見出し画像

腐れ外道の城 4-4

人が人を嫌うことや、嫌悪感を抱くことに明確な理由が存在するのか、そう問われると、さしたる理由もない場合のほうが多いだろう。
 三郎兵衛と畠中信好が、お互いを嫌いあっているのにもさしたる理由がある訳でもなかった。

三郎兵衛は慣用で大らかで、上下の身分の隔ても無く人と付き合える人間である。
 がこと畠中信義に対しては、三郎兵衛の寛容さの扉は、苦手な食物を無理矢理口に詰め込められ、それを飲み込もうにも、どうにも食道が受け付けない心理に似ている。

信義側へ視点を変えると、三郎兵衛を嫌う理由が幾つか上げることが出来る。

黒田家は代々本田家の家臣であったが、位としては畠山家に劣る家系であった。
 しかし中流の身分でありながら、三郎兵衛は先代の忠信に寵愛され、現領主の忠康からは兄のように慕われ、城内での扱いも畠山と変わらぬものとなっていったのだ。

代々側近を努めている畠中家からすると、三郎兵衛は疎ましい存在であった。

二人の大将の戦略会議は、やや感情的意見を入れつつも、結果両者の折衷案をとるかたちとなり、三郎兵衛の隊からごく少人数を選び、斥候とし、その後方を三郎兵衛が固め、信義はその後方をかためることに落ち着いた。
 
 戦支度を整えている甲四郎の元に十吉が現れ、甲四郎に話す間も与えずはなし始めた。

「甲四郎、此度の平野城への先陣はお前が勤めろとの事なので、儂がついて行く」
「何故じゃ」
「何故も何もあるか、お前に先陣が勤まるはずがない、だから儂がこの隊を引き継ぐ」

いいなと思ったら応援しよう!