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#11 「鐘の音」に辿り着くまで③ | 元祖発車音 開発秘話 新宿駅の音

今でこそ多くの駅で聞かれる発車メロディや発車サウンド。
その元祖である、「JR新宿駅・渋谷駅の音(1989-)」について、当時の開発プロジェクトリーダーである「井出 研究所」所長・井出 祐昭が、開発秘話や制作エピソードを語ります。

2024年に35周年を迎えた「元祖発車ベル」ををオルゴールバージョンとしてリメイク。


「鐘の音」に辿り着くまで ③

「元祖・発車音」開発において、「鐘」の音が参考にされたということは、当時の新聞やメディアなどでも多く取り上げられました。(当時の新聞記事の画像はこちら
では、どのような経緯で「鐘の音」に辿り着いたのでしょうか?

前回の記事 #9 「鐘の音」に辿り着くまで①#10 鐘の音にたどり着くまで②


発車音を開発する指針として、何ヶ月も考えた末に「鐘の音」に辿り着きました。それからは、鐘の音というものを、いくつかの視点から音響的に研究しました。

一つは、音量の視点。
鐘は叩いたときに「ぱしっ」という衝撃音みたいなものが出て、それが結構遠くまで届きます。
直線的な音と言ってもいいんだけど、帯域としては低いところから高いところまで全部入っているような、そういう衝撃音がバシッとでてきます。
その後に、「ぼわん」という音が出る。
お寺って、鐘の下を掘って、楽器の胴みたいなところができているんだけど、そこで「ぼわーんぼわーん」と干渉してできる響きがあって、その響きも結構遠くまで聞こえます。

最初の「パシッ」というところだったら、きっと「半鐘」みたいに、刺激が強すぎて緊張感が高まるだけになるんだけど、そのあとに「ぼわん」という音響の変化がある。
その「ぼわん」という音がずっと続いてることで、最初の衝撃がやわらぐのです。
例えて言うならば、ビンタの後に抱きしめるみたいな(笑)


音の高さや強さをを可視化したもの。鐘の音と新宿駅発車音の構造が似ていることが分かる

2つめは、音色の傾向です。
鐘の音というのは、教会の鐘もお寺の鐘も、わりと似た音色なんですが、倍音というものがあります。
一番基音になる「ぼーん」という音があるんだけど、その上にオクターブとか、そのまた5度上とか、「自然倍音」というのが繋がっていきます。
倍音構造というのは、すごく独自のものです。。
鐘は倍音構造が特殊。5度とか4度とかの積み重ねでできています。
すごく明るい響きとか、もしくはすごく暗い響きとかではなく、どちらとも捉えられるような響きです。
その響き自体が自然の摂理でできているので、嫌な感じにならない。
お寺の鐘の倍音構造というのがうまく音楽的に表現できないかな、というところにたどり着きました。

3つ目は、個と調和。
除夜の鐘や教会の鐘を思い出してみると、色んなお寺や色んな教会が時間や除夜の鐘など、ばらばらに時間もずれて鳴っています。
この音は○○教会の音、この音は○○寺の音とわかります。
分かるんだけど、街にいる人たちは混じった音も聞いてしまう。
除夜の鐘なんかも色々なところから聞こえてくるけれど、それを「すごく不快」と思うひとは少ない。
教会の鐘もそうで、学習によって不快に感じないというわけではなく、倍音構造によるものです。
重なっても不協和音だけど不快に聞こえないという、独特の「調和の原理」みたいなものがあるのです。

そういうことで、「教会の音を教科書にしよう」ということになりました。


「元祖発車音 開発秘話 新宿駅の音」では、皆様からの質問を募集しております。
井出所長に聞いてみたいことがございましたら、note記事へのコメントまたは公式Xへのリプライでお寄せください。


井出 祐昭 HIROAKI IDE
サウンド・スペース・コンポーザーSound Space Composer

ヤマハ株式会社チーフプロデューサーを経て、2001年有限会社エル・プロデュースを設立。最先端技術を駆使し、音楽制作、音響デザイン、音場創成を総合的にプロデュースすることにより様々なエネルギー空間を創り出す「サウンド・スペース・コンポーズ」の新分野を確立。
主な作品として、30周年を迎えるJR新宿・渋谷駅発車ベル、愛知万博、上海万博、浜名湖花博、表参道ヒルズ、グランフロント大阪、東京銀座資生堂ビル、TOYOTA i-REALコンテンツ、TOYOTA Concept-愛i、SHARP AQUOS、立川シネマシティ、世界デザイン博など。
またアメリカ最大のがんセンターMD Anderson Cancer Centerで音楽療法の臨床研究を行う他、科学と音楽の融合に取り組んでいる。最近では、日本ロレアルと共同で髪や肌の健康状態を音で伝える技術を開発。米フロリダ州にて行われた化粧品業界のオリンピックである第29回IFSCC世界大会、PR分野の世界大会であるESOMAR 2017にてグランプリを受賞。メディア出演・講演多数。


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