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【BOOK INFORMATION】元JICA職員が探る大学連携の可能性

『大学の国際化とODA参加』

  ※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2019年6月号』の掲載記事です。


 日本の政府開発援助(ODA)による開発途上国への支援において、日本の大学と大学教員は、開発の支援に必要な知見・技術を有する知的拠点として重要な役割を果たしてきた。特に、相手国の高等教育機関の教育・研究能力を強化するための高等教育分野の支援では、いずれの支援においても日本の大学が相手国内での支援体制を構築し、カリキュラムの開発や教員の能力強化などにおいて、常に主導的な役割を果たしてきたといえる。
 その一方で、日本の大学を取り巻く環境は大きく変化をしてきている。1975年に世界全体で80万人だった留学生の数は2005年には280万人に、2013年には410万人に膨らみ、その後も増加を続けている。学生だけでなく、教員の国際的な移動も活発になり、また先進国の大学が海外にブランチ・キャンパスを設置するなど、高等教育セクターの国際化が大きく進んでいる。日本においても、2000年の「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」の大学審議会答申も踏まえ、留学生の受け入れが進んだ。その後も、日本政府によって2011年には大学の世界展開力強化事業、2014年からはスーパーグローバル大学創成支援事業等が開始され、日本の大学も国際化に向けて大きく舵を切っている。
 こういった政策・環境の変化の中で、日本の大学の国際協力への関与の仕方はどのように変わってきているのか、また、日本の大学の国際化にどのようなインパクトをもたらしてきているのか。本書は、政策的にも含意のあるこれら疑問への回答を得るべく行われた研究の結果をとりまとめたものである。
 ただ、大学の国際協力への関与の仕方やインセンティブは、個々の大学によっても異なる。その点を踏まえ、東京工業大学、豊橋技術科学大学、東海大学という、設置主体、規模、設立経緯などが異なる3つの大学を対象に選んだ上で、大学幹部として、あるいは大学教員・職員として、過去・現在に国際協力に関わってきた多数の関係者にインタビューを行い、その結果などを分析している。
 これらを、日本の大学の国際化の動向と重ね合わせながら、各大学がどういった意思決定を経ながら国際協力事業に関与してきたのかについて、そのメカニズムを立体的に浮かび上がらせるとともに、その結果としてどのようなインパクトを大学にもたらしたのかについても興味深い議論を展開している。
 筆者は、国際協力機構(JICA)において高等教育への協力事業に30年にわたって関わり、日本の大学の関係者たちと共に多くの協力案件を立案・実施してきた。本研究は筆者自身の長年の実務から得られた知見や人的ネットワークの蓄積の上に実施されていることから、関係者からのインタビューにおいても、本書の筆者だからこそ得られた多くの情報とそれらについての深い分析と考察が見受けられる。
 知識基盤社会の進展とともに開発途上国における高等教育分野の重要性は今後ますます増していく。そのときに、日本の大学の関与を適切に得ていくことは各協力の成功のためのカギとなる。本書は、そこに多くの示唆を与えるものである。


『大学の国際化とODA参加』
萱島 信子 著
玉川大学出版部
5,400円+税

・玉川大学出版部


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本記事は国際開発ジャーナル2019年6月号に掲載されています。

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