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腐れ外道の城3-1
I井藤十兵衛
井藤十兵衛
「樋野」という土地の名の由来は、「樋」つまり、物の表面に付けた細い溝、水を引き入れる筒などの意味がある言葉である。
樋野は正に高い山脈を、深く細く削り取って出来た平坦な土地であり、言い換えるなら山脈に囲まれた半島のような土地である。
V字に切れ込まれた狭い土地の付け根は、大国「山名」と接していて、「半島」の先端部分にあたる地域を「平野」と呼び、急勾配の山脈の前にある平たい土地である。
その崖のような勾配に三方を囲まれた平地に、平野城があり、現在の城主が井藤十兵衛である。
十兵衛は三十半ばの、鶏のよう面構えの男であり、度胸は無いが、自信だけはある扱いに困る人物である。
その鶏面の痩せ男が、軍議の最中に広間を歩き回っては「ふむ」また暫く歩き回って立ち止まると「ふむ」という動作を繰り返している。
正に行動も鶏だ。
十兵衛の落ち着かない行動は、毎度のことであるが、この時の行動と息づかいの定まらなさは尋常では無い、その原因の一つは、広間の中心に置かれ上座を睨んでいる、井藤砦の主だった井藤六郎太の首である。
「十兵衛様、いかがいたしましょう、井藤砦は本田の手の者に落とされ、六郎太様の首がこのように届いておりまする」
十兵衛は、歩きながら重臣の話を聞くと、立ち止まり、小さい唸り声を上げた後、口を開いた。
「何故だ、こちらは五百の兵を砦につけたのだろう、何故二百ほどの者にそこまでやられる」
「五百と申されましても・・・砦は狭く、戦闘に参加できたのは多くても三百四五十かとおもわれ」
「しかも、相手は少数とはいえども、強者で知られる黒田三郎兵衛です」
「黒田三郎兵衛を出してきたということは、本田も本気で我等を叩くつもりですぞ、いち早く降伏せねば」
「いや、まだまだ籠城という手が御座います我等の城の兵糧は、三月は持ち堪えられまする、相手が根負けして引いた時にこちらの好条件で和睦を持ちかければよいのです」
「否!本田忠康様自らが出陣なされるとも噂されております!ここは早期の降伏を」
「そもそも我等はなんのために立ち上がったのだ!本田忠康からの突然の土地替えの命令があった為では無いか!その意思を見せぬまま降伏など、何の意味がある」