自分の頭の中にあるものなんて大したことない。自分の頭の中にあるものを超えたビジュアルをみたいし、空間にいたい。だからこの仕事をやっています 〜鈴野浩一さんインタビュー〜
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【AAスツール】
スツール×持続可能性
2018年伊丹市立美術館でスタート、全国を巡回した『みんなのレオ・レオーニ展』ではじめてお仕事したトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さん。「展覧会を見終わったらまた絵本を読みたくなる展示」というコンセプトを素早く読み取り、『コロロデスク』を使うアイデアを提案してくれました。鈴野さんの仕事は建築だけに留まらず、エルメスのウィンドウディスプレイやジュエリーのデザインなど守備範囲は広く、どれもアイデアにあふれています。不動前のオフィスにうかがって話をお聞きすると、やさしい語り口ながら、言葉がどんどんあふれくる。そこにはお仕事に対する絶対的な自信が感じられました。
——今年の初めに石巻工房の「HOME BASE」に行ってきました。グッドデザイン賞のパンフレットの取材だったんですが、とてもいい空間でした。宿泊できる4部屋はそれぞれ4人のデザイナーが手掛けていて。(そのうちひと部屋はトラフ建築設計事務所が手掛けている)
鈴野浩一さん(以下、鈴野)宿泊できればよかったですね。いいオーディオとプロジェクター、そして大きなストーブがあります。
——ロングデザイン賞も獲得した石巻工房ですが、震災後鈴野さんはどのように関わっていたんですか?
鈴野 被災した石巻に働く場をつくらなきゃということで、商品化できるものを何か提案する必要がありました。エンツォ・マーリという著名なイタリアのデザイナーが、低所得者にも簡単につくれる家具の設計図をオープンソースとして提供する活動をしていました。その考え方に共鳴した「デザイン・イースト」という大阪のワークショップに呼ばれた際に、出てきたアイデアが『スカイデッキ』というプロダクトです。2×4の木材を切って組み立てるだけでできるので、高度な技術や専門的な道具は必要ありません。まだまだ素人の寄せ集めだった石巻工房でもつくれ、このアイテムと石巻工房の持っているスタンスが合致し、商品化されることになりました。
——確かにこれなら簡単につくれるし、持続可能性もありますね。
鈴野 こういう持続可能な商品の第2弾として『AAスツール』ができました。2×4の木材を無駄にせずに、一本の長さから一脚の椅子ができないかという考え方です。切り出すだけで座面と脚の部品になり、ビスとドリルがあれば組み立てられる。そうやって一脚のスツールをつくったんですが、うまくやれば重ねることができると気づき、AとAを重ねて使うAAスツールという製品名にしました。普段は2つ重ねて座っていて、誰かが訪ねてきたら、1個を分けてあげるというストーリーにしたんです。無駄なく簡単に道具のような椅子がつくれたらと思いました。さらに何個も重ねていけば、ベンチのようにもなるし、会議室に重ねておけば荷物置き場としても使用でき、打ち合わせが始まればバラして使えます。
——石巻工房があるからこのプロダクトが生まれてきた。
鈴野 そうですね。他の家具メーカーからの依頼だったらありえなかった。十分な技術も道具もそろってない場所だから、そこでどんなものがつくれるかという発想でした。そのシンプルな発想と道具のような美しさがカリモク家具の社長に響き、『AAスツールbyカリモク』ができたんです。カリモクに何が得意なのかって聞いたら、塗装ですという答えだった。塗ってはヤスリをかけてを何回も繰り返し、木目の良さを活かした美しい塗装ができている。その塗装技術を使って、カラフルな塗装や木目を活かした塗装のAAスツールが完成しました。
——お仕事を見ていると、制約があればあるほどいい答えを出しているように思えます。
鈴野 そうだと思います。僕たちは建築家だし、自由にやってくれと言われたら宇宙に放り出されたような感覚になってしまう。まず敷地があり、それを読み取ったり、法律の範囲の中で何ができるかを解きほぐしています。『空気の器』もそう。マテリアルが大理石だったら素材そのものに頼れるけれど、その辺にあるような紙に価値をつけなきゃいけない。AAスツールにしても、カリモクから3Dでなんでもできますと言われたら困っちゃう。造形からつくる建築家もいるけれど、僕たちは条件から読み取っていきます。
——もうひとつ感じるのが、グラフィックデザインに近いことです。空気の器の構造自体には建築家としての考えが反映されていると思いますが、表と裏で色を変えれば両方の色が影響してくるというのは極めてグラフィック的だなあと。
鈴野 それは広告的でもあるということなのかもしれません。若い時に「広告批評」を読み漁っていて、大貫卓也さんの発想の転換の仕方はすごく参考になった。AAスツールにしても、これ単独では成立していなくて、石巻工房をどういう方向にもっていくか、そのためのプロダクトはどうあるべきか、そのためのアイコンを探すという発想でした。さらに、社会的な事業なので、堅苦しくならず、ユーモラスにできないかという発想で『BIRD KIT』というプロダクトが生まれました。単体で考えるのではなく、全体をどう動かしていくか。そういう考えは広告が好きだったからかもしれません。
——レオ・レオーニの展覧会の仕事をご一緒させてもらって、空間を別のものに変換していく手腕にびっくりしました。『トラフのオバケ屋敷は”化かし屋敷”』もそう。レイヤーを幾重にも重ねていく感じといえばいいでしょうか。
鈴野 やっぱり敷地ありきで考えるのです。お化け屋敷そのものを持ってくるというよりも、美術館という場所を起点に夜怖いことってなんだろうって発想です。自分の原点に戻ってみると、文化祭で驚かされたのも楽しかったけど、驚かすほうも楽しかった。それで「化かし屋敷」。美術館が持っている絵画という財産を活かしつつ、予算にはまるようにするには来場者に驚かすほうもやってもらおうと。裏にまわり込むことができて、ハーフミラー越しに大声を出す。驚かされる側と驚かす側がインタラクティブにつながるのです。他の美術館からもやってほしいと問い合わせがあるんですが、できあがっているセットを梱包して送るわけではないので、巡回は難しいんですね。
——こういう発想を生み出す力に一番影響を受けた人は誰ですか?
鈴野 建築家なら妹島和世さんやピーター・ズンドー。広告だったら大貫さんやワイデン+ケネディとか。ナイキの仕事をしているのも、広告に対する憧れがあったからです。その中でも一番広告的だと思うのが、このエアフォース・ワンの25周年を祝う1年間限定のポップアップショップ。ナイキにとっては空間も広告であると考えました。2週間に一度20足の新しいシューズが入ってくるという条件に対してこちらが提案したのは「エアフォース・ワンの水族館」。熱狂的なファンにとっては好きなシューズに囲まれる空間、そこまで好きじゃない人にもブランドを体験してもらえる空間を目指しました。オープニングではすべてまっ白のエアフォース・ワンに一足だけ黒いシューズを入れました。これはレオ・レオーニのスイミーへのオマージュです。こういうのは建築というより広告的な考え方だと思います。建築を学ぶと、都市計画、建築、インテリアデザイン、プロダクトデザインというヒエラルキーになっていると教わるのですが、僕たちはそれらをなるべくフラットに捉えようとしています。このナイキの空間に来店する人はシューズという「モノ」を見にくる。だから、モノから発想して、インテリアを考え、それが都市にインパクトを与えられないかと考える。一般的な建築家とは逆の発想です。
——トラフのつくるものは毎回がオーダーメイド。クライアントだったり、街に上手にフィットさせています。
鈴野 それが醍醐味だったりします。そこでしかない条件、そこでしかないクライアントと、そこでしかつくれないものをつくる。自分の頭の中にあるものなんて大したことない。自分の頭の中にあるものを超えたビジュアルをみたいし、空間にいたい。だからこの仕事をやっています。敷地の力を最大限に引き出したアイデアこそが自分ではおもしろいと思っています。
——鈴野さんのお仕事がどれもアイデアにあふれている理由がわかりました。今日はありがとうございました。また何かご一緒できるまで、僕も腕を磨いておきます。
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