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素人の考古学―北部九州装飾古墳1/8(装飾古墳とは)

1. 装飾古墳とは

全国におよそ660基ありそのうち60%は九州にあり、さらにその30%は熊本県に集中しており、5~6世紀にかけてつくられたと考えられている。

装飾古墳は、主に石室の内壁や天井に描かれた壁画や彫刻などが特徴。これらの装飾は、古墳の主である被葬者の地位や権力、宗教的な信仰を示すために施された。

以下は、装飾古墳に見られる主な装飾の種類である。

1.壁画:装飾古墳の中でも特に有名なのが壁画。壁画には、人物、動物、幾何学模様、宗教的なシンボルなどが描かれている。例えば、福岡県の竹原古墳では、馬に乗った武士や弓を持った人物の壁画が見られる。

2.彫刻:石室の壁や天井に彫られた彫刻も重要な装飾である。これらの彫刻は、精巧な技術で作られており、当時の技術の高さを物語っている。熊本県の岩戸山古墳では、神話や伝説に登場する生物の彫刻が見られる。

3.彩色:壁画や彫刻には、鮮やかな色彩が施されていることが多い。これにより、装飾がより一層華やかに見え、被葬者の権威を象徴している。

 地域ごとの装飾古墳の違い

装飾古墳は日本各地に存在するが、地域によって装飾のスタイルやモチーフに違いがある。特に、九州地方には多くの装飾古墳が集中しており、各地で独自の特徴を持っている。

  • 九州地方:多くの装飾古墳があり、人物像や動物像が豊富に描かれているのが特徴。竹原古墳や岩戸山古墳が代表例。

  • 近畿地方:幾何学模様や抽象的なデザインが多く見られる。これにより、装飾の意味がより神秘的に感じられることが多い。大阪府高井田横穴が代表例。

  • 関東地方:比較的シンプルな装飾が施されていることが多。しかし、そのシンプルさが逆に古墳の荘厳さを引き立てている。茨城県虎塚古墳が代表例。

古墳文化の中心とされる近畿からの影響ではなく、各地でそれぞれ展開を見せたのが装飾古墳の最大の特徴といえる。

 装飾古墳の意義

海外の壁画が故人の生前の栄耀栄華を描いて目的がはっきりしているのに対して、日本の場合は幾何学文様があり、抽象的で何を意味しているのか色々な解釈がなされている。
時代や地域によって装飾の内容に変化がみられることから、古墳時代の死生観や葬送儀礼の変化、地域差を知るうえで極めて高い価値を有している。

 2.装飾が描かれる場所
①横穴の内部や外面
 横穴墓の内部や入口の外壁。
②石棺
 遺骸を収めるを石材で造ったもの。大型の石棺には、石材を刳り抜いたものと組み合わせたものがある。刳抜式の割竹形石棺舟形石棺、組合式の箱形石棺長持形石棺家形石棺がある。
③石障
 玄室内を区切る為に棺のほか壁に石板を立て石障や石屋形(家形の石棺)を設けたものがある。石障は側板を3方に建てたものであり、石屋形はその上に石板で天井を設けたものである。

④横穴式石室の壁面
 横穴式石室の前室や後室及び羨道の壁や天井あるいは羨門の両脇の石柱、羨道部の板石など。

3.装飾技法
①線刻
 抽象画や人物、動物、弓矢のようなものを釘あるいはナイフのようなもので描いたもの。
②浮彫
 ナイフのようなものでレリーフのように浮き上がらせたもの。
③壁画(抽象画)
 直孤文、連続三角文、菱形文、蕨手文、双脚輪状文(全国で4例のみ)などで、赤・黄・緑・黒・白の顔料を用いて彩色したものがある。同時に人や鳥、ヒキガエル、靭、武器など具象画が描かれているものもある。
④壁画(具象画)
 人物や動物、船、弓、靭、さしば、波、旗などを赤・緑・黒の3色顔料を用いて爽やかに描かれている。
⑤壁画(精細画)
 高松塚古墳やキトラ古墳は上記の装飾古墳と制作年代も1世紀以上離れており、絵画も精細に描かれ、顔料も大陸からのものが利用されているので、上記の装飾古墳とは区別される。

4.装飾に描かれたさまざまな文様
①抽象画文様
直弧文、重圏文、二重渦文、変形二重渦文、双脚輪状文、蕨手文、双曲文、連続渦文、三角文、連続菱形三角文、同心円などを浮彫または赤、黄、緑、黒、白の5色の顔料を用いて描かれている。

直線と弧線を組み合わせた文様を直弧文という。直弧文が描かれている装飾古墳は5世紀につくられたものが多いので九州最古のタイプとされ、6世紀に入ると姿を消していく。
この複雑で不思議な文様は4~6世紀の本州で多様に使われ、特に武具に施されていた。井寺古墳では赤・青・白・緑に塗り分けられた多数の直弧文を見ることがでる。
円文は輪状と塗りつぶしたものがあり、コンパスを使って美しく描かれたものも多数ある。
5~7世紀前半につくられた多くの装飾古墳に描かれており、その分布も広範囲に渡っている。その意味するところは、死者のためには当然描くべき重要なシンボルであったことが推測される。
1つの中心を元に複数の円を組み合わせた文様でコンパスを使って描かれたものが多数ある。同心円文も円文同様多数の装飾古墳に描かれており、鏡、太陽、また呪術を意味する渦巻き文様を簡便に変化させたものではなかという説がある。
三角形の文様で、線状と塗りつぶしたものがあり、6~7世紀の多くの装飾古墳で見られる。朝鮮半島の古代呪術における三角文は「再生」を意味すると言われているが、日本では「魔を祓う」意味があるのではないかと思われる。
菱形の文様を指すが、三角文を並べた際にできる空間がこの形になっているものもある。
赤、白、青に塗り分けられた菱形文もある。
連続三角文は複数の三角文を並べたものをこう呼んでいる。多数の三角形が5段に並び、できた空間に塗りつぶした円文6個が配置されているなど、大変美しい壁画となっている。
三角文の組み合わせの1つ。のこぎりの歯のような文様で、左の文様は古墳の羨道の鋸歯文を図案化したもの。入り口にあることから侵入者を拒む効果もあったのではないか。
蕨手文 (わらびてもん)は わらびの形をした文様で、ほとんどが2つを背中合わせに組み合わせた形をしており、主題が渦巻きであることから呪術を意味すると言われている。この文様のある古墳は大変少なく、九州にある約270の装飾古墳のうち、8~9の古墳にしか認められていない。なお、この文様を持つ古墳の被葬者は同じ一族ではないかと推測される。
矢を収納する入れ物で背中に背負って使うため、奴凧のような形のものが多く見られる。
熊本市の千金甲古墳には緑色に塗られた8個の靫と6個の弓を、交互にきちんときれいに並べるなど、多数の装飾古墳に描かれている。
靫負部(ゆげいべ)または靫を作る職業集団との関わりも推測される。
盾などの武具が描かれる場合、船や人、馬、鳥などと併せて描かれる場合が多く、そういったケースではシンボルとしての文様ではなく、被葬者の生前、死後の様子を説明する叙事詩的な構成アイテムの1つと考えられる。
鍵手文は直弧文の一種とされている。左の文様は福岡県久留米市の日輪寺古墳の線刻を図案化したもので、同心円文2個にはさまれた長方形の空間に、縦3段、横4個計12個が描かれている。同じく浦山古墳、千金甲1号墳、国越古墳でも見ることがでる。
双脚輪状文は輪に2つの足がついている文様で、何とも不思議な雰囲気を持っている。左の文様は熊本県の釜尾古墳のものを図案化したもので、王塚古墳、弘化谷古墳、横山古墳の合計4つの古墳にしか見られない特別な文様である。この文様を持つ古墳の被葬者は同じ一族ではないかと推測されている。
翳(さしば)は中国から渡ってきた儀式に使う持ち手の長いうちわで、王族などの貴人用。
竹原古墳、乗場古墳、永池古墳、不知火塚原古墳1号にも認められている。左の文様は熊本県山鹿市 鍋田横穴群27号の入り口脇の外壁に浮き彫りされた弓矢を図案化してみたもの。一般的な靫(ゆき・ゆぎ)の大きさに比すると矢が短いという印象だが、美しい紡錘形の先端には興味深いものがある。
鞆(とも)は弓で矢を放った後、弓の弦(つる)が左手に当たるため、左手首の内側につけて手を保護する道具である。革製で中に詰め物が入っている。左の文様は五郎山古墳に描かれた鞆でり、 重定古墳、鬼の岩屋1号墳、御霊塚古墳にも描かれている。
②具象画
人、動物(龍、馬、鳥、魚、蛙、蛇)、武器や武具(刀、盾、弓矢、靭、短甲)、船、オール、家、太陽、月、特殊な文様(蕨手文、双脚輪状文、四神)など。

        (以上は各資料館のパンフレットやチラシを参考)

次回より主な装飾古墳について横穴墓系・石棺系・石障系・壁画系に分けて見学記を書きます。

                以上
               小兵衛


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