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二〇二四、夏

灼熱の外界に向かってわざわざ扉を開く理由が貴方だったことの多さが、この夏私がどれだけ貴方を好きだったかを物語っている。


ステージで「圧勝で俺だろ」と強気に笑ったくせに、言葉の鎧を脱いでから「正直どうだった?」と聞いてきた貴方が強烈に愛おしいと思った。

チャンピオンの称号が決まった瞬間、拳を突き上げるより真っ先に観客と共演者に向かって頭を下げた貴方を見て、名前なんてどれでもいいと心から思える理由の核を見た気がした。




馴染みない表情が 心残りの思い出
見慣れてしまったら 恋が終わりそうだな

imase「エトセトラ」

大きなホールの最後列から貴方を見たこと。深夜二時の小さなライブハウスで貴方の背中越しに音楽に酔ったこと。Now Loading…の浮かぶ横顔の息を吞むような美しさと、端っこの席の私を見つけてマイクを向けてくれた貴方の真意。歓声のあまりの大きさにはにかむ表情や、言葉の一歩目が重なった時の「なに?」の優しさ。

知らなかった表情に何度も何度もハッとして、目を離すことができない、と思った。見慣れたくないと感じながら、彼は見飽きさせたりしないだろうという確信もあった。「この背中見てれば面白くなるから」って歌ってくれたの、ほんと嬉しかったよ。




「決めつけ合って傷つけないで みんな人の子」を聴いて、貴方の確固たる圧倒的なまでの清らかさを思い知った。

人の子であることが傷つけない理由になるなんて、これでもかというほど愛を受けて育った人にしか至れない着地点だと思った。


「ゲイ、レズ、バイどうでもいい」を聴いて、そんな簡単な言葉を使ったら、馬鹿にでも分かってしまうだろうともどかしくなった。

考えようとして考えた人にしか貴方のことを理解できないのだと思っていた自分の傲慢さを恥じた。理解なんてできた試しが無いことを忘れていた。




一人暮らしの話をしながら「寂しいという感覚が分からない」と言った貴方に心底共感しながら、この部分で通じ合っているということはつまりもし距離が近づいたとしても私達はお互いを必要とすることはないのだということに気付き、気付いたら涙が出ていた。

何故好きかも分からないくらい、私は貴方と噛み合わない。

気が合うことと好きなことは必ずしもイコールではないが、それにも限度があるだろうと思う。


ガチ恋なんてぬるい言葉では有り余るこの感情に、貴方が名前を付けてくれないか?そうしたらきっと、私はこれを認めて、信じて、抱き締めることができるから。



嗚呼これは、夏の終わりの喪失感か、来る秋への昂りか。

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