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大学教授が民間企業に再就職した理由
はじめに
2024年3月で筑波大学を定年退職された原田悦子先生が,イデアラボのリサーチディレクターに就任されました。
広報の私が,代表から「原田先生がイデアラボに入ってくれるらしい」と聞いた時は「ええっ!?そんなことあるんですか?」と喜び半分驚き半分だったことを覚えています。イデアラボは良い会社ですが,正統派アカデミアで精力的な活動をしている先生の転職先に選ばれるなんて…。
入社後,いろいろとお話を伺ってみると,これまでのイメージだけからはわからなかった原田先生の軽やかなお人柄が見えてきました。
知的好奇心を刺激する楽しいことに目がなく,多趣味でフットワークの軽い原田先生を見ていると,イデアラボへの転職は驚きではなく「なるほど原田先生ならそうするかも」と納得に変わったのでした。
日本アイ・ビー・エム株式会社での研究員,法政大学で約20年,筑波大学で13年の教員生活を経て,ベンチャー企業での新たなキャリアをスタートさせた原田先生の転職物語をご紹介します。
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イデアラボを選んだのは,「おもしろい」方の選択肢だったから
時代の変化で,再就職は多様化
私が大学の教員になった頃って,先生方は皆さん,だいたい定年前には「次の大学」が決まっていらっしゃるような時代でした。そういうものだと思っていたんですよね。でも,5−6年ぐらい前からだんだんそういう話を聞かなくなってきて,退職後の再就職のお誘いを簡単に受けられる時代ではないという感覚がありました。
それで「次の大学」に行くにしても,新設学部で新しいことしてみるとか,何か「おもしろい」ことをしたいと思って一応公募も出したりしていたんですよね。
そんな話をすると,共同研究者に若い人の職を奪うようなことしたらダメじゃないですかと叱られましたが(笑)。
イデアラボのことは以前から(客の視点から)お金さえあればいろいろお願いできるのにな…とは思っていたのですが,ある時に大学院の学生さんが「自分は大学に就職することには全然興味ない」と言っていて。じゃあどこに就職したいの?と聞くと「イデアラボとか」と言ったんですよね。それでふと,イデアラボに”就職する”という選択肢があることに気づいて,それは「おもしろい」だろうなと思いました。
「他の人と違うことした方が絶対おもしろいよ」研究者だった夫の言葉
「おもしろい」という価値観は,自他ともに認める(笑)変わり者だった夫が常に大事にしていた言葉でした。
私が旧姓を使い続けているのも夫が「そっちの方が面白いじゃない」と言った影響が大きいです。
彼に「おもしろいから」と言われてやってみて大変だったこともいっぱいあるんですけど(笑)それではじめてわかったこともたくさんあった。それ以来,「おもしろい」というのは自分の中の選択基準になっていて,イデアラボへの就職はその「おもしろい」方だと思って選びました。
おもしろい=知らない部分がいっぱいあるということ
私自身,大学でいろいろ共同研究してきたし,企業にいたこともあるんですけど,民間企業の立場で他社に入り込んで研究のサポート,コンサルをすることで今までと違う景色が見られると思ったんですよね。
もうひとつは,筑波大学で「みんなの使いやすさラボ(以下「みんラボ」)」を12年間自分で運営して経営的な面での苦労をしたことが大きかったと思います。周りからもみんラボを事業として独立させてほしいという声はずっとあったのですが,頑として「私には無理」と言ってきていました。それって「おもしろい」の範囲を超えているので(笑)。
それだけに,イデアラボはどうしてビジネスとしてやれているんだろう?というのが知りたくて。
定年退職というストレスを乗り越えて
定年後のことは事前に計画していたわけではなかった
なんとなく,この辺でもうそろそろ(定年を見据えて)「今までとは違うこと」をやんなきゃいけないんだっていうのはわかっていても,ちゃんと真面目に考えてこなかったというか…「いや,この人生がずっと続く」というか,今後もずっと「やりたいことを同じようにやっていける」と思っていた気がします。
でもその日(定年)が近づくにつれて,いろんなことが「やりたくてもできない」現実が見えてきて…イデアラボへの転職が確定するまでは本気で悩むというか,何をどうすればいいかわからないという感じはありましたね。ありふれた言い方ですけど,自分が社会から必要とされていないような気がして,定年退職が人生にもたらすストレスをものすごく感じました。
私はまだ働きたい
日本の雇用制度上定年が必要な事情はわかっていますが,働きたいかどうかは個人差も大きいので,年齢で一律にリタイヤが決められていることには「非合理性」を感じていました。同年代でもう疲れちゃったから仕事はしたくないという人もたくさんいますけど,私はまだ(微塵も)そういう気持ちになれなくって。
2013年に夫が亡くなったあと,人生の主軸を仕事にしていたというか,仕事をすることでいろんなものを乗り越えてきた,という感覚があったので,「この私が仕事をしないなんてどうしよう」というのもあったように思います。
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ものづくりの楽しさを仲間と共有できれば
イデアラボの環境は?
一言でいうと…楽しいです。イデアラボのオフィスに行っても誰もいないことも多いですけど(笑),会えば専門的な話がスルスルっとできて,かつみんな一生懸命研究しているっていうのが,本当に楽しい。イデアラボには”良い学会”みたいな雰囲気が残っている感じ。
自分の学生さんにも言ってきたんですけど,個人的には,もちろんペーパー(論文)を書くことは大事,でもそれだけが最終目的ではない,という思いがあるんですよね。
だから最初の就職(IBM)も,ものづくりの現場に近い基礎研究というのを選んだし,IBMでは「人間にとって一番良いコンピューターは何か?」をみんなが共通して考えていた。一緒に考えて語れる仲間がいることが楽しかったですよね。
共通の目標にはいろんな形があると思うんですけど,サービスや制度も含めた広い意味でのものづくりに目的を持っている人とは話が合うというか,「できたらいいよね」のワクワクを共有できるときに,楽しいなと思います。
目線を変えて「使いやすさ」を問い続けたい
今後やってみたいことは?
まずはビジネスとしての研究サポート,研究コンサルを身につけたいし,その魅力がちゃんと伝えられるといいなとは思います。
日本の文化がそうさせるのか,学生さんの中には「ビジネス」という言葉だけに反応して「ああ,要は金儲けですよね?」というふうに見られてしまうことがあるんですよね。でも,そこはちょっと違うんだよということを伝えたい。それはやってみたいというか,やらなきゃいけないことだなと思いますね。
やってみたいのはやっぱり…海外サテライトですかね。
行きたい場所はいろいろあるんですけど,お仕事面では人間中心設計が根付いている,あるいは高齢者など福祉の制度が最も進んでいる北欧でやりたいです。北欧の事例を見ていると「…なんでそれができるの?」という話がいっぱいあるんですよね。話を聞いていくと,小学校の時から「社会的意思決定」を誰もができるようになっているそうで。そういう風土でのモノづくりを体験しながら「じゃあ日本はどうするか?」を考えたいなとずっと思っています。北欧,素敵ですよ。(笑)
ちなみに,住みやすさで考えたらカナダです。以前トロント近辺に住んでいたことがあるんですが,とても良いところで本当に大好き。
外国人の立場で見える「住みやすさ」
昔,ニューヨークに遊びに行った時 ”carrot cake" って言われたのが全然わからなかったことがあって,3回聞き直したんですけど,聞き直すたびに早口になっていく。わからんって言ってるのに同じこと早口で言ってもわかるわけないでしょ!と思いながら,こういうふうに考えられるのはカナダの人のおかげだなと思いました。カナダの人はそういう時ゆっくり喋ってくれたり,違う言葉に言い換えたり,それでもわからなければ違う人を呼んできてくれる…というのが普通でした。ちゃんとした英語が喋れない,わからない人がいるのは当たり前,という感覚でみんなが接してくれるのが良かったですね。
なんでそういう文化なの?と周りのカナダ人に聞いてみると,誰に聞いてもみんな「助け合わないと寒くて死んじゃうからね」と言ってましたけど(笑)。
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人に変えられるのではなく「変えていく」チャレンジを続けたい
私が自分のキャリアを通じてずっと意識していることは「Keep Changing」です。これは私自身が夫からずっと言われていた言葉なんですけど。彼は,変わり続けることが「おもしろい」ことだし,大事なことだと。かつて転職に悩んだときも「良い悪いじゃなくて,自分が変われると思えるなら価値がある」と言ってくれました。
私はどちらかといえば保守的なので,守りに入りがちな人間なんですけど,いやここはKeep Changingだ!と思って,ちょっと辛いかもしれないけど自分で自分を変えていく方向に舵を切るのがいいかなと思っています。
人に言われて「変えられてしまう」のではなくて自分が「変えていく」ことにも価値があると思っていて,そうするとまたきっと何か新しいものが見えてくるよ,って卒業生なんかには偉そうに言っています(笑)
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おわりに
原田先生は表情豊かに,楽しそうにお話ししてくださったのが印象的でした。記事には入れられませんでしたが,ヨーロッパの夏を彩る音楽祭の話や趣味のバレエ鑑賞についてなど,聞いているこちらの心を別世界に連れて行ってくれるような素敵なご経験も話してくださいました。今後のご活躍についてもイデアラボから発信していきたいと思います。
原田悦子
教育学博士。筑波大学名誉教授・客員教授。みんなの使いやすさラボ研究代表の一人。
筑波大学大学院心理学研究科修了後,日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所研究員(認知工学グループ),法政大学社会学部,筑波大学人間系心理学域教授を経て,2024年から株式会社イデアラボのリサーチディレクター。
専門領域は認知科学,認知心理学,認知工学。「人にとってのモノの使いやすさ」をテーマとする。
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