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【BOOK INFORMATION】TICADに必要な市民社会の一層の関与対アフリカODAの現状と問題点を客観化

中東・アフリカ諸国への政府開発援助(ODA)について歴史的経緯を俯瞰し、持続可能な社会の実現に向けて今後の国際協力の課題を考えるためのハンドブック(手引書)が出版された。アフリカ開発会議(TICAD)のあり方を考える上でも、貴重な一冊である。


 『日本の国際協力 中東・アフリカ編』はアジア編、中南米編に次ぐ3巻本の一つだ。51人の専門家が中東15カ国、北アフリカ7カ国、サブサハラ34カ国について解説した労作である。
 執筆陣は学者・研究者や、現場で活動するNGOなど国際協力関係者で、それぞれ独立した立場からODAの現状と問題点を客観的に取り上げている。政府の『開発協力白書』や広報誌などではお目にかからない視点が多い。ここでは、アフリカに関して日本の姿勢が問われている論点を紹介する。
 第一は「アフリカ市民社会の視点」だ。宇都宮大学のガーナ人研究者、スタニスラウス・アクア氏はコラム「TICADとODA」でTICADの変遷を分析し、「アフリカにおける中国のプレゼンスや日本の経済的困窮などの影響も受け、TICADは開発援助から貿易や投資の推進へ重点がシフトし、日本の国益がさらに色濃く押し出されている」と指摘する。
 2008年の第4回TICAD以降、日本のNGOや市民社会の多少の関与が認められるようになったが、アクア氏は「TICADがアフリカの市民・人々を内包したプロセスとは言い難い。今後、普通のアフリカの人々のより良い生活に軸を置き、その市民社会の参加をより積極的に取り入れていく必要がある」と言う。こうした指摘の背景にはアフリカ諸国の格差拡大があるようだ。日本とTICADが、一部の富裕層を相手にしているように見えるのではないか。
 第二は、「サハラ・アラブ民主共和国(通称・西サハラ)問題」だ。日本は、西サハラの領有権を主張するモロッコ王国と緊密な二国間関係があるため、西サハラの国家承認をせぬまま、モロッコにODAを注ぎ続けている。だが、西サハラはアフリカ連合(AU)やアフリカ統一機構(OAU)加盟国で、TICADでも相応の扱いを求めている。
 第三は、モザンビークで大きな批判を浴びた末に、中止された農業開発事業「プロサバンナ問題」だ。本書では、「対モザンビーク援助~ODAは現地市民からの「反対」の声にどう応えられるのか」として解説している。
 プロサバンナは、日本がブラジルで実施した農業開発をモデルに、日本とブラジルが連携してモザンビークに導入する構想に3カ国合意し、2011年から事業が始まった。ところが、投資や企業進出で地元の小規模農家の土地収奪や森林伐採、環境破壊に懸念が高まり、現地政府による人権侵害も明らかになり、最終的に2020年、事業の中止・終了が決まった。
 本書では、モザンビークの現地農民組織の代表の「“悲しみの開発”“犠牲を伴う開発”は必要ない」との言葉を紹介し、プロサバンナ問題に関する日本政府と国際協力機構(JICA)の総括とODAのあり方の再考を求めている。
 本書はこの他、エジプトやナイジェリアなど、中東ではアフガニスタンなどに関わる多くの論点を挙げている。惜しむらくは、新型コロナウイルスの感染拡大より本書の編集が先行したため、感染症対策の課題が十分取り上げられなかった点だ。今後の課題として期待したい。

(本誌編集委員・竹内 幸史)



『日本の国際協力 中東・アフリカ編 貧困と紛争にどう向き合うか』
阪本公美子 岡野内正 山中達也 編著
ミネルヴァ書房
4,000円+税


・Amazon

・紀伊國屋書店

・Rakutenブックス


本記事掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2022年8月号に掲載されています。
(電子書籍版はこちらから


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