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腐れ外道の城4-3
市蔵達から遅れる事二日、忠康からの援軍が「三郎兵衛砦」へやってきた。
援軍を指揮するのは、畠中信義(はたなかのぶよし)という三郎兵衛より五つ年配の男だった。
三郎兵衛は、信義が援軍を率いて来た事にも違和感を覚えた。
なぜなら、畠山信義の畠山家は本田家の側近中の側近の家柄で、信義も忠康の政治面と軍事面を支える重要な人物であり、三郎兵衛と信義がここにそろってしまったと言う事は、樋野城が裸城になったも同然であるからだ。
しかも、三郎兵衛と畠山信義は以前から反りが合わず、反目する同士を同じ戦地に置いても、ことが前に進まないのは目にみえている。
「奥本田が何やら不穏な動きをしておる」
信義は、三郎兵衛との挨拶もそこそこに、そういった。「奥本田」とは本田家の分家のことで、つまり、本田清親のことである。
「清親は最近よく城を訪れる。忠康様はそれを警戒し、儂をよこした。つまりは、平野城など素早く落とし、戻らねばならぬ」
「しかし、井藤十兵衛は城に籠もるつもりじゃ、籠城戦となれば、さっさと片を付けるのも困難であるぞ」
「そのようなことは重々わかっておるわ、そこはそれ、先陣を少数にして城を取り囲めば良い」
「それでこちらを甘く見た十兵衛が討って出たときに、叩くと申したいのでしょうが、そううまく行きますかな」
初老の武将は穏やかに笑った。
「儂と三郎兵衛との仲は、井藤十兵衛とて知っておろう、儂が遙か後方で陣を張っておれば、十兵衛の小僧も、あの爺はヘソを曲げて高みの見物を決め込んでおると思い、頭をだしてくるわ」
三郎兵衛は鼻息を深く吐いた。
そんな子供だましの策に井藤十兵衛が乗ってくるはずがない。
すべての人数で城を取り囲み、城自体を孤立化させてしまった方が効果的であるし、逃げることも叶わないと悟った十兵衛が、和睦を持ちかけてくるに違いないのだ。
「儂の策にケチを付けたいのはわかるがな、三郎兵衛、お前は大きな過ちを犯しておるのに気づかぬか」
「過ちですと」
「おおよ、お前は砦を守っていた者共を全て味方にしてしもぉた。それで十兵衛の手駒は減ったかもしれぬが、こちらの食い扶持が増えてしもうたのだぞ」
三郎兵衛は言い返すことも出来ず、ただ奥歯を噛んだ。
確かに、籠城する側からすれば、人数が少なければ兵糧の減りも遅く、籠城の長期化を容易にさせてしまうのだ。
勿論、三郎兵衛が砦に襲撃をかけた時点では、平野城を落とすには長期戦を覚悟しなければならない、そう考えてもなんらおかしくない状況であった。
忠康の後詰といっても、人数も限られているだろうし、兵員は現地調達すれば良いと、砦を守っていた者を仲間に引き入れたが、結果それが自軍を苦しめようとしている。
現状から見て、信義の意見は、三郎兵衛にとって腹立たしいほど真を捕らえた意見であったのだ。