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デザインが立ちすぎているものは、どこか定着していないように感じてしまう。昔からそこにあったなというものをつくりたいと常々思っています 〜木住野彰悟さんインタビュー〜

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【出雲大社埼玉分院】
出雲×六角形

骨董通りと青山学院大学の間にある細い道を青山通りからちょっと入ったところに木住野彰悟さんのデザイン会社「6D」はあります。並びには僕の好きな1988年開店の「蔦」という喫茶店もあり、青山なのに落ち着いたエリア。グッドデザイン賞の審査委員をご一緒したことで、木住野さんのデザインに対するまっすぐなまなざしに触れることができ、実際にインタビューしてみると、憧れからスタートしたデザインへの恩返しのような思いが、出てくる言葉から感じられました。

——木住野さんの仕事ってアイデアが明快なんです。佇まいが良いとか曖昧なことじゃなく。その秘訣ってなんでしょうか。

木住野彰悟さん(以下、木住野) 感じられるデザインにするためには、アイデアとそれを受け入れるディテールの両方を持っていないといけないと思っています。また、仕事を成立させるにはプレゼンでクライアントに納得してもらわなきゃいけない。強い納得を得た上で決まり事をつくって、ディテールで追い込むという流れで仕事をしてるので、そのためにはアイデアが必要。納得がないと完成までの過程でブレてしまい、アウトプットでグダグダになる。現場が動き出すとパッケージデザインもサイン計画も、リアリティに落とし込む段階で難しい問題が起こることが多いけれど、アイデアが握れていればなんとかなります。例えば、小田急線登戸駅のドラえもんのサインの仕事でいえば、キャラクターを出したいというクライアントと、露出が多すぎるとよくないから出したくないっていう藤子プロの構図でした。それに対する僕の提案は「出さずに出す」。ドラえもんと認識できるように色面で表現するというアイデアです。アイデアが好きというよりも、そのほうがうまくいき、定着も安定するわけです。他にも埼玉県の病院「my CLINIC」のパイプでつくったサインというアイデアがあるんですけど、これはスタート時から予算がないということでした。サインのための板面を立てるとなると、風にも負けない強度にするための土台が必要です。でもパイプなら土台もそこまで必要ないから安く済む。実際にパイプを曲げようとしたらすごく大変で、機械で曲げられる工場を見つけられたからなんとか実現できたわけですが。

小田急線登戸駅のサイン計画

——実装段階でやっぱりできませんでしたってことはないんですか?

木住野 アイデアで進めてみたけどダメだったら変更することもあります。実際にちょっとでも既製品じゃないものでやろうとするとめちゃめちゃハードルが上がる。シンプルであればあるほど、お金がかかる。だから現在街中にあるものは既製品が多いのです。既製品だらけになるとつまらない空間になってしまう。だからいつもそこでもがいています。

——アイデアを形にする際には素材に対する知識は大切です。もうすでにかなりの知識量を蓄えていると思いますが、それでも毎回新しい素材にチャレンジしたいんですね。

木住野 僕は特に奇をてらったものをつくりたいわけじゃないのです。例えばダンボールなんだけど表面はアラベールにするとか、その程度のこと。でもそれって高くつくんですよね。それでも工場を探して少しでも安くする。そのためには現状に満足せず、常に写真を撮ったり現物を保管したりして素材採集をしています。かつて田中一光さんがデスクの引き出しに特色の紙の切れ端を収集していたというエピソードを聞いてから、カッコいいなと思って真似してます。サインって足元の収まりが重要なんですが、仕事ごとに毎回業者が変わるから、だいたい「できない」って言われちゃうんですが、過去に集めた写真を見せると説得力が違う。溶接の具合とか、裏側がどうなってるとか、気になったらすぐに写真に収めます。しかも、その採集をたのしんでやっている(笑)。

埼玉県「my CLINIC」のサイン計画

——でも、そういう部分にアイデアが集約されているかもしれない。

木住野 そうです。だから、そのことをずっとやっていきたい。デザインシンキング的なことよりも職人的なこと。ビジュアルアイデンティティはつくれるけれど、ブランディングではない。言いたいことはないけれど、つくりたいものはある。ビジュアルで感じられるものをつくれるかというのが、僕の最大命題。働き盛りだと自分ができもしないのに周りを気にして背伸びしたことをやろうとしたりすることもあるかもしれないけれど、僕はコロナ中に考える時間があって、自分的には整理できてすっきりしました。

——出雲大社埼玉分院のお仕事が好きです。精神性という見えないものをカタチにするということをやられていて、うらやましく感じました。

木住野 ありがとうございます。僕は伊勢神宮に毎年行ってまして、お祓いが好きなんです。嫌なことが続くと明治神宮に行ったり。験担ぎも好きで、プレゼン前に亀の水槽の掃除をするとか。そういうタイプなので神社系は元々大好き。話は逸れますが、お祓いに積極的に行く人は、やりたいこと、お願いしたいことがはっきりしている。そういう人は行動や目的が明確で、漠然といいことありますようにじゃなくて、対象に対して最短距離を走っている人なんだそうです。そんな人間に出雲大社埼玉分院の仕事がきました。神社仏閣系のリニューアルは最近色々な場所で行われているのですが、その中でベストを見つけ出したいです。江戸時代まで続いてきた日本の文化に明治以降西洋文化が入ってきました。その中にデザインやアートディレクションもあります。何千年と続いている神社がもつ精神性に現代のデザイナーが手を出すと、流れを分断してしまう可能性がある。だから、江戸より昔から継承されてきたものを引き継いで、僕もどこかの誰かにつないでいくという感覚でやらなきゃと思った。そのためにディテールがすごく大事だと思いました。日本らしいラインを再現するために端を反り返らせたり。出雲には祝凧という文化があるから、創作家紋をつくって凧にしたり。出雲に足を運んでみると雲が多い。雲がよく発生する場所だから「出雲」って名前になったという謂れがあり、さらに現地でよく使われている家紋が六角形だったから、その2つを合わせてメインとなる神紋をつくりました。そうやってモダンなデザインに陥らないように細心の注意をはらって進めていきました。

出雲大社埼玉分院の絵馬

——アイデアはあるんだけど、奇をてらっていない。そこには木住野イズムみたいなものが元々あるんでしょうか?

木住野 要は普通なんです(笑)。僕としてはデザインが立ちすぎているものは、どこか定着していないように感じてしまう。昔からそこにあったなというものをつくりたいと常々思っています。グラフィックデザインってコミュニケーション。何かと何かの間にあるものです。良いコミュニケーションを増やすことが仕事だと思うんです 。

——こういう風にデザインの話を突っ込んですることがなかなかなかったので、今日お話を聞いて木住野さんにはデザインに対する太いものがあるなと改めて感じました。僕も負けずにがんばっていこうと思います。ありがとうございました。


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