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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー31ー
「死神のマネージャー」
向井はそんな彼らをおいて死神課にやってきた。
「向井さん。くるみ君の書類審査通りましたよ。
まあ、当然ですけどね」
セイが自慢げに言う。
「今、シェデムを呼んだので、
ちょっと待っててくださいね」
くるみの受ける舞台は、
「ザ・ダンス」というミュージカル。
ジャズダンス、バレエ、タップダンスなどの、
ダンスがメインのストーリーだ。
踊りっぱなしという作品で評判になり、
一般公募でダンサーオーデションをするという事でも話題を呼んだ。
重要な役のプロダンサーはすでに配役が決まっているが、
メインキャストの一部が歌やセリフの略ないダンサー役になる為、
ダンサーはこぞってオーデションに参加していた。
くるみはその中のストリートダンサー役を見て、
ずっと出たいと言っていたので、
オーデションに間に合ったことに向井はホッとしていた。
この後はダンスと面接で決まる。
最後に大きな舞台に立って、
悔いなく次の人生へと踏み出してほしい。
向井がカウンターで待っていると、
「お待たせしました。
彼女がシェデムです。
次のオーデションからはシェデムが同行します」
童顔だが印象としては秘書のようで、
身長も考えていたより高めだ。
「シェデムです。
先程くるみさんのレッスンを見てきましたが、
二次は通過するでしょうから、
最終まで通ったら舞台終了まで私がケアにあたります」
向井が安堵の表情になったのを見てセイが補足した。
「彼女は死神の中では、
多くのグループセクレタリーを経験してきたので、
アシストは任せられますよ」
「まあ、秘書という名の何でも屋です」
シェデムが小さく微笑んだ。
オーデションが終わるとキャストの発表。
公演は2ヵ月後なので舞台が無事終わるまで、
シェデムにはくるみの手助けをお願いすることになる。
「有難うございます。
くるみ君の頑張りを見てきたので安心しました。
宜しくお願いします」
向井は頭を下げると気がかりの一つが消えて胸をなでおろした。
死神課を出た後、
その足でトレーニングルームに向かった。
室内に入るといつもはにぎやかな場所に、
死神の姿も少ない。
恐らく除去課の方に駆り出されているのだろう。
くるみの姿も見当たらず向井が立ち止まっていると、
ランニングマシンに佐久間の姿があった。
「あれ? 佐久間さん。トレーニングですか? 」
佐久間は向井の声に走りを緩め、
ゆっくり歩きながらマシンを止めた。
「牧野君に付き合って移動してるので、
死人と言えども体力がね」
佐久間は息を整えると近づいてきた。
「停止した年齢が三十五なので丁度下り坂の年でしょう。
二十一歳の子と行動を共にするのは正直キツイですよ」
「確かに安達君と違って牧野君は動きっぱなしですからね。
ハハハハ」
向井が笑った。
「くるみ君に用ですか?
少し前までレッスンしてましたけど、
さっきティン君とエルフさんと一緒に、
ウェアを買いに行きましたよ」
「そうですか。
別に用というわけではないんだけど、
マネージャーが決まったので話をしておこうかなと思って」
「くるみ君、
ティン君のファッションに憧れてるみたいで、
ティン御用達のショップに行くって嬉しそうでしたからね。
着用するのはティン君ですけど踊るのはくるみ君なので、
動きに合わせたものがいいだろうと」
「まあ、久しぶりのダンスだし緊張もしていると思うから、
いい気分転換になるかな」
向井はそれだけ言うと、
「じゃあ、戻ってきてから報告しますか」
佐久間と別れ、部屋を後にした。
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