腐れ外道の城4-5
甲四郎の顔が見る見るうちに強ばり、父に怒りの感情を剥き出しにした視線を向ける。
「それは三郎兵衛様が父上に直接仰った下知ですか」
十吉は口ごもり、奥歯を軋ませ息子を見た。
「やはりな、思った通り、父上が一存で下したことでしょう」
息子はもう父の目を見ようともしなかった。
「しかしのぉ、儂はお主をおもって・・・」
「お気遣いなさらずとも、わたしは井藤砦の時も一人でやり遂げました。お引き取りを」
「甲四郎!それが親に向ける言葉か」
十吉の鼻息はまだ荒い。
「父上も武人なら、例え親だとて、自分の隊を勝手に他人に渡すなどもっての外だということは分かっておるはずです」
十吉は目も合わせてくれない息子を睨み、口の中でなにかを呟き続けている。
「父上、私はいつになれば父上の許しがなくても動くことが出来るのですか?そこにおる市蔵という者は、私より二つ年下でありながら、父の甚六から全てのことを任されております、父上!私はいつになれば父上の元から離れられるのですか!」
十吉は短く息を吸い込み、息子を怒鳴りつける助走に入るが、甲四郎はその先手をうち、今まで反らせていた目を父親に向け、通った声を発した。
「父上!ここは私の陣です!お引き取り願わねばこちらも手を出さねばなりませぬ!」
「なんとぉ」
「父上・・・お引き取りを」
十吉は「ふっ」と息を吐くと、静かに立ち上がり、クルリと後ろを向くと、その場を立ち去る。
十吉とて普段からこのような人間ではないのだが、こと甲四郎の事になると手や口を出さずには居られなくなるのだ。
甲四郎は五人兄弟の四人目で、兄や弟に対しては放任であるのに、何故か自分にだけ干渉してくる父に不満を感じ続け生きてきた。
十吉からすると何故甲四郎にだけ干渉するのか、問うた所でさしたる理由はないのかもしれない。
翌日夜が明けきらぬうちに、甲四郎は三十人あまりの小隊を引き連れ、三郎兵衛砦を出立した。