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デジタルはゴールではなく接点。名古屋の商人KOMEHYOの強さは今も昔も「人」にあり

メルカリなどのフリマアプリが台頭し、勢力図が入り乱れる昨今のリユース市場。「店舗型リユースショップはデジタル戦略の遅れで苦戦を強いられている」と報じられることも多い中、そんな話はどこ吹く風。ひときわ異彩を放つリユース界の雄が名古屋にいることをご存知でしょうか。

高級ブランド品や宝飾品を中心に、楽器や着物まで幅広い商品を扱う「コメ兵」。1947年の創業以来、名古屋の大須商店街に本店を構える“リユースデパート”の老舗です。

KOMEHYOはリアル店舗に強みを持ちながら、オムニチャネル戦略に早くから取り組んできた企業としても有名。2000年からEC事業を展開し、現在はLINEでの査定やCtoC事業への挑戦など各種デジタル施策に積極的に取り組んでいます。フリマアプリの影響で商品数の確保が難しい企業もある中、KOMEHYOの買取額は今も右肩上がり。

そんなKOMEHYOのデジタル戦略を牽引するのが、株式会社コメ兵執行役員マーケティング統括部長の藤原 義昭(ふじはら よしあき)氏。数多くのメディアに取り上げられ、自らもEC専門メディアでマーケティング関連の連載を持っています。

時代の変化に負けない強いブランドを保ち続ける秘策とは——。

リアル店舗とEC双方をつなげる「オムニチャネル戦略」を推進しながら、スピーディな全社の事業推進を行っている藤原氏にお話を伺ってきました。

株式会社IDENTITYは『あらゆる領域にデジタルシフトを』という言葉を掲げ、企業のデジタルシフトを支援する会社です。このマガジンでは、デジタルを活用して旧来のビジネスモデルからの脱却や組織改革など、ユニークな取り組みに挑戦する企業や団体を紹介していきます。

時代の先を行くお客様にフィットする最適解は何か

デジタル施策に取り組み始めた際、どんな課題があったのでしょうか—。

SNSやアプリの普及、購買行動や決済方法の変化など、デジタルで解決したい「なんらかの課題」があるはずとの仮説を持っていた我々に対し、藤原氏から返ってきたのは意外な言葉でした。

「当社のようにデジタル出自ではない企業の場合、デジタルで課題を解決しようとか、デジタルで事業をやろうとはそもそも思いません。一番最初に考えるべきはお客様にどのような価値を提供できるかです」

特に意識していたのではなく、世の中のテクノロジーが発展するにつれ、既存の事業戦略にプラスオンする形でデジタル施策を採用する場面が自然に増えていったと言います。

「企業が持つアセットを使ってお客様にバリューを届けようとする時に、『これを使えばお客様にもっと良いサービスや体験を提供できるのでは?』と感じるなら、まずはそれを取り入れる。それが横に広がっていくイメージなのかもしれません」

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株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長 藤原義昭氏

KOMEHYOがEC事業を始めた2000年は”デジタル”の概念がまだ意識されていなかった時代。EC事業を拡大するにあたって藤原氏が意識したのは、ただ「お客様の生活にフィットしていくこと」でした。

「デジタル領域に関しては、常に企業よりもお客様の方が進んでいます。企業はそれにどうやってフィットしていくかという後追いをしている。お客様の生活を追いかけるためのソリューションが色々と出てくるので、どういうものを加えていけばお客様に商品を売り買いしていただけるか、それに尽きます」

デジタルとリアルの“使い分け”は意味がない

変化し続けるお客様に追いつき、フィットすることを実践してきたKOMEHYO。その手法は旧来のDMからLINE、オウンドメディアまで多岐に渡りますが、ベースにあるのはデジタルとアナログな手法を切り分けない考え方です。

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「使いわけるじゃなくて、一緒です。OMO(Online Merges with Offline)などの話はあると思うのですが、提供側がリアルとデジタルを使い分けるのって意味がないんです。なぜなら、お客様は企業のこだわりに対して何も感じていないので。例えば当社では紙のDMが効果が高いとわかっているので継続していますが、お客様に届くのはリアルな紙の媒体でも裏側はデジタル化しています。切り分けて考えずに一つのコミュニケーションとして運用していけばいい。あくまで考えるべきは、お客様の生活の中にどう溶け込んでいくかです」

お客様とのコミュニケーションで鍵になるのは手法よりコンテンツの力

リアル、デジタル問わず最適な手法を見極めるべきと説きつつも、KOMEHYOがお客様との関係において最も重要視しているのがブランドを伝える「コンテンツ」。マスがだめならデジタルで、SNSでと安易に手法をデジタルシフトするよりも、コンテンツ力を磨く必要性が昔よりも増していると藤原氏は言います。

その好事例がKOMEHYOのオウンドメディア「トケイ通信」。時計マニア向けのブログマガジンです。

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高級時計・ブランド時計にまつわる情報マガジン
「トケイ通信 by KOMEHYO」

「世の中の施策はフロー型とストック型に分けられます。お客様をリスティング広告で集め、買ってもらうサイクルを繰り返すのがフロー型。それだとお客様は全然貯まっていきません。でも会社の中にある知識を使ってトケイ通信のようなコンテンツをどんどん生み出せば資産として蓄積していきます。資産ってブランドなんです。フロー型で刈り取るのはブランドではなく刹那的に買わせているだけ。でも本来はKOMEHYOというブランドを感じ、好意を持ち、その上で商品を買ってほしい。広告費はゼロの方が良いわけです」

トケイ通信は時計の買取担当スタッフが自ら執筆しています。KOMEHYOを"良いブランド”に育てるには、このようなコンテンツが効くと藤原氏は確信を持ちます。

「最初はただ、好きに書いてほしいと頼みました。すごい知識を持つスタッフがいるのを知っていたんです。彼の頭の中にあるものを形にすれば、それはお客様にとって有用なものなので自然と良いコンテンツになる。マニアックすぎて僕が読んでもわからないことだらけでも、それでいいわけです。このメディアを全体戦略のどこに位置づけ、導線をどうするかなど売り上げに結びつけるプランニングはマーケティングチームの仕事。儲かる儲からないは別として、このコンテンツを通じて最終的にお客様に喜んでもらえることが重要ですね」

お客様を惹き付けるコンテンツづくりに重きを置くスタンスは、リアルな場でも変わりません。2019年11月に原宿で行ったイベント「HERMES MARGIELA POPUP STORE」もそのひとつ。結果として目標の倍近い売り上げを達成しました。

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ファッショニスタに人気のマルジェラ期のエルメスアイテムを300点集めた「HERMES MARGIELA POPUP STORE」

「僕としては、アイディアの種をいかに大きくしてあげられるかを考えています。現場の子たちには『こんな商品を集めてかっこいいことをやりたい!』を貫いてもらい、その魅力的なコンテンツを支える裏側の仕組はマーケティングの人間がやればいい。それぞれの役割です」

デジタルだけで終わらない顧客体験を

KOMEHYOがコンテンツを重視するのは、高級ブランド品や貴金属、着物など「高価格帯」の「中古品」をメインに取り扱っている事情が大きく影響しています。

「お客様はいきなりKOMEHYOを目指しては来ず、ロレックスやルイ・ヴィトンなどのブランド名をきっかけに当社のECサイトに辿り着きます。しかし同じ商品を取り扱うサイトは他にも多数あり、その中からKOMEHYOを選択してもらうには「差別化」が必要になります。そのためECサイトを“KOMEHYOならでは”を感じてもらう場と捉え、当社の強みである真贋ノウハウ、商品数、商品状態の良さなどの強みを訴求しています」

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それでもなお、高額の中古品をECサイトに一度訪れただけで購入してもらうことは難しい。通常のECサイトではゴールを「購入」に設定しますが、KOMEHYOの場合はサイト上で無理に完結させず、お客様を店舗に繋げる“橋渡し役”と考えているのが特徴です。

「お客様が買って良いかを判断するとき、サイト上の情報だけでは不十分だと感じるでしょう。どのような体験をするとうちを好きになり、また買ってもらえるかを考えたとき、店舗というフィジカルな部分はすごく重要だと思います」

デジタルだけで販売をしたくないと考えるのは、店舗での体験が、次に繋がる強いブランドづくりに欠かせないコンテンツだと信じているからです。

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「手間はかかっても、お店に足を運んでスタッフと会話をしたり、実際に商品を手に取ってみたり…。サイト上で視覚だけの買い物をするよりも、聴覚や触覚など五感をフルに使った買い物を楽しんでもらうのが理想です。こうした店舗体験を大切に思うからこそ、スタッフには『ここで買っていいのかな』ではなく『ここで買って良かった』と思える立ち振舞いや商品知識の教育をしっかりやってもらっています。そういうスタッフから一度買ってもらえると、もう一度買う行動が起きやすくなるんです。その際にお客様と接点を持てるデータを取らせていただき、次にDMなどで接触するときは『この前買ってよかったからまた行こう』のストーリーを作りたい。一度きりでさようならではなく長くお付き合いするためには、我々の会社を好きになってもらわないといけない。お客様は最初はKOMEHYOの暖簾で集まりますが、最後は人から買うんです。たぶんそれでいいんですよね」

最近では会社支給のスマホを活用し、スタッフが直接お客様とLINEで繋がるケースも多いと言います。コミュニケーションツールは電話や手紙からお客様のプラットフォームに合わせて変化していく。しかし店員の商品知識、提案力、個性などのコンテンツを最大の資産とするKOMEHYOの信念は、デジタルシフトをした現在も揺らぎません。

今後もKOMEHYOを感じられる取り組みをひたすらに

今後の展望についても、「デジタルでできる新しいことはそうそう無い」と言う藤原氏。

「重要なのは変化していくお客様にフィットしたコミュニケーションを続けることと、KOMEHYOブランドをきちんと頭の中に入れてもらう活動をすること。そういう方向にどんどん重きを移していきたいです。東海地方だと認知度があるのでブランド資産はわりと使えますが、関東や関西だと当社の認知度はすごく高いわけではありません。刈り取りではなく、お客さまと仲良くなることを一生懸命にやる。その手段はデジタルかもしれないし、リアルかもしれないですよね」

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手法論としてのデジタルシフトばかりが注目されますが、お客様を常に観察し、どうすれば価値ある体験を提供できるのかを考え抜くことを忘れてはならない。「自分たちがデジタルが得意と思ったことはないし、他社さんと比べることもない」。そう語る藤原氏の謙虚さに、表層的な手法論に揺らぐことはないKOMEHYOブランドの強さを見た気がしました。

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