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#10 「鐘の音」に辿り着くまで② | 元祖発車音 開発秘話 新宿駅の音

今でこそ多くの駅で聞かれる発車メロディや発車サウンド。
その元祖である、「JR新宿駅・渋谷駅の音(1989-)」について、当時の開発プロジェクトリーダーである「井出 研究所」所長・井出 祐昭が、開発秘話や制作エピソードを語ります。

TOKYO MORNING 1989 (井出 研究所)


「鐘の音」に辿り着くまで ②

「元祖・発車音」開発において、「鐘」の音が参考にされたということは、当時の新聞やメディアなどでも多く取り上げられました。(当時の新聞記事の画像はこちら
では、どのような経緯で「鐘の音」に辿り着いたのでしょうか?

前回の記事 #9 「鐘の音」に辿り着くまで①


発車音を開発する指針として、「音で、時間や何かの開始や終了を表現しているもので、少なくとも1000年以上それが淘汰されないできたもの」って何なのかなぁということを考えました。

例えば、禅寺なんかには「魚板」という魚の形をした板があって、それを木の槌で叩いて「今からはじまるよ」「終わったよ」という風に、開始と終了を知らせます。

「魚板」:黄檗宗(禅宗)の寺院に特有の木製の法具。(京都黄檗山萬福寺)
我々に馴染み深い「木魚」は、「魚板」から派生したものとも言われる

それから、アフリカにはトーキングドラムというものがあります。
太鼓を脇に抱えて紐を絞めたり緩めたりすると、太鼓の革の張力が変わって、イコール音程がかわって、言葉じゃないんだけど、けっこう言葉っぽく表現することができる。
それを叩いて通信するのです。

また、もう少し大きな、割れ目太鼓というものもあります。
木そのものを倒して、スリットを付けて、スリットの大きさによって音程が変わる。
大きな音がするし、遠くまで届きます。
 
だけど、色々なことが発達してくると、そういったものはなくなってくる。

日本でいうと、半鐘という、火事の時にカンカン鳴らすものがありますが、今ではだんだん使われなくなってきています。
衝撃音みたいなもので、遠くまで音を届かせるというものは色々あるんだけど、なくなってしまったものが多いのです。

昔からあって、今でもなくならずに使われているもの。
戦争や天変地異があっても持ちこたえてきたものって何かと考えて、辿り着いたのが「鐘」でした。
教会の鐘とか、お寺の鐘とか、宗教も関係するかもしれませんが、そういうものはなくなっていない。
それがなぜなのか、というところに答えがあるのではないかと考えました。

(次回に続く)


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井出 祐昭 HIROAKI IDE
サウンド・スペース・コンポーザーSound Space Composer

ヤマハ株式会社チーフプロデューサーを経て、2001年有限会社エル・プロデュースを設立。最先端技術を駆使し、音楽制作、音響デザイン、音場創成を総合的にプロデュースすることにより様々なエネルギー空間を創り出す「サウンド・スペース・コンポーズ」の新分野を確立。
主な作品として、30周年を迎えるJR新宿・渋谷駅発車ベル、愛知万博、上海万博、浜名湖花博、表参道ヒルズ、グランフロント大阪、東京銀座資生堂ビル、TOYOTA i-REALコンテンツ、TOYOTA Concept-愛i、SHARP AQUOS、立川シネマシティ、世界デザイン博など。
またアメリカ最大のがんセンターMD Anderson Cancer Centerで音楽療法の臨床研究を行う他、科学と音楽の融合に取り組んでいる。最近では、日本ロレアルと共同で髪や肌の健康状態を音で伝える技術を開発。米フロリダ州にて行われた化粧品業界のオリンピックである第29回IFSCC世界大会、PR分野の世界大会であるESOMAR 2017にてグランプリを受賞。メディア出演・講演多数。


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