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スポーツカイロプラクター“Dr.S”が解説する機能解剖から考える疾患別治療ノート(3)癒着性関節包炎


榊原直樹(DC, DACBSP, PhD)

※本連載では、榊原直樹(DC, DACBSP, PhD)氏が、機能解剖の観点から、疾患を解説していきます。

肩関節の疾患については、1872年にDuplayによって“関節周囲炎”という言葉が初めて使われた後、1934年にはCodmanによって“五十肩(Frozen shoulder)”が命名されました(現在では「肩関節周囲炎」と呼ばれる)。“癒着性関節包炎”は1945年にNeviaserが付けた疾患名です。

〈症状〉

癒着性関節包炎の症状の特徴は、肩関節の痛みと可動域制限です。患者は鋭い深部痛を訴えることが多く、上腕外側から肘にかけて関連痛が現れることもあります。発症初期では夜間痛(痛みのために就寝中に目が覚める)を訴える患者もいます。癒着性関節包炎の症状の進行には、以下の3段階があります。

1.凍結期

2.拘縮期

3.融解期

凍結期は、症状(痛みと硬さ)が最も強く現れます。そのため、服の袖に腕を通したり、髪の毛を洗ったりなどの日常生活に支障をきたします。

その次が拘縮期です。拘縮期では、痛みは徐々に和らいでいきますが、症状の進行に伴い、関節包の線維化が悪化するため、肩関節の可動域制限が顕著となります。

最後の融解期は、痛みも硬さも徐々に和らいでいき、症状は改善へ向かいます。しかし、肩関節にやや硬さが残ることがあります(日常生活に支障はきたさない程度)。表1にそれぞれのステージにおける症状の特徴と持続期間をまとめておきます。

表1 癒着性関節包炎の各ステージの症状と持続期間

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また、癒着性関節包炎の患者の多くに肩峰下包炎、三角筋下包炎(図1)が併発(約45%の患者)しており、肩関節の可動域制限や動作痛の原因になっています(表2)。

図1 三角筋下包と肩峰下包

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肩関節の関節包で発生した炎症物質が、
三角筋下包や肩峰下包へと伝搬され二次性に炎症反応を引き起こす。

表2 癒着性関節包炎に併発している症状

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〈原因〉

癒着性関節包炎の原因は不明ですが、病生理学的な機序は次第に明らかになってきています。糖尿病や甲状腺機能異常、デュピュイトラン拘縮(Dupuytren’s contracture)*、免疫機能が低下しているケースでは、癒着性関節包炎を併発している割合が高いことがわかっています(糖尿病患者は非糖尿病患者の約5倍のリスク)。これらの症状に共通しているのが「慢性炎症」です。慢性炎症が関節包の炎症を引き起こしている可能性もあります。

*デュピュイトラン拘縮(Dupuytren’s contracture)
デュピュイトラン拘縮は、手掌腱膜の線維化により指(特に尺側)が屈曲位に拘縮してしまう疾患。原因は不明だが、遺伝による影響が大きいといわれている。

癒着性関節包炎では、肩関節の関節包の一部に癒着や炎症、変性(肥厚、拘縮など)が生じています。また、ローテーターカフ腱(特に棘上筋腱)の石灰化が、肩関節の痛みと可動域制限を引き起こしているケースもあります。癒着の好発部位は、棘上筋と肩甲下筋の間隙の腱板疎部(RI=Rotator interval)と呼ばれる領域です(図2)。

図2 腱板疎部(RI)

図2

棘上筋腱と肩甲下筋腱の間隙領域は腱板疎部と呼ばれる。腱板疎部には、烏口上腕靱帯、上肩甲上腕靱帯、肩甲上腕関節の関節包がある。

癒着性関節包炎は、一次性と二次性の2つに分類されます。一次性癒着性関節包炎では、徐々に症状の増悪が起こり原因は不明です(一次性癒着性関節包炎は特発性癒着性関節包炎とも呼ばれています)。二次性癒着性関節包炎は、発症のタイプによってさらに3つに分類されます。

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一次性癒着性関節包炎に比べ、二次性癒着性関節包炎のほうが、予後経過(治療への反応)が思わしくない傾向があります(『Arthroscopic capsular release for the treatment of refractory postoperative or post-fracture shoulder stiffness.』https://goo.gl/UKhjQF)。各類の詳細は表3を参照ください。

表3 癒着性関節包炎の分類

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〈検査〉

肩甲上腕関節の関節包全体の触診検査を行います。特に関節包前部に圧痛や癒着、拘縮が触診される傾向があります。また、三角筋停止部(三角筋粗面)周辺や三角筋前部線維束と上腕二頭筋長頭の境界領域にも、圧痛が触診されることがあります。

癒着性関節包炎では、可動域制限の現れ方に特徴があります。特に外旋の可動域制限が強く現れます。その次に制限されるのが外転と屈曲、ほとんど影響を受けないのが伸展と内転です。このような可動域制限は「関節包パターン」と呼ばれています(表4)。

表4 肩関節の関節包パターン

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関節包の拘縮による関節の可動域制限は、関節包の拘縮部位によって変化します(拘縮部位が伸張される方向に可動域制限が起こります)。例えば、肩関節の関節包前部に拘縮がある場合、外旋制限が強く現れます(肩関節外旋時に上腕骨頭には前方滑りが起こります)。一方、関節包後部に拘縮がある場合、内旋制限が顕著になります(表5)

表5 肩関節の関節包拘縮部位と可動域制限

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〈治療〉

癒着性関節包炎では、肩関節の関節包に拘縮や癒着、線維化が生じることで、痛みや可動域制限などの症状が現れます。したがって、徒手的には関節包に生じているこれらの問題を改善させることが目標になります。関節包の問題が改善されるに伴い、患者の自覚症状(動作痛と可動域制限)も改善されていきます。

また、「慢性炎症」への対応も必要です。これは主に食事によってコントロールするとよいでしょう。基本的には抗炎症作用のある栄養成分の摂取を心がけます。代表的なものは以下の通りです。

1. オメガ3脂肪酸

2. リコピン

3. ターメリック

オメガ3脂肪酸はサーモンやアーモンドに多く含まれています。またリコピンはトマトやピーマン、かぼちゃなどの野菜類、ターメリックはカレーなどに使われる香辛料です。これらはサプリメントによって摂取することもできます。また腸内環境の悪化は炎症物質の産生を高める可能性があるため、腸内フローラを良好に保っておくことも大切です。そのために、ヨーグルトや納豆、甘酒などの発酵食品を積極的に摂取するとよいでしょう。また消化酵素やプロバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌など)、プレバイオティクス(食物繊維、オリゴ糖など)のサプリメントの摂取も推奨されます。

ホームエクササイズでは、関節包のストレッチが推奨されます。関節包の拘縮部位に応じてストレッチ法を変えます。以下に肩関節の関節包前部と後部のストレッチ法についてまとめておきます。

【関節包前部のストレッチ】

ストレッチ1

1.仰臥位において肘関節を90度屈曲位、肩関節は90度外転位に維持する
2.上記の姿勢を維持したまま、ゆっくりと肩関節を外旋させる
3.最大外旋位において5分から10分程度維持する(2kgから5kg程度のウエイトを手に持って行うことでより強いストレッチが可能になります)

【関節包後部のストレッチ】

ストレッチ2

1.立位(または座位)において肘関節を90度屈曲位、肩関節は90度屈曲位に維持する
2.もう一方の手と肘をそれぞれ、反対側の肘と手の上に置く
3.患側の肘を支点にして上側の肘で下側の手を下方へ押す
4.最大内旋位で30秒から1分程度維持する

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著者プロフィール

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榊原直樹

ドクターオブカイロプラクティック、スポーツカイロプラクティックフィジシャン、医学博士(スポーツ医学)

1992年 東北大学卒業(動物遺伝育種学)
1997年 クリーブランドカイロプラクティックカレッジ卒業
2006年 冬季オリンピック帯同ドクター(イタリア、トリノ)
2009年 ワールドゲームズ帯同ドクター(台湾、高雄)
2011年、12年 世界パワーリフティング選手権大会日本代表チームドクター(チェコ、プエルトリコ)
2015年 岐阜大学大学院医学系研究科非常勤講師
2009年より名古屋にて『スポーツ医学&カイロプラクティック研究所』所長(http://sportsdoc.jp/)。また2017年よりスポーツ徒手医学協会会長(http://jamsm.org/)も務める。

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