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【BOOK INFORMATION】児童労働の実態を可視化する
『わたし8歳、職業、家事使用人。―世界の児童労働者1億5200万人の1人』
※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2019年1月号』の掲載記事です。
一部、現状に合わせて加筆・修正しました。
「真に支援を必要としている人たちは開発現場にいない」―長年にわたり日本の国際協力NGOで草の根の活動を続けてきた大橋正明氏が本誌2018年11月号のインタビューでこう述べた。政府開発援助(ODA)のプロジェクトが日本政府や現地の有力者の意向を強く受けることで現地住民の真のニーズから乖離する傾向を批判すると同時に、助けが必要な人たちが本質的に「表から見えない」存在であることを示唆する一言だ。
そんな途上国の見えない問題に真摯に向き合ったのが本書だ。世界では現在およそ1億5,200万人もの子供たちが「児童労働」に従事していると推計されるが、ストリートチルドレンや、家事使用人として人目に触れないところで働く子どもたちなどはその実態が十分に把握されていない。本書はそんな児童労働の問題を平易にかつ多角的に論じている。
著者である日下部尚徳氏は、バングラデシュで長年にわたり研究者としてフィールドワークに取り組む傍ら、国際協力NGO団体(特活)「シャプラニール=市民による海外協力の会」の一員として現地の児童労働者を支援する活動を行ってきた。「シャプラニール」とはベンガル語で「睡蓮の家」という意味。1972年の設立以来、バングラデシュをはじめ、南アジアの貧困問題に取り組んでおり、国際協力の世界では誰もが知る存在だ。児童労働の問題でも多岐にわたる活動を展開している。(前出の大橋氏も過去に代表理事を務めた)。
本書はこうした著者の現場経験を元にバングラデシュに「家事使用人」として働く女の子に焦点を当て、彼女たちの生活に迫っている。一日16時間働き、雇い主の残飯を食べ、部屋も与えられずにキッチンで寝る女の子や雇い主から性的ないやがらせを受けて地元の村を追われた女の子など、児童労働の実態を浮き彫りにしている。
だが、本書が特に優れているのは子ども本人に加え、その家族や雇い主の声をも集めている点にある。これによって児童労働という社会問題の表層だけでなく、この問題が発生する社会構造や文化的背景が自然と浮かび上がる。
例えば、三本の大河が流れるバングラデシュでは、土砂の堆積で生まれた中洲地帯に多くの貧困層が暮らしているが、この地帯は災害対策が十分ではなく、しばしば大洪水の被害に見舞われる。このことが貧困家庭の生活を破綻させる一方、雇い主はこうした事情を理解した上で貧困家庭の子どもたちを預かっている。
そのため、現地ではしばしば子どもを雇うことが、むしろ貧困層を助ける「良い行い」であると認識されている。児童労働は、人権問題であると同時にまさに経済格差や自然災害、宗教文化などの要素が複雑に絡み合った結果として発生していることを如実に示す部分であり、子どもたちへの支援だけでは到底解決に至らない根深さを持っていることが分かる。
なお、本書後半は統計などを引きつつ、児童労働の問題をより一般的に論じているほか、シャプラニールの活動などを紹介している。一般読者向けとして充実の内容だが、願わくば国際協力NGOの活動が現地でどのようなインパクトをもたらし、そこにどのような困難があるのか、児童労働問題における開発支援の可能性と限界をもう少し掘り下げたいところだ。
『わたし8歳、職業、家事使用人。―世界の児童労働者1億5200万人の1人』
日下部 尚徳 著
合同出版
1,400円+税
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・合同出版
掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2019年1月号に掲載されています。
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