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【BOOK INFORMATION】日本の地方創生を開発の知見に

『社会イノベーションと地域の持続性 ―場の形成と社会的受容性の醸成』

  ※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2019年4月号』の掲載記事です。


 少子高齢化の進行による急速な人口減少は、日本の地方を直撃している。“地方の消滅”と“地方創生”の狭間で揺れる日本の地域社会に、打つ手はあるのか――。この問いに対して、地域社会の持続性に向けた課題解決を目指す地域内外のマルチアクターによる「場の形成」と、マルチアクター間における「社会的受容性の醸成」を通じた社会イノベーションの創造という解決策を提示しているのが、本書だ。
 マルチアクターによる場の形成は、知識創造プロセスとして機能すると社会イノベーションに繋がるアイデアを生み出す。また、社会的受容性の醸成はアイデアの具体化に繋がる資源動員の正統化プロセスとして機能し、社会イノベーションの形成と普及を促進する。
 この手法を取り入れている事例として、長野県飯田市と静岡県掛川市、兵庫県豊岡市を取り上げている。これらの都市はそれぞれ、低炭素化社会アプローチ、資源循環型社会アプローチ、自然共生社会アプローチから持続可能な地域社会づくりに取り組んでいる。
 第Ⅰ部の「ケース研究:地方都市の持続性と社会イノベーション」では、飯田市、掛川市、豊岡市の具体的な取り組みを検証している。これらの都市が実践している新たな制度や組織づくりを社会イノベーションの創造プロセスという視角から分析し、マルチアクターによる場の形成と社会的受容性の醸成という共通要素を抽出し、そのメカニズムを検討している。
 第Ⅱ部の「『場の形成と社会的受容性の醸成』による社会イノベーションの創造」では、3都市のケース分析から導き出された社会イノベーションの創出のプロセスを理論的・実証的に深掘りし、「社会イノベーション・モデル」として提示することを試みている。
 その中で、本書は重要なポイントとして以下の3つを論じている。一つ目は、社会イノベーションを創出する新たなアイデアを生み出すための場を、どのようなメンバーやルールで形成するのか、という点だ。情報蓄積において、ミクロ(個人)とマクロ(地域や組織など全体)とを結ぶループをいかに有効に機能させるかを、場の参加者が明確に意識し、場を形成することが重要性である。
 二つ目は、社会イノベーションを具体化する資源動員を可能とするため、地域社会におけるマルチアクター間の制度的・市場的受容性の醸成をどのように図っていくかという点である。これには、全国レベルの社会的受容性(制度、技術、市場)の醸成が前提となる。そして三つ目は、マルチアクターによる場を率いる社会変革の担い手として、実践知を備えたリーダーの存在が必要不可欠であるという点だ。
 これらのポイントは、途上国開発でも重要となるだろう。多くの途上国は、さまざまな問題に対して断片的な施策を実施しており、持続可能な発展に向けた全体的な体制転換が難しい状況にある。必要なのは、各地方自治体が地域の持続性に向けて自ら問題構造を把握し、その問題に関係するステークホルダーが行動を起こすよう促していくことだ。そして、こうした社会イノベーションの創造を単発で終わらせるのではなく、継続的に実施していくためメカニズムを開発していくことも必要だ。途上国における持続可能な発展を支援する国際協力の手法の一つとして本書に注目したい。 


『社会イノベーションと地域の持続性 ―場の形成と社会的受容性の醸成』
松岡 俊二 編
有斐閣
3,800円+税

・有斐閣


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本記事は国際開発ジャーナル2019年4月号に掲載されています。

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