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素人の考古学―北部九州装飾古墳4/8(抽象壁画系1)

1/8~3/8まで、横穴墓線刻画系、横穴墓浮彫系、墳丘墓石棺系、墳丘墓石障系と見てきたが、今回は、墳丘墓抽象壁画系を見ていきます。

(5)-1壁画(抽象画)系(福岡県 王塚古墳)
 全長約86mの前方後円墳 6c中頃
前方部径約60m、後円部径56m、2段築成で葺石・埴輪を備える。後円部北西方向に入口を持つ横穴式石室で、未盗掘。前室・後室からなる複式構造。後室は長さ約4.5m、幅約3m、高さ約3.5m。奥壁上段には石棚があり、その下には2体分の石枕を備えた石屋形がある。その前面に灯明台あり。

赤・黄・緑・黒・白(装飾古墳では最多の5色)の顔料を用いて図文や彩色によりほぼ全面が埋め尽くされている。文様は同心円文や連続三角文、蕨手文、双脚輪状文、武器、武具、騎馬人物など多岐にわたり、なかでも双脚輪状文は珍しい。国指定特別史跡。

銅鏡や玉類、武器・武具、馬具、土師器、須恵器など出土品は全て重要文化財に指定。


(福岡県 王塚古墳)

<王塚古墳の絵画が意味するもの>
床石から天井までの全面を真っ赤に塗っている。前室と後室からなり前室には左右に黒馬と赤馬が5頭描かれており、冨や権力を表している。後室の壁には三角文や盾などが描かれている。三角文は魔物を避ける力があると信じられている。天井には星とされる黄色い点がちりばめられている。死後の世界でも寂しくないように死者の魂を慰めるため不思議な文様や色彩感覚でハデハデに飾り立てた古代人の優しさが感じられる。
壮大で華麗な素晴らしい壁画を持った古墳である。

(5)-2壁画(抽象画)系(熊本県 チブサン古墳)
 全長約45mの前方後円墳 6c前半の築造
前方部幅約16m・高さ約6m、後円部径約23m・高さ約7m、墳丘からは葺石・埴輪のほか武装した石人1体が出土。周溝あり。
後円部南に羨道をもつ、前室・後室の複数の横穴式石室を設け、石室内の石屋形内壁と屋根の軒部前面に装飾文が描かれている。内側石の上段に白の円文7個、下段に冠をつけ両手、両足を広げた人物像とその右に三角文を白色で、その他は赤色で塗っている。正面の側石に三角文・菱形文を主体に正面中央に円文を描き、赤・白・青の三色で塗り分けてある。特に、中央に描かれている装飾の紋様が女性の乳房に似ていることから、「乳の神様」(別称)として現在に至るまで崇められており、「乳房さん」が訛って今の古墳の名になったとも言われている。 国指定史跡。

(熊本県 チブサン古墳)

<チブサン古墳の絵画の意味するもの>
 人物像は埋葬者の霊に祈りをささげる巫女、または埋葬者の頭部辺りに描かれているので、モガリ中の死者の再生を祈る祈祷者か、再生までを守る警護者だとされている。その場合の上の七つの円文は北斗七星になる。
珍説として、七つの円文は基地から飛び立つ円盤型宇宙船で、左側に両手を振って宇宙船を見送る宇宙人が描かれているという解釈もある。

(5)-3壁画(抽象画)系(熊本県 塚坊主古墳)
 全長43.4mの前方後円墳 6c初頭の築造
前方部幅20m・後円部径29.6m、周溝を備える。埋葬施設は後円部南側、くびれ部に向け入り口をもつ横穴式石室。複室構造。玄室部は長さ約2.7m・幅約2.5m、奥壁に沿って石屋形があり、その手前には仕切り石による屍床がある。
石屋形の内壁には赤と白の顔料を用いて円文や三角文、菱形文が描かれている。
出土遺物は四獣鏡や金環、銀環、馬具、武器類など。周溝内からも円筒埴輪や人物埴輪、鳥形埴輪、須恵器などが出土している。国指定史跡。


(熊本県 塚坊主古墳)

(5)-4壁画(抽象画)系(福岡県 珍敷塚古墳)
 屋形古墳群を代表する装飾古墳。墳丘は失われているが6世紀後半に築造された円墳。
採土工事中に石室石材(花崗岩)が出土したのがきっかけ。
埋葬施設は西に開口する横穴式石室。奥壁と側壁の一部が残るのみ。奥壁は幅約2m・高さ約1m、壁面には船を漕ぐ人や鳥、ヒキガエル、靫、蕨手文様などが赤や青の顔料と岩肌の地色(黄)を利用して描かれている。側壁にも赤の顔料で同心円文がある。国指定史跡。


(福岡県 珍敷塚古墳)

<珍敷塚古墳の絵画の意味するもの>
古代人の信仰思想の一端をうかがい知ることができる。
左上には大きな同心円文が、その下にはゴンドラ形の船がある。その船の舳先には鳥が止まっており、櫂を持つ人物が船を操る姿が見える。中央には死者を守るためのものか、弓矢が入った靫が3個並んでおり、大きな蕨手文が左の靫の間から描かれている。右側の靫の隣には弓と楯を持った人がおり、その下には古代中国で月を表す図文であるといわれるヒキガエルが2匹描かれ、上のヒキガエルの横には小円文がある。この様に、珍敷塚古墳の壁画には、ここの葬られた人物が、太陽の輝く陽の世界から、月の支配する陰の世界へ、鳥の導く船で現世から来世へと旅立とうとする姿が表わされているといわれる。(パンフレットより)

  (以上は各資料館のパンフレットやチラシを参考にしています)
                 以上
                小兵衛


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