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理詰めで誰でも面白いストーリーが作れる 10 濃厚なキャラの作り方

面白いストーリーを作るための、充分な量と質の理論を提供する連投テキスト。
10回目である今回は、いわゆる「キャラが濃い」とは何か、及びそのようなキャラを作るにはどうすればよいかについて述べる。


「キャラが濃い」とは?

実在の人物に対しても物語作品の登場人物に対しても、「キャラが濃い」という表現はよく用いられる。
個性が強いとか強烈な印象が残るとか、大体そのような意味で使われていると考えてよいだろう。

実在の人物に対する「キャラが濃い」は、必ずしも好意的な評価ではない。
「キャラが濃い」相手とのコミュニケーションは、そうでない相手とのコミュニケーションに比べて、エネルギーの消費量が多くなりがちである。
現実世界には様々なストレスが存在するので、コミュニケーションに余分なエネルギー消費が強いられる相手というものは、敬遠されることも少なくない。
そのため、一般的には誉め言葉の部類に入る「キャラが濃い」だが、実際には「ちょっと面倒な人」「あまり積極的には関わりたくない人」という評価を、やんわりとしたニュアンスに言い換えたものである場合もあるのだ。

一方、物語作品の登場人物にたいする「キャラが濃い」は、そのほとんどが好意的な評価と考えてよいだろう。
物語作品の受け手は、物語作品の登場人物とのコミュニケーションを強いられることは無い
(一部の極めて熱烈なファンは、何らかの形でコミュニケーションを取ることを望み、また実際に試みもするが、それはまた別の話だ)。
そのため、登場人物に対する「キャラが濃い」という言葉に、何かしらネガティブな評価が混入することは、全くの皆無とは言えないものの、ほぼ無いと言っても過言ではない。

あえてそのようなケースを例示するなら、物語作品全体の雰囲気にそぐわない「濃さ」により、作品の雰囲気を損なっている場合には、ネガティブな評価となり得る。
が、そのような場合には「キャラが濃い」ではなく、「キャラが濃過ぎる」や「浮いてる」という表現が用いられることがほとんどだろう。
実在の人物に対する評価においては、直接的な批判が憚られる文化があるのに対して、登場人物に対する評価においては、そのような文化は無いからだ。

以上のことから言えるのは、物語作品の登場人物については、「キャラが濃い」は正義だということ。
つまり、キャラクター設定に際しては、「濃いキャラ」を作るように意識するのが、得策ということである。

逸脱の法則

冒頭で述べたように、「キャラが濃い」とは、個性が強いとか強烈な印象が残るとかいう意味だ。
果たして受け手は、どのようなキャラクターに対して、個性が強いと感じたり、強烈な印象を受けたりするのだろうか?

キャラクターに限った話ではなく、物語作品全般に関して、受け手が感じる印象の強さについては、一定の法則性がある。
その法則性とはすなわち、「【受け手が感じる印象の強さ】は、【一般常識や社会通念、さらには受け手の予測からの、逸脱の度合い】に比例する」というものだ。
つまり、常識や予測から大きく逸脱していればいるほど、受け手に対して強烈な印象を与えることができるということ。
この連投テキストでは今後、これを逸脱の法則と呼ぶこととしたい。

逸脱の法則を活用すれば、「濃いキャラ」の作り方も簡単にわかる。
そう。
行動規定因子を設定する際に、常識や予測から大きく逸脱したものを、いくつか混入させるだけでいいのだ。

例えば、
家族構成が三世世帯同居で総勢30人とか、
コミュ力が高過ぎて歴代クラスメイト全員から親友と思われてるとか、
意志力が高過ぎて不眠不休で作業することが多くて、月に一度は倒れて病院に運ばれるとかいった具合である。

以上は常識からの逸脱の例だが、予測からの逸脱ではどうなるか?
この場合の予測からの逸脱とは、他の行動規定因子から予測される範囲を、大きく外れているという意味である。

例えば、
女子高校生で見るからにギャルな見た目だけど、趣味は盆栽であるとか、
年齢は小学生だけど東大の過去問がスラスラ解けるほど知力が高いとか、
仕事も交友関係も文句なしの完璧超人かと思いきや、生活力だけはずば抜けて低くて、世話好きの妹に頼りきりとかいった具合である。

この方法で「濃いキャラ」を作る際、くれぐれも注意してほしいのは、度が過ぎるとリアリティが無くなるという点だ。
コミカルな作風であれば問題無いが、シリアスな作風の場合はとくに要注意である。
「濃過ぎて浮いてるキャラ」にならないよう、作風との兼ね合いには充分に配慮する必要がある。

変人キャラと変人スイッチ

「キャラが濃い」「一般常識や社会通念から大きく逸脱した人物」というのを突き詰めてゆくと、やがては奇人変人へと行き着く。
実際に奇人変人と称しても過言ではないキャラクターが、人気を博している例は少なくない。
この連投テキストではこれ以後、そのようなキャラクターを変人キャラと呼ぶこととする。

変人キャラのお手軽な作り方はこうだ。
行動規定因子表のうち、意識領域無意識領域に属する因子に、奇抜・突飛・非常識な要素を盛り込む。
以上。

例えば「信念」という行動規定因子があるが、これはそのキャラクターが考える最も善い状態や事物のことだ。
常識的な「信念」としては、「事なかれ主義」(平穏無事な日常が一番なので、波風立てない行動を心がける)とか、「年功序列」(年上には敬意を払うべき)といったものがある。
ここに非常識な要素を盛り込むとしたら、「建前嫌い」(常に本音を剥き出しにして生きる)とか、「極端な反権威主義」(肩書には一切敬意を払わない)とかが考えられる。

あるいは「感情の癖(喜怒哀楽)」という行動因子があるが、これは喜怒哀楽に関する感情の癖だ。
常識的な「感情の癖(喜怒哀楽)」としては、「ネガティブ思考」(悲しみの感情を抱きやすい)とか「怒りっぽい」とかがある。
ここに非常識な要素を盛り込むとしたら、「極端なポジティブ思考」(ほとんど全ての出来事に対して、喜んだり楽しんだりする)とか、「極端な情緒不安定」(喜怒哀楽の振れ幅が極端に大きく、例えば激怒していたかと思った次の瞬間には号泣していたりする)とかが考えられる。

このように、変人キャラを作るのは割と容易だ。
が、だからと言って変人キャラを量産するというのは、少し考えものである。

試みに、登場人物の大半が変人キャラという物語作品をイメージしてほしい。
退屈とは無縁なド派手な作品になりそうではあるが、食傷気味になって離れてゆく受け手が続出する事態は、想像に難くないだろう。
このように、バランスが余りにも偏っていると、受け手は興醒めしてしまうことがあるのだ。
とくに、変人キャラが作風にそぐわない場合はなおさらである。

作風やバランスの関係上、これ以上変人キャラを出すわけにはいかないのだけれども、とびきり「濃いキャラ」がもう一人欲しい。
そのようなシチュエーションが発生した場合に、役に立つ方法を紹介しよう。

そもそも、変人キャラの何が問題であるかといえば、感情移入が困難で、親近感が湧きにくいという点だ。
その原因はシンプルで、常人から見た変人キャラは、何を考えているかわからないからだ。

彼らの奇抜で突飛な行動は、決してウケ狙いではない。
彼らは彼らなりに本気で大真面目なのだ。
その行動原理や思考回路が、余りにも常人離れしているからこそ、変人と呼ばれているわけだ。

もし仮に、行動原理や思考回路が常人と同じで、何を考えているかもわかりやすく、感情移入が容易で親近感が湧きやすい、そんな変人キャラがいたらどうだろう?
それはすなわち、変人キャラに付随するデメリットが無く、「すごくキャラが濃い」というメリットだけが有るということ。
もしそのようなキャラクターが作れるとしたらどうか?

そんなことできるわけがない――
そう思う人は多いだろう。
ところがどっこい、できるのだ。
その方法を以下に紹介しよう。

普段は全くの常人と同じ行動原理や思考回路で暮らしているが、或る特定の条件下でのみ、奇抜で突飛な行動に及ぶ
しかもその条件もシンプルでわかりやすい
そのようなキャラクターであれば、感情移入は容易だし親近感も湧く。

例えば、
普段は絵に描いたような優等生だが、常軌を逸した猫好きで、猫が視界に入るといても立ってもいられなくなり、我を忘れて人目も憚らずかわいがってしまうとか、
いかにも清楚な印象の良家のお嬢様が、実は無類の筋肉フェチで、トレーニングジムで筋トレをする振りをして、実は周囲のマッチョメンを盗み見て興奮しているとかいった具合である。

以上の二つの例においては、猫や筋肉がいわばスイッチのような役割を果たすことによって、常人が変人キャラへと豹変する。
そのような、常人を変人キャラへと豹変させるスイッチのことを、私は、変人スイッチと呼んでいる。

この変人スイッチを設定されたキャラクターは、常人としての側面と変人キャラとしての側面という、二つの側面を併せ持つことができる。
それはつまり、変人キャラのデメリットの影響を受けずに、メリットのみを付与することとほとんど同義だ。
非常に便利なテクニックなので、大いに参考にしてほしい。

まとめ

「キャラが濃い」とは、個性が強いとか、強烈な印象が残るとかいった意味である。
物語作品の登場人物については、「キャラが濃い」のは良いことだ。

「濃いキャラ」を作るには、行動規定因子を設定する際に、常識や予測から大きく逸脱したものを混入させればよい。

「濃いキャラ」の究極形は変人キャラである。
変人キャラとは、奇抜・突飛・非常識な行動が多いキャラクターのこと。
変人キャラを作るには、行動規定因子のうち、意識領域か無意識領域に、非常識な要素を混入させればよい。

普段は普通のキャラクターだけど、或る特定の条件下でのみ変人キャラに豹変するという設定も便利だ。
普通のキャラクターを変人キャラに豹変させる条件や事物を、変人スイッチと呼ぶ。
わかりやすい変人スイッチを設定すれば、変人キャラの美味しい所採りができる。

今回のテキストは以上である。
最後まで読んでくださったそこのあなた、本当にありがとうございましたm(__)m

参考文献
○ロバート・マッキー著、越前敏弥訳『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(フィルムアート社)(2018年)
○沼田やすひろ『超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方』(講談社)(2011年)
○Webサイト『コトバンク』内「政治体系」の項(https://kotobank.jp/word/政治体系-1178804)
○アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ著、新田享子訳『トラウマ類語辞典』(フィルムアート社)(2018年)
○Webサイト『シナリオ教室 ONLINE』内「キャラクターの作り方が分からない 人必読:脚本家 清水有生さん脚本術」内「キャラクターをタイプ別に分ける」の項(https://www.scenario.co.jp/online/23302/)

Xやってます。
https://x.com/ideology_theory
主に政治経済ネタをつぶやいてます。
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