり、さらに国が変われば時差や食べ物の違い、言葉の問題があるため、選手のコンディショニングと同じくらい、自分自身の体調の管理と、環境に適応する能力が重要です。
移動の際は選手と別行動になるため、ホテルの予約やレンタカー、会場の情報などはすべて英語で対応します。そのため、英語力も最も必要な能力の1つです。日本とは全く勝手が違うので大変なことが多いですが、その分経験できることも多いので、とてもやりがいのある仕事です。
※2018年2月13日にシアナサイトで掲載された記事を転載しています
斎藤大介(さいとう・だいすけ)
1985年、群馬県生まれ。高校卒業後、柔道整復師、鍼灸師、あん摩指圧マッサージ師の資格を取得。2010年、ファイテン株式会社に入社し、企業のトレーナーとしてプロ野球選手、プロゴルファー、ビーチバレー、大学駅伝などの選手を担当。2014年に独立し渡豪。ゴルフの名門AnKゴルフアカデミーの専属トレーナーとして活動しながら、2015年8月にJAPANESE SPORTS MASSAGEをオーストラリア・ゴールドコーストに開業。2016年9月よりアメリカ女子プロゴルフツアーにて、メジャーチャンピオン2名を含む4名の外国人選手と契約。
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