【JICA Volunteer’s Next Stage】コーヒーの生産地で過ごした濃い経験
ルワンダと次はビジネスでの関わりをつくりたい
☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します。
宮﨑 咲弥さん
●出身地 :長崎県
●隊 次 : 2018年度3次隊
●任 国 : ルワンダ
●職 種 : コミュニティ開発
●現在の職業 : (株)坂ノ途中 海ノ向こうコーヒー事業部
・海ノ向こうコーヒー
生産者とコーヒーの理解度深め品質向上へ
京都を拠点にした農業系スタートアップである(株)坂ノ途中。同社内の海ノ向こうコーヒー事業部で国際協力のプロジェクトを担当しているのが宮﨑咲弥さんだ。コーヒーの生産者との関係性をつくるためにラオス、中国、インドなど世界中の生産地を、ほぼ毎月、駆け巡っている。同社のこだわりは、ただ仕入れるだけでなく環境保全の視点も入れること。コーヒーの品質向上をサポートしながら、森林伐採や現地の生産者の生活向上など産地の課題解決にも力を入れ、生産者や産地コミュニティへの社会的インパクトの創出を目指す。
昨年7月に同社に転職した宮﨑さんは、それまでも一貫してロースターやコーヒーの専門商社など、コーヒーに関わる仕事を経験してきた。中でも国際協力機構(JICA)海外協力隊で生産者と共に過ごした時間は、今も大きな糧となっているという。宮﨑さんは、2019年にルワンダ・フイエ郡キナジセクターに赴任。町役場の農業セクターに属し、コーヒー農家の収入向上を目標に活動した。そもそもコーヒーに興味を持つようになったのは大学生時代のアルバイト経験だ。焙煎豆を扱う店で働き、コーヒー豆には世界各国のさまざまな種類があり、それぞれ味が異なることに面白さを感じるようになった。いつか自分の目で生産現場を見てみたいという思いから協力隊に参加した。
任地でまず宮﨑さんが気付いたのは、コーヒー農家でもコーヒーを飲む人が少ないことだった。ルワンダではチャイ文化が発展していたこともあり、街中では「イチャイ」というハーブティーがよく飲まれていた。コーヒーをより身近に感じてほしいと、宮﨑さんはコーヒーを淹れて持っていった。時には加工場でスタッフと一緒に鍋で淹れるなど、飲んで親しんでもらうことから始めた。
農家の収入を伸ばすために、宮﨑さんはスタッフとともに収穫後の生産処理を丁寧に行い、付加価値を高めてコーヒー豆を売ることを目指した。収穫後は加工場で、コーヒーの実(コーヒーチェリー)を重さや完熟度により選別。コーヒーチェリーの果肉や果皮を取り除き、豆を覆う皮を残したパーチメントと呼ばれる状態にし、乾燥させて出荷する。加工場での作業にコーヒーチェリーの浮力選別を取り入れたり、病害虫対策として木酢作りを試したり、試行錯誤しながら現地でできる小さな取り組みを続けた。
赴任から1年が経ったころ、新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、宮﨑さんも他の協力隊員と同様、帰国を余儀なくされた。「1年間はコーヒーの生産サイクルをよく見て理解したうえで、2年目から実践的なことにも挑戦しようと思っていたため、やり遂げたという達成感は大きくない」と話す。しかし、生産者の近くで1年間過ごせたことは、彼女の強みになっている。「産地の説明を自分の言葉で語れるようになった。じっくりと見たのはルワンダだけだが、他国の生産者の様子も想像しやすくなった。栽培から生産までのバリューチェーンを知れたことは大きい」
世界中の生産地を駆け回る
現在は7カ国の産地を担当する宮﨑さん。大変なことの一つに産地とのコミュニケーションを挙げる。「それぞれの国で、文化が異なるためスムーズにはいかない。根気強く伝える必要があるが、常に大切にしているのは現地の人とやり方を理解すること。モチベーションの獲方も生活レベルも違う。『こうやってほしい』と指示をするだけでなく、現実的にできることとできないことがあると理解し、話し合うことが大事だ」。だが、同時に、世界中の産地の人と関われることは、自身のモチベーション向上にもつながるといい、「視野が広がるし、いろいろなことに挑戦でき、自己成長が実感できる」と話す。今後は、協力隊で培ったネットワークも生かしながら、ルワンダで新事業を作りたいと意気込んでいる。実際にルワンダへ渡航する予定もあり、ボランティアとしてお世話になった地で、今度はビジネスとして関わることができれば、より生産者の方々の収入向上にも貢献できると期待を膨らませる。
筆者が受けた宮﨑さんの第一印象は、穏やかで柔らかな人だ。その雰囲気からは想像しがたいが、話を聞いていくとコーヒーに対する熱い思いを持ち合わせていることをひしひしと感じた。毎月の海外出張だけでなく、国内での仕入れ業務や商品開発など多忙ながらも、もっとコーヒーの栽培や加工、産地の社会や文化などについて学びたいという向上心にあふれていた。
(編集部・吉田 実祝)
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本記事は国際開発ジャーナル2024年7月号に掲載されています
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